Repository: meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract Branch: main Commit: 0458e06e37c0 Files: 25 Total size: 219.0 KB Directory structure: gitextract_su_uzdxa/ ├── .github/ │ ├── ISSUE_TEMPLATE/ │ │ └── Template.md │ └── workflows/ │ └── markdownlint.yml ├── .markdownlint.yml ├── 1_モデル契約書v1_0_秘密保持契約書(新素材編)_逐条解説あり.md ├── 2_モデル契約書v1_0_技術検証(PoC)契約書(新素材編)_逐条解説あり.md ├── 3_モデル契約書v1_0_共同研究開発契約書(新素材編)_逐条解説あり.md ├── 4_モデル契約書v1_0_ライセンス契約書(新素材編)_逐条解説あり.md ├── 5_モデル契約書v1_0_秘密保持契約書(AI編)_逐条解説あり.md ├── 6_モデル契約書v1_0_技術検証(PoC)契約書(AI編)_逐条解説あり.md ├── 7_モデル契約書v1_0_共同研究開発契約書(AI編)_逐条解説あり.md ├── 8_モデル契約書v1_0_利用契約書(AI編)_逐条解説あり.md ├── LICENSE ├── MANUAL.md ├── MANUAL_ISSUE.md ├── OPERATION_POLICY.md ├── README.md ├── suggestions/ │ └── .keep └── word/ ├── 1_モデル契約書v1_0_秘密保持契約書(新素材編)_逐条解説あり.docx ├── 2_モデル契約書v1_0_技術検証(PoC)契約書(新素材編)_逐条解説あり.docx ├── 3_モデル契約書v1_0_共同研究開発契約書(新素材編)_逐条解説あり.docx ├── 4_モデル契約書v1_0_ライセンス契約書(新素材編)_逐条解説あり.docx ├── 5_モデル契約書v1_0_秘密保持契約書(AI編)_逐条解説あり.docx ├── 6_モデル契約書v1_0_技術検証(PoC)契約書(AI編)_逐条解説あり.docx ├── 7_モデル契約書v1_0_共同研究開発契約書(AI編)_逐条解説あり.docx └── 8_モデル契約書v1_0_利用契約書(AI編)_逐条解説あり.docx ================================================ FILE CONTENTS ================================================ ================================================ FILE: .github/ISSUE_TEMPLATE/Template.md ================================================ --- name: Issue作成用テンプレート about: スタートアップが他の会社と連携するときのお困りごと、お悩みごとをコメントするためテンプレートです title: 'e.g. 成果物の権利の帰属について' labels: '' assignees: '' --- ## お困りごとやお悩みごとが発生したシーン・契約類型 ## 具体的なお困りごと・お悩みごと ## 関連する指針、ガイドライン、裁判例など(もしあれば) ================================================ FILE: .github/workflows/markdownlint.yml ================================================ name: Markdown Lint on: - push - pull_request jobs: lint: runs-on: ubuntu-20.04 steps: - uses: actions/checkout@v2 - name: Install markdownlint-cli run: sudo npm install -g markdownlint-cli - name: Lint all Markdown files run: markdownlint --config ./.markdownlint.yml ./**/*.md ================================================ FILE: .markdownlint.yml ================================================ # 1行あたりの文字数に制限を設けない MD013: false # 見出しのテキストの重複を許容する MD024: false # 一部の HTML タグを許容する MD033: allowed_elements: - br - b - table - thead - tbody - th - tr - td - p - blockquote - ul - li # コードブロックに言語の指定は不要とする MD040: false # 見出しのレベルの増加を許容する MD001: false ================================================ FILE: 1_モデル契約書v1_0_秘密保持契約書(新素材編)_逐条解説あり.md ================================================ # モデル契約書ver1.0 秘密保持契約書(新素材) ## 想定シーン 1. 樹脂に添加可能な放熱に関する新素材を開発した大学発スタートアップX社は、樹脂の放熱性能を金属並みに引き上げることに成功した。当該素材は、特殊な表面処理がなされており、表面処理を調整することで様々な樹脂への添加が可能であることから、多種多様な製品用途に活用できる技術であり、実際に多様な業種の企業が関心を示している。 2. 今般、自動車部品メーカーY社から声が掛かり、自動車の部材に関する共同研究を前提とした技術情報(当該素材に関する非公開の物性値、表面処理に関する情報)の開示等を求められた。 3. X社として、Y社との取引で目指していることは以下のとおり。 1. 研究領域はY社のマーケットシェアが高いヘッドライトカバーに当該素材を用いることの共同研究としたい。 2. X社はY社と共同研究フェーズへ進んで、当該事実を公表して自社の技術力の確かさをPRする材料にしたい。 3. できれば早期(2か月以内)にPoCまたは共同研究に進みたい。 4. X社の現状は次のとおり。 1. 専任の法務・知財担当はなく、また知見も乏しい(外部の弁護士、弁理士任せ)。 2. コア技術は特許出願済み(当該素材そのものおよび当該素材が添加された樹脂組成物をカバーする特許出願)。ただし、ヘッドライトカバー用などの特定の製品を対象とした用途特許の出願はしていない。 3. X社は、当該素材の製造方法、表面処理、一般的な樹脂への好適な添加量等に関するノウハウを所持している。ノウハウは一部管理できているが、多くはCEOの頭の中にある。 ## 目次 - [前文](#前文) - [第1条(秘密情報の定義・開示等の方法)](#第1条秘密情報の定義・開示等の方法) - [第2条(秘密保持)](#第2条秘密保持) - [第3条(目的外使用の禁止)](#第3条目的外使用の禁止) - [第4条(秘密情報の複製の取り扱い)](#第4条秘密情報の複製の取り扱い) - [第5条(リバースエンジニアリングの禁止)](#第5条リバースエンジニアリングの禁止) - [第6条(秘密情報の破棄または返還)](#第6条秘密情報の破棄または返還) - [第7条(PoC契約および共同研究開発契約の締結)](#第7条PoC契約および共同研究開発契約の締結) - [第8条(損害賠償)](#第8条損害賠償) - [第9条(差止め)](#第9条差止め) - [第10条(期間)](#第10条期間) - [第11条(準拠法および裁判管轄)](#第11条準拠法および裁判管轄) - [第12条(協議事項)](#第12条協議事項) - [締結の証](#締結の証) - [その他のオプション条項](#その他のオプション条項) ## 前文 X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)とは、甲が開発した放熱特性を有する新規素材αを自動車用ヘッドライトカバーに用いた新製品の開発を行うか否かを甲乙共同で検討するに当たり(以下「本目的」という。)、甲または乙が相手方に開示等する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。 #### <ポイント> - 本モデル契約の目的について規定している。 - 秘密保持契約において、秘密情報は定義された目的の範囲でのみ使用等が認められる。したがって、まず、形式的な留意点としては、(i)必ず目的を定め、(ii)上例のように「以下、「本目的」という。」と記載することが必須である。 #### <解説> - 秘密保持契約は、秘密情報の開示者と受領者で利害関係が大きく異なることが特徴である。本想定シーンにおいては、スタートアップが主として、情報の開示者であることから、スタートアップからすれば、事業会社による想定外の利用を防ぐために、開示情報の利用用途(=「本目的」)を限定的に定める必要がある。 - 他方、秘密情報を受領する事業会社からすれば、スタートアップから提供された秘密情報の利用の制約を少なくするために、この目的を広く定めるという要請がある。(本モデル契約は、専らスタートアップが秘密情報を開示等する事案を前提に各条項を定めていることに留意されたい。) - 目的の記載の仕方によって、禁止したい利用形態を目的外として禁止できなくなる場合があるので注意が必要である。例えば、目的を「新規素材α を用いた放熱部材の開発について検討するに当たり」と定めた場合、事業会社が受領した秘密情報を、事業会社で**独自に計画する**「新規素材α を用いた放熱部材の開発」に用いることも契約上は「目的内」と解釈されるおそれがあり、その場合には、かかる行為を差し止めることはできない。 - かかる行為を禁止するためには、「新規素材αを用いた放熱部材について、スタートアップ**および事業会社が共同で**開発することを実現できるかについて検討するにあたり」等の記載とすることが必要である。 - 秘密情報管理が十分ではないスタートアップにとって、事業に必須のコア技術が特許等により保護されていない限り、本モデル契約が自社の技術・ノウハウを保護する数少ない手段となる。 - その中でも「目的の特定」は事業会社の使用等の範囲を画する重要なポイントとなる。協業に向けた協議を開始する段階では、協業の内容は明確でない場合も多いが、上記の点なども考慮し、目的をできるだけ具体的に定めることが必要である。 - また本来は、協議の開始前に自社の秘密情報管理を徹底すべきである。少なくとも①秘密保持契約なしで開示等できる情報、②秘密保持契約締結後に開示等できる情報、③如何なる状況であっても開示等しない情報、程度に区分しておく必要ある。 - ノウハウが競争力の源泉となるスタートアップも少なくないことから、秘密保持契約自体はもちろん、交渉前の準備は万全を期す事を心掛けたい。 ### 【コラム】秘密情報管理の詳細や相談窓口等については以下も参照されたい - 知財を使った企業連携4つのポイント - - 秘密情報の保護ハンドブックの手引き - - 秘密情報の保護ハンドブック - - 営業秘密・知財戦略相談窓口 - ## 第1条(秘密情報の定義・開示等の方法) #### <ポイント> - 秘密情報等の定義に関する条項である。 - 秘密保持契約を締結するにあたり、まず最初に行うべきは背景となるビジネスのヒアリングである。これによって、①専ら当社が情報を開示等することになるのか、②専ら当社が情報を受領することになるのか、③両者が均等に情報を開示等し合うことになるのか、という点についておおよその理解を行う。後述するように、①ないし③のいずれかであるかによって、秘密情報の範囲設定等に大きく影響するからである。 - (なお、本ケースにおいては、スタートアップの立場にたっており、①のケースに該当する。) #### <解説> 秘密情報の範囲設定の考え方 - 秘密情報の定義においては、その広狭が問題となる。基本的には、開示者(上記①のケース)は「秘密情報」を広く定義すべきであり、受領者(上記②のケース)はその逆である。もっとも、むやみに秘密情報を広く定義すればよいというものではなく、秘匿すべき情報の秘密管理の実施度合いも考慮して、秘密情報の範囲を設定するべきである。 - 対象情報が十分に秘密管理されている技術情報であれば、秘密情報に該当するために秘密性の明示を必要とする範囲設定(下記オプション2または3)も採用し得る。秘密情報の範囲が狭ければ、受領者の情報管理コスト(情報の分別や、情報に接触した従業員の名簿管理など)が低減されるため、事業会社からの合意も取り付けやすい。 - 他方、開示者として自社の秘密管理体制が不十分(従業員の情報管理マインドが低い、秘密管理に関する社内規程が未整備など)の場合は、秘密情報に該当するために秘密性の明示を必要としない(つまり秘密情報の範囲が広い)オプション1を選択することも検討する。 ### 【オプション1 - 秘密情報の範囲:無限定】 ``` 第1条 本契約において「秘密情報」とは、本目的のために、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示等の方法および媒体を問わず、また、本契約の締結前後にかかわらず、一方当事者(以下「開示者」という。)が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報、本契約の存在および内容、甲および乙の協議・交渉の存在およびその内容、および、これらを含む記録媒体、ならびに、素材、機器およびその他有体物(別紙1に定めるものを含むが、これに限られるものではない。)をいう。 ``` #### <解説> - 「本目的のために開示等した一切の情報等」=「秘密情報」として扱われるオプションである。 - 開示者は、全ての情報が秘密情報となるので安心できるかと言えば、そうとも言い切れない。包括的な秘密情報の定義により一定のリスクも伴う。例えば、①保護の対象とされる情報の特定が不可能であるとして秘密保持契約の有効性を争われる、②いざ争いとなった場合に、当事者は秘密情報の範囲を実質的な秘密に限定したとの解釈が適用される可能性がある(=結果として、自社が秘密情報であると当然に解釈していた情報が、争いの場ではそのように解釈されない可能性がある。)などのリスクが発生する。 - 受領者も、①口頭で伝えられた内容まで秘密情報として厳格な管理が生じ、秘密管理コストが高くつく、②管理する情報が多く、例えば自社が元々独自に保有していた情報との区別も不明確になりやすく、うっかり情報漏えいしてしまい、本モデル契約違反を起こす、などのリスクがある。 - 秘密情報の範囲を無限定とするならば、対象となる情報がいつ、(相手方の)誰に、どのような方法・状況で開示等されたのか、という立証ができるよう、過去のメールを一定期間保有する、会議において議事録をつける、引き渡した情報の管理台帳を整備するなど、従業員に対する情報管理への高い意識付けが必要となる。 ### 【コラム】秘密保持契約上のトラブル - 秘密保持契約上のトラブルのうち、かなりの割合を占めるのが、「開示等する際に、その情報に秘密指定をしなければならないという秘密保持契約になっているにもかかわらず、これをしなかったために秘密保持契約の対象とされない(相手方は守秘義務を負わない。)」というものである。秘密保持契約を締結すると安心して情報を開示等しがちであるが、秘密保持契約の中身を精査し、秘密情報を開示等する際の手順・方法を確認すべきである。 - また、「秘密保持義務違反を主張したところ、相手方から、そのような情報は受領した覚えがない」といわれてしまうケースも散見される。このようなことを防ぐために、上記のとおり、対象となる情報がいつ、(相手方の)誰に、どのような方法・状況で開示等されたのか、という立証ができるような情報管理を心がける必要がある。 ### 【コラム】「本モデル契約の存在および内容、スタートアップおよび事業会社の協議・交渉の存在およびその内容」を秘密保持の対象に含めるリスク - これを秘密保持の対象に含めてしまうと、誰とどのようなビジネスをしようとしているかなどの事情をVCなどの投資家に対して報告ができなくなり資金調達に支障を来したり、ピッチなどでも将来展望を発表できなくなるおそれがある。このような不自由が生じてしまうとスタートアップの事業成長の可能性を閉ざすことにもなりかねず、オープンイノベーションを志向する事業会社としてもパートナー企業が衰退して事業がとん挫することは望むところではない。 - 両社で共同研究の検討を開始した事実だけは開示等できるようにしておくなど、何らか措置を講じておくことも検討に値する。 ### 【オプション2 - 秘密情報の範囲:要秘密指定(口頭開示の事後指定無し)】 ``` 第1条 本契約において「秘密情報」とは、本目的のために、開示者が開示等する際に秘密である旨を明示した営業上または技術上の情報、および、これらを含む記録媒体、ならびに、素材、機器およびその他有体物をいうものとする。 ``` #### <解説> - 本条では、「開示者が『開示等する際』に秘密である旨を明示」(秘密指定)することが必要となる。一般的になされる秘密指定の方法としては、「㊙」表記の他、「○○Confidential」など、開示者が当該情報を秘密として認識しているということについて客観的な表示がされることが望ましい。 - この条項を利用する場合、秘密指定を失念するリスクがあることに注意する。例えば、「開示等したサンプルデータに秘密指定することを失念して、サンプルを関連子会社に渡され、目的外利用されてしまう」などのトラブルが発生する。 - このようなトラブルを回避するために、オプション1と2を混合したバージョンとして、以下のような規定も有用である。 - サンプルなどの有体物は秘密指定の有無に関係なく、「秘密情報」に含める。 - 仕様書等の特定形式の重要文書についても、秘密指定の有無に関係なく、「秘密情報」に含める。 - その他の情報については、秘密指定された場合のみ「秘密情報」とする。 - また、本条では、口頭で「これは秘密情報である」と受領者に伝えた場合、(文言上書面までは要求されていないため)、理屈としては秘密指定したといえ、口頭開示等した情報も守秘義務契約の対象として指定することができる。 - しかし、開示者がそのことを立証できないため(開示時にわざわざ録音などしていることは通常は考えにくい。)、結果として秘密情報として保護されないというリスクが残る。また、受領者としても、秘密情報の範囲が不明確となり管理が難しくなる。 - そこで、後に示すオプション3のように、口頭開示等の場合には、開示後に当該情報が秘密情報であることを文書で通知を秘密指定の条件とすることも考えられる。 ### 【コラム】「秘密である旨を明示」することとは? - 秘密保持契約を締結したことで安心して、色々な情報を開示等してしまう企業もあるが大変危険である。秘密保持契約に「秘密である旨を明示」することを条件として、秘密情報として認める旨の規定がある場合、この明示がなく開示等された情報はどんなに重要な情報であったとしても、秘密情報として認められないことが多い。この点は特に事故例が多いので、細心の注意を払う必要がある。 - 「秘密である旨を明示」するためには、文書等に「○○Confidential」「機密情報」との表記を設ければ足りる。ただし、対象物が文書ではなく有体物(サンプルなど)の場合には表記を忘れがちで、かつ、そのような表示を貼り付けても途中で脱落したりすることもあり得るので、細心の注意が必要である。 - 秘密保持契約を結んだからといって安心するのではなく、約束した内容の運用を徹底する。加えて、自社事業の優位性を損なうようなノウハウなどの技術情報は門外不出の情報として絶対に開示等しない覚悟が必要である。 - なお門外不出の技術情報は、社内においても限定されたメンバーのみにアクセス権を与えるなどの措置を取ることにより管理することが望ましい。 - 情報管理の厳格化と事業の効率性とは通常はトレードオフの関係にある。万一、秘密情報が漏えいした場合に事業が立ち行かなくなるほどのダメージが見込まれるという場合ならば、情報管理に手間とコストをかけることについて選択の余地はない。 ### 【オプション3 - 秘密情報の範囲:要秘密指定(口頭開示の事後指定有り)】 ``` 第1条 本契約において「秘密情報」とは、開示者が受領者に対して開示等した情報、および、これらを含む記録媒体、ならびに、素材、機器およびその他有体物のうち、文書等(電子メール等の電子的手段を含む。)により開示等する場合には、当該文書等上に秘密である旨を明示して、口頭その他無形の方法により開示等する場合には、開示等の時から14日以内に文書等により当該情報の概要、開示者、開示日時を特定した上で秘密である旨通知されたものをいう。 ``` #### <解説> - 前述したように、秘密情報の開示等の際には、「秘密である旨を明示」(秘密指定)することが要求されるケースが多い。しかし、口頭で開示等した場合、そのことを事後的に立証することはやはり困難である。 - そこで、本条のように、口頭開示等の場合は追って文書にて通知という手続を要求することで事後的に秘密指定することも考えられる。 - しかし、この手続すらも往々にして忘れやすく注意が必要である。相手方と会議等によるコミュニケーションをした場合は、どのような情報を開示等したかを含む議事録をつけることを習慣化し、本条に沿った措置を習慣化することが望ましい。 - なお本条では、双方とも会議で口頭開示等された情報が事後的に秘密情報として指定されてしまうおそれがあるため、秘密保持契約締結相手とのミーティング内容はおいそれと外部に開示等できなくなるが、期間は限定されているため(ここでは14日以内)、実務に大きな支障はないと思われる。 ### 第1条2項(秘密情報の定義・開示等の方法)【オプション1~3共通】 ``` 2. 前項の定めにかかわらず、受領者が書面によってその根拠を立証できる場合に限り、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。 1. 開示等を受けたときに既に保有していた情報 2. 開示等を受けた後、秘密保持義務を負うことなく第三者から正当に入手した情報 3. 開示等を受けた後、相手方から開示等を受けた情報に関係なく独自に取得し、または創出した情報 4. 開示等を受けたときに既に公知であった情報 5. 開示等を受けた後、自己の責めに帰し得ない事由により公知となった情報 ``` #### <ポイント> - オプション1~3いずれの条文においても、第2項において秘密情報の対象外とする情報を規定している。 #### <解説> - 特に重要なのは、契約締結前に既に自社が保有していた情報が「① 開示等を受けたときに既に保有していた情報」であることを証明できるかという点である。その点について証明ができないと、契約締結後においてどの技術がどちらのものかについて争い(技術のコンタミネーション)が発生するリスクがある。 - かかるリスクを回避するため、特に重要な技術情報かつ、それが特許出願に馴染む技術情報であれば、契約締結以前に特許出願を済ませておくことが望ましい。 - 特許出願によって、当該情報が「① 開示等を受けたときに既に保有していた情報」であることが明確に証明できるからである。 - もっとも、実際にはこの時点までに特許出願までできないケースも少なくない。そこで、秘密保持契約締結前に自社が保有していた秘密情報のうち特に重要なものだけでも秘密保持契約の別紙において明確に定めておくことが考えられる。 - これにより、自社の重要な情報を確実に秘密情報として特定できるとともに、上記リスクを回避することができる。なお、秘密保持契約の別紙において定義をする際には、弁理士に対して、特許請求の範囲を記載する要領で作成を依頼することも考えられよう。 - 他方、全く特許出願に馴染まない技術情報である場合(例えば特許権を侵害されてもそれを認知することが困難な(つまり、侵害検出性がない)ソフトウェアや工場内で用いられる加工に関するデータなど)、ノウハウ(秘密情報)として厳密に管理する他ないといえよう。 - 万一、そのような情報を受領してしまった場合は、なるべく速やかに相手方に対してその旨を伝え、秘密保持契約の例外として扱っていただくことに合意する必要がある。時間が経過すればするほど、「既に保有していた情報」であることの立証が難しくなるからである。 ## 第2条(秘密保持) ``` 第2条 受領者は、善良なる管理者が払うべき注意義務をもって秘密情報を管理し、その秘密を保持するものとし、開示者の事前の書面による承諾なしに第三者に対して開示等または漏えいしてはならない。 2. 前項の定めにかかわらず、受領者は、秘密情報を、本目的のために必要な範囲のみにおいて、受領者の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等できるものとする。 3. 受領者は、前項に定める開示等に際して、役員等に対し、秘密情報の漏洩、滅失、毀損の防止等の安全管理が図られるよう必要かつ適切な監督を行い、その在職中および退職後も本契約に定める秘密保持義務を負わせるものとする。役員等による秘密情報の開示等、漏洩、本目的以外の目的での使用については、当該役員等が所属する受領者による秘密情報の開示等、漏洩、本目的以外の目的での使用とみなす。 4. 受領者は、次項に定める場合を除き、秘密情報を第三者に開示等する場合には、書面により開示者の事前承諾を得なければならない。この場合、受領者は、当該第三者に対して本契約書と同等の義務を負わせ、これを遵守させる義務を負うものとする。 5. 前各項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、当該秘密情報を開示等することができるものとする。(ただし、1号または2号に該当する場合には可能な限り事前に開示者に通知するものとする。)また、受領者は、かかる開示等を行った場合には、その旨を遅滞なく開示者に対して通知するものとする。 1. 法令の定めに基づき開示等すべき場合 2. 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに従った要求がある場合 3. 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合 6. 本条第1項ないし第3項の定めにかかわらず、甲および乙は、相手方の事前の承諾なく、以下の事実を第三者に公表することができるものとする。 - 甲乙間で、甲が開発した放熱特性を有する新規素材αを用いた共同研究の検討が開始された事実 ``` #### <ポイント> - 開示者から提供を受けた秘密情報の管理方法と開示等できる対象に関する条項である。 #### <解説> Need to know原則 - 本条において実現しようとしている重要な点の1つは、いわゆるNeed to know原則である。 - 秘密保持契約においては、(i)開示者が特定された目的のために秘密情報を開示等し(前文および1条)、(ii)受領者は当該目的遂行のために必要な範囲でのみ当該秘密情報を社内関係者に共有し(本条2項)、(iii)受領者は当該目的以外には秘密情報を利用しない(3条)、という点が重要となる。Need to know原則は、このうち、(ii)に関するものである。 - このNeed to know原則が契約文言に反映されていないと、不必要に情報が受領者たる会社内に広まり、受領者の会社の規模が大きくなればなるほど、情報の目的外利用や流出のリスクが高まることとなる。契約交渉の過程でこのNeed to know原則を反映する文言が削除されていないかは、慎重に確認する必要がある。 - なお、秘密保持義務を課したとしても、受領者が当該義務に違反して秘密情報を第三者に開示等したり目的外使用したりしても、当該義務違反を立証することは非常に難しいケースが多い。 - 非常に大事な点なので、繰り返し述べるが、開示等する対象者に対して秘密保持義務を課した場合であっても、他社に知られて模倣された場合に自社のコアコンピタンスが揺らぐような本当に重要な情報は、そもそも開示等してはならい。どんなに開示等を要求されたとしても断固として拒否する覚悟が必要である。 ### 共同開発を検討開始した事実の公表 - スタートアップにとって重要な条項となるのが本条第6項である。スタートアップにとって、事業会社とのアライアンスの検討開始の事実は、投資家やユーザーに対する効果的なPR材料になる場合が多く、スタートアップがかかる事実の公表を望むケースが多い。 - しかし、本条第6項のような規定が入っていない場合、秘密情報の定義の内容によっては、かかる事実の第三者への公表が守秘義務違反となるか否かが曖昧なケースも存在し、スタートアップが公表に踏み切れないケースや、事業会社に事前に許可を求め、社内決裁等の関係で発表すべきタイミングに発表できないケースも散見される。 - 本モデル契約では、共同研究の検討開始の事実は公表しても問題ないと合意できたと想定し、公表を積極的に許可する規定を設け、かかる弊害を回避している。 ## 第3条(目的外使用の禁止) ``` 第3条 受領者は、開示者から開示等された秘密情報を、本目的以外のために使用してはならないものとする。 ``` #### <ポイント> - 秘密情報の使用範囲を前文に定めた目的に限定する条項で、秘密保持契約には絶対に欠くことのできない主要な条文のひとつである。 #### <解説> - 例えば、秘密情報の開示等を受けた事業会社において、秘密情報を流用し、事業会社による本件素材を用いたヘッドライトカバーの自社単独開発や、ヘッドライトカバーではない部品の開発のために利用することは本条により禁止されることになる。 - 上記のような秘密情報の内部流用行為は、情報の外部提供行為(開示行為)には該当しないことから、秘密保持義務(第2条)のみではかかる行為を禁止できない。一方で、開示者からすれば内部流用行為も好ましくないため。秘密保持契約においては、このような目的外使用禁止義務を設けることが通例となっている。 - 特に、専ら開示者になることが想定されるビジネスにおいては、①秘密保持契約にこのような条項が存在すること、②その際に、「本目的」がビジネスと整合する、最小限度の内容となっていることを確認すべきである。 - ただし、社内で目的外使用(例えばヘッドライトカバー以外の部品を研究開発する部署に秘密情報を横流し)された場合に、その事実を捕捉して立証することは困難である。そのため、目的外使用禁止義務を課したとしても、目的外使用をされてしまうと多大なる損害が生じうる情報については開示等を控えることも検討するべきである。 ## 第4条(秘密情報の複製の取り扱い) ``` 第4条 受領者が、本目的のために必要な範囲において秘密情報を複製(文書、電磁的記録媒体、光学記録媒体およびフィルムその他一切の記録媒体への記録を含む。)する場合には、複製により生じた情報も秘密情報に含まれるものとする。 ``` #### <ポイント> - 秘密情報が複製されることも想定し、その複製された情報も秘密情報の対象とすることを規定した条文である。 ### 【変更オプション条項:厳格な複製条件】 ``` 第4条 受領者は、開示者の事前の書面による承諾がある場合に限り、本目的のために必要な範囲において秘密情報を複製(文書、電磁的記録媒体、光学記録媒体およびフィルムその他一切の記録媒体への記録を含む。)することができるものとする。複製により生じた情報も秘密情報に含まれるものとする。 ``` - 提供する秘密情報に極めて重要な情報が含まれ得ると判断する場合、本オプションのように、事前に承諾を必要とする条文が適用される場面もあり得る。 ## 第5条(リバースエンジニアリングの禁止) ``` 第5条 受領者は、秘密情報について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報の組成または構造を特定するための分析その他類似の行為を行ってはならない。 ``` #### <ポイント> - 秘密情報の受領者が、開示者の知らないところでその組成や構造の分析等をすることを禁ずる条文である。 #### <解説> - 本想定シーンでは、秘密情報の一部として素材サンプルをスタートアップから事業会社に提供する可能性があることを想定し、その成分を事前の許可なく分析等することを禁じるために設定している。 - ただし、実際にはそのような分析行為が行われたかどうかを特定することは難しいため、本当に重要な素材であればたとえサンプルであっても提供すべきではない。 ## 第6条(秘密情報の破棄または返還) ``` 第6条 受領者は、本契約の有効期間中であるか、本契約終了後であるかを問わず、開示者からの書面による請求があった場合には、自らの選択および費用負担により、受領者または受領者から開示等を受けた第三者が保持する秘密情報を速やかに破棄または返還するものとする。 2. 受領者は、開示者が秘密情報の廃棄を要請した場合には、速やかに秘密情報が化体した媒体を廃棄し、当該廃棄にかかる受領者の義務が履行されたことを証明する文書の提出を開示者に対して提出するものとする。 ``` #### <ポイント> - 受領した秘密情報の返還義務等を定めた条項である。契約終了前であっても、開示者の請求で返還義務等が発生することとしている。 ## 第7条(PoC契約および共同研究開発契約の締結) ``` 第7条 甲および乙は、本契約締結後、技術検証または研究開発段階への移行およびPoC契約または共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約締結日から2か月(以下「通知期限」という。)を目途に、甲に対して、PoC契約または共同研究開発契約を締結するか否かを通知するものとする。ただし、正当な理由がある場合には、甲乙協議の上、通知期限を延長することができるものとする。 ``` #### <ポイント> - PoCまたは共同研究開発契約への移行についての規定である。 #### <解説> - 秘密保持契約を締結したものの、その後音沙汰がなく、スタートアップが他の競合企業とのアライアンスを検討する機会を逸してしまう場面も少なくないが、次回資金調達までの短期間の中で実績作りや資金繰りを成し遂げなければいけないスタートアップとしては致命傷になりかねない。 - そこで、当事者にPoC契約または共同研究開発契約締結の努力義務を課すとともに、次のステップに進むかどうか未確定なままで時間が経過することを避けるため、事業会社に対し一定期間内にPoC契約または共同研究開発契約を締結するか否かの通知義務を課している。 - ただし、検討に要する時間は案件や状況に応じて異なり、適切な期間を契約締結時に定めることは困難であることもあるため、通知期限は目安とした上で、正当な理由があれば協議の上同期限の延長を可能とした。 ## 第8条(損害賠償) ``` 第8条 本契約に違反した当事者は、相手方に対し、損害賠償を請求することができる。 ``` #### <ポイント> - 本条は、本モデル契約の履行に関しての損害賠償責任について規定している。スタートアップとしては、事業に必須のコア技術が特許等により保全されていない限り、本モデル契約が自社の技術・ノウハウを保全する唯一の手段であるため、相手方が本モデル契約に違反した場合を定めた本条は非常に重要な条項といえる。 #### <解説> - なお、秘密漏洩により損害が生じたことの立証は難しいため、漏えいに対する抑止効果を高める目的で、以下の変更オプション案のように、違約金や損害賠償額の予定について定めることもあり得る。このような条項に対する対応で、相手方のビジネスに対する本気度を推測する(=PoC貧乏を防止する)こともできる。 ### 【変更オプション条項】 ``` 第8条 本契約に違反した当事者は、相手方に違約金として1000万円を支払う。ただし、相手方に生じた損害が本違約金額を上回る場合には、その超えた部分についても賠償するものとする。 ``` #### <解説> - 秘密保持義務違反による損害の立証は困難であるため、損害賠償責任の範囲・金額・請求期間について予め定めることも考えられ、本条では、1000万円を違約金として設定することとしている。なお、1000万円はあくまでも例示であり、開示等する情報の重要度に応じて、金額を高めることで情報漏洩の抑止力を高めるような金額とすることが考えられる。 - 秘密保持契約においては、秘密保持義務違反の事実が立証できたとしても、秘密漏洩による損害の立証は難しく、かつ、秘密情報の価値について当事者間で認識に齟齬が生じていることも多いことから、上記の条項案を採用することも検討の余地があろう。 ## 第9条(差止め) ``` 第9条 契約当事者は、相手方が、本契約に違反し、または違反するおそれがある場合には、その差止め、またはその差止めに係る仮の地位を定める仮処分を申し立てることができるものとする。 ``` ## 第10条(期間) ``` 第10条 本契約の有効期限は本契約の締結日より1年間とする。ただし、本契約の終了後においても、本契約の有効期間中に開示等された秘密情報については、本契約の終了日から3年間、本契約の規定(本条を除く。)が有効に適用されるものとする。 ``` #### <ポイント> - 契約の有効期間を定めた一般的条項である。 #### <解説> - 契約期間のみならず、契約期間終了後に、どの程度の期間秘密保持義務を負担するかについても注意が必要である。契約期間が3か月など短く設定されていても、残存条項により10年など契約終了後も長期間に亘って秘密保持義務を負うケースもある。 - 残存条項の期間は厳しい交渉が行われる項目のひとつである。期間は2~3年とすることが多いが、ビジネスおよび開示等される情報の性質(対象となる秘密情報等が陳腐化する期間はどの程度かなど)により調整が必要である。例えば、製品等のコアとなる技術情報などは比較的長期の保護が必要となる。 ## 第11条(準拠法および裁判管轄) ``` 第11条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` #### <ポイント> - 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。 #### <解説> - クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。 - 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。 ### 【変更オプション ― 知財調停】 ``` 第11条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。 2. 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 3. 第1項に定める紛争を除く本契約に関する紛争(裁判所の知財調停手続きを含む。)については、日本国法を準拠法とし、第1項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` #### <解説> - 紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。 - 「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。 - 運用面では、原則として、3回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。 - 知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。 - 知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。 - また、仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて下記のような仲裁条項に変えるという選択肢もある。 ### 【変更オプション - 仲裁条項例】 ``` 本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。 ``` ## 第12条(協議事項) ``` 第12条 本契約に定めのない事項または本契約について疑義が生じた場合については、協議の上解決する。 ``` #### <ポイント> - 紛争発生時の一般的な協議解決の条項である。 ## 締結の証 ``` 本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲、乙記名押印の上、各自1通を保有する。 年 月 日 甲 乙 ``` ## その他のオプション条項 - 秘密管理状況を確認するため、以下のような立入条項を設ける場合もある。 ### 【追加オプション条項 - 立入検査条項】 ``` 甲および乙は、相手方が本契約に従って秘密情報等を管理していることを確認するため、相手方に対し、検査内容および日程を書面により事前に通知の上、合理的な範囲において相当な方法により対象となる施設に立入り、検査を行うことができるものとし、相手方はこれに合理的な範囲内で協力するものとする。 ``` #### <解説> - 当該秘密情報等を利用して知的財産が創造された場合の知的財産権の帰属を規定することもある。 - 本件では、スタートアップが開発した素材の秘密情報を事業会社に開示等して検討を進めており、万が一知財が生じた場合、それは、スタートアップが開示等した情報に依拠するところが大きいと考えられるため、以下の規定のように全てスタートアップの帰属とすることが想定される。 ### 【追加オプション条項 - 知的財産権の帰属条項】 ``` 秘密情報等に関連して生じた特許権、実用新案権、回路配置利用権、意匠権、著作権、商標権等の知的財産権(以下総称して「本知的財産権」という。)は、すべて甲に帰属するものとする。 ``` #### <解説> - 秘密保持契約の段階で知的財産権の帰属条項を入れるかどうかについてはケースによって判断が分かれるところである。 - 今後、どのような協業を行うことができそうかまずは相談をしたい、といった軽い目的で秘密保持契約が締結される場合、知的財産権の帰属条項を入れないことで余計な交渉を減らし、スピードを重視するという考え方もある。 - 他方、そのような目的であったとしても、相手方の決断のために極めてコアな情報開示等が要求される場合は、知財権を保全確保する目的で、上記のような条項を入れるケースも想定されよう。 - なお、秘密保持契約締結時点で新たな知的財産権が生じるケースは少なく、また、PoCや共同研究開発に移行した際にいかなる知的財産権が生じうるのか、また、知的財産権の帰属以外の諸条件をいかに定めるかの見通しを立てることが困難なケースも多く、秘密保持契約において新たに生じる知的財産権の帰属について定めるケースはあまりないことには留意されたい。 ================================================ FILE: 2_モデル契約書v1_0_技術検証(PoC)契約書(新素材編)_逐条解説あり.md ================================================ # モデル契約書ver1.0 技術検証(PoC)契約書(新素材) ## 想定シーン 1. X社(樹脂に添加可能な放熱に関する新素材を開発した大学発スタートアップ)が、秘密保持契約を締結後、自動車部品メーカーY社に対し、当該素材の技術情報(当該素材に関する非公開の物性値、表面処理に関する情報)に関する資料を開示等するとともに説明を行った。 2. Y社の開発担当者としては、当該素材を用いた製品開発を進めたい意向であったが、今期の予算が限られていること、来期の開発予算獲得のために社内の説明資料が必要であるとして、まずは技術検証(以下「PoC」という。)を行いたいと伝えてきた。 3. X社とY社は、協議の結果、当該PoCを以下のとおり進めることを合意した。 1. Y社は、X社に対し、ヘッドライトカバーの使用環境に関するデータを開示等する。 2. X社は、外部の第三者を用いて、ヘッドライトカバーの材料であるポリカーボネート樹脂に当該素材を添加して成形することにより試験片(サンプル)を作成し、試験片の性能および耐久性に関する簡易検査(ヘッドライトカバーの使用環境を模した環境での性能および耐久性試験)を行い、当該検査結果を契約締結から3週間以内にレポートにまとめる。 3. Y社は、X社に対し、上記作業の対価として●万円を支払う。 4. Y社は、上記検査結果受領後、2ヶ月以内にX社との共同研究開発に移行するかを決定する。 ## 目次 - [前文](#前文) - [1条(目的)](#1条目的) - [2条(定義)](#2条定義) - [3条(本検証)](#3条本検証) - [4条(委託料および費用)](#4条委託料および費用) - [5条(甲の義務)](#5条甲の義務) - [6条(共同研究開発契約の締結)](#6条共同研究開発契約の締結) - [7条(乙が甲に提供する資料等)](#7条乙が甲に提供する資料等) - [8条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い)](#8条秘密情報データおよび素材等の取扱い) - [9条(本報告書等の知的財産権)](#9条本報告書等の知的財産権) - [10条(損害賠償)](#10条損害賠償) - [11条(解除)](#11条解除) - [12条(期間)](#12条期間) - [13条(存続条項)](#13条存続条項) - [14条(準拠法および管轄裁判所)](#14条準拠法および管轄裁判所) - [15条(協議解決)](#15条協議解決) - [その他の追加オプション条項](#その他の追加オプション条項) - [(別紙●●)第2条1項関連](#別紙第2条1項関連) ## 前文 ``` X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)は、甲乙による開発対象となる製品またはサービスに対して、甲の開発した放熱特性を有する新規素材αの導入・適用することに関する検証(以下「本検証」という。)に関して、本契約を締結する。 ``` ### <ポイント> - 技術検証(PoC)契約は、共同研究開発段階に移行するかの前提として、スタートアップ側の保有している技術の開発可能性などを検証するための契約となる。 - 前文では、本モデル契約の対象が、スタートアップの研究・開発した技術をスタートアップおよび事業会社の開発対象となる製品またはサービスへ技術導入・適用することを明確にしている。 ### <解説> - 本モデル契約を締結するに当たっては、両当事者が以下に挙げる点を十分に理解することが重要である。 1. 本モデル契約が将来的な共同研究開発契約の締結を目指したものであること 2. 既に秘密保持契約を締結し、相互の情報を開示等し合った上での検証段階であること 3. 検証においては、検証の目的を共有することが重要であり、未だ検証の目的が固まっていない場合は、まずその点を確定してから本モデル契約を締結すること ### 【コラム】技術検証(PoC)契約の意義 - PoCは、スタートアップにとって、その技術や製品を他社に採用してもらう可能性を検討するための重要なステップである。 - かつては、本開発への移行をちらつかされながら、次から次へと無償でPoCを依頼され、にもかかわらず本開発に移行せず、かつ、PoCにかかる一切のコスト回収ができずに資金が尽きてしまったりするケース(いわゆる「PoC貧乏」)が散見された。 - また、PoCの過程で得られた知見について、相手方に対して譲渡を強要されたり、無断で出願されてしまったりなどの紛争になるケースもある。 - これらのことを未然に防止するための契約がPoC契約であり、近年、オープンイノベーションの進展に伴い注目される契約の一形式である。 ## 1条(目的) ``` 第1条 本契約は、甲と乙が将来的に共同開発契約を締結することを視野に入れつつ、以下に定める対象技術を対象用途に対して技術導入・適用の可否を判断するため(以下、「本検証の遂行の目的」という。)に行われる技術検証における甲と乙の権利・義務関係を定める。 対象技術:甲の開発した放熱特性を有する新規素材α 対象用途:対象技術を自動車用ヘッドライトカバーに用いた新製品の開発(甲乙の共同開発行為以外には及ばない。) ``` ### <ポイント> - 本検証の目的を定める条項である。 - 秘密情報等(データ、素材等)やスタートアップが提出するレポート(本報告書)はこの目的の範囲で利用が制限される(8条、9条)。 - PoCにおいて情報の提供やレポートの提出をする側としては、想定外の利用を防ぐために、この目的を限定的に定める必要がある。 ### <解説> - 対象技術のみで本モデル契約の目的を特定した場合、他の用途への技術転用を制限できないことから、対象用途とともに限定する必要がある。 - なお、対象用途の記載について、例えば、「放熱部材の開発」とだけ記載した場合、事業会社が受領した秘密情報を、自社が独自で行う「新規素材Xを用いた放熱部材の開発」に用いることも契約上は「目的内」となるため、かかる行為を禁止することはできないこととなる。そのため、対象用途は「甲と乙の共同での開発行為に限定される」と規定するべきである。 - 事業に必須のコア技術が特許等により保護されていない限り、秘密保持契約および本モデル契約が自社の技術・ノウハウを保護する数少ない手段となる。 - 協業に向けた協議を開始する段階では、協業内容が明確でない場合も多いが、上記の点なども考慮し、目的をできるだけ具体的に定めることが必要である。 ## 2条(定義) ``` 第2条 本契約において使用される次に掲げる用語は、各々次に定義する意味を有する。 1 本検証  第1条に定める甲の技術導入・適用に関する検証をいい、具体的な作業内容は別紙●●に定めるところとする。 2 本報告書  甲が乙に提供する、本検証に関する報告書その他の資料をいい、具体的な作業内容は別紙●●に定めるところとする。 3 知的財産権  次に掲げる全てのものおよび外国におけるこれらに相当する権利をいう。 ① 知的財産基本法2条2項に定める権利 ② 特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権利、商標登録出願により生じた権利および回路配置利用権の設定の登録を受ける権利 ③ 営業秘密およびノウハウを利用する権利 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約で使用する各用語の定義を定める条項である。 - 本検証および本報告書の具体的な内容については、別紙により特定することとした。 ### <解説> - 「本報告書」は、本検証の成果物を意味し、具体的にはレポート等の資料を前提としている。 - 本モデル契約は「技術検証(PoC)契約」となっているが、その実質は別紙に特定された本検証を行い、本報告書を作成することを業務とする業務委託契約(準委任契約)である。従って、本検証および本報告書の内容を一定程度詳細に特定しておかないと、後々トラブル(いつまで経っても検証がまだ終わっていないとして追加作業や報告が発生するなど)が生じる可能性がある。そのため、別紙において、検証の計画・スケジュールを含め、ある程度の詳細事項を特定する必要がある。 - なお、上記条項案では、「知的財産権」の定義として、「営業秘密およびノウハウを利用する権利」を含めている。 - PoC後に締結する共同研究開発契約において、「知的財産権」を事業会社に移転する旨の条項が入ると、スタートアップのノウハウおよび営業秘密を利用する権利も事業会社に移転するものと解釈されるおそれがある。 - そこで、「知的財産」と「知的財産権」を分けて定義することで、「知的財産権」から「営業秘密およびノウハウを利用する権利」を除外することも考えられる。 ## 3条(本検証) ``` 第3条 乙は、甲に対し、本検証の実施を依頼し、甲はこれを引き受ける。 2 甲は、本契約締結後3週間以内に、乙に本報告書を提供する。 3 本報告書提供後、乙が、甲に対し、本報告書を確認した旨を通知した時、または、乙から書面で具体的な理由を明示して異議を述べることなく1週間が経過した時に乙による本報告書の確認が完了したものとする。本報告書の確認が完了した時点をもって、甲による本検証にかかる義務の履行は完了するものとする。 4 乙は、甲に対し、本報告書提出後1週間が経過するまでの間に前項の異議を述べた場合に限り、本報告書の修正を求めることができる。 5 前項に基づき、乙が本報告書の修正を請求した場合、甲は、速やかにこれを修正して提出し、乙は、提出後の本報告書につき再度確認を行う。再確認については、本条第3項および第4項を準用する。 ``` ### <ポイント> - スタートアップが担当する業務が本検証であることを定めている。 - 本モデル契約で想定している検証とは、一定のサンプルを用いて対象技術の導入・適用による開発可否や妥当性の評価を行うことである。 - 一定の成果物を完成させる(請負型)のではなく、検証のための業務の実施を目的としたもの(準委任)である。 ### <解説> - 本報告書の提供後、いつまでも本検証の追加作業を依頼されることを防ぐために報告書の完了規定(3項)を設けることがポイントとなる。 - 確認の期限は、本報告書の内容が別紙の項目を満たしているかを確認するための期間である。適切な期間は本検証の内容によっても異なるが、通常は1週間程度が妥当と考えられる。 ## 4条(委託料および費用) ``` 第4条 本検証の委託料は●万円(税別)とし、本契約締結時から10営業日以内に全額を、甲が指定する金融機関の口座に振込送金する方法により支払うものとする。振込手数料は乙の負担とする。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約における業務の対価としての委託料の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。 - 委託料については、固定金額とする他に、人月単位または工数単位に基づく算定方法のみ規定し、毎月の委託料を算定する方法とすること等が考えられる。 ### <解説> - 委託料の支払方法としては、①一定の時期に一括して支払う方式、②着手時および本報告書提出時等に分割して支払う方式、③一定の業務時間に達するごとに当該業務時間分の対価を支払う方式等様々な方式がある。 - 本モデル契約では、スタートアップの資金繰りも考慮し①の方式を採用している。 ## 5条(甲の義務) ``` 第5条 甲は、善良なる管理者の注意をもって本検証を遂行する義務を負う。 ただし、前条の委託料の支払を受けるまでは、甲は本検証に着手する義務、およびこれによる責めを負わない。 2 甲は、本検証に基づく何らかの成果の達成や特定の結果等を保証するものではない。 ``` ### <ポイント> - 本検証を履行するに際してのスタートアップの法的義務および結果に対する非保証を定めた条項である。 - 本モデル契約の法的性質は準委任契約であることから、スタートアップが善管注意義務を負うことを確認している。 - 検証段階という性質に鑑み、スタートアップが完成義務を負うものではないことも明確にしている。 ## 6条(共同研究開発契約の締結) ``` 第6条 甲および乙は、本検証から研究開発段階への移行および共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約第3条第3項に定める本報告書の確認が完了した日から2ヶ月以内に、甲に対して共同研究開発契約を締結するか否かを通知するものとする。 ``` ### <ポイント> - 共同研究開発契約への移行についての規定である。 ### <解説> - PoCは、共同研究開発契約移行のための実証段階という性質を有していることから、当事者に共同研究開発契約締結の努力義務を課している。 - PoC後に次のステップに進むかどうか未確定なままで時間が経過することを避けるため、事業会社に対し一定期間内に共同研究開発契約を締結するか否かの通知義務を課している。 - 共同研究開発契約の締結を促すとともに、本モデル契約の委託料が研究開発段階に至らずPoC段階で終了する場合の対価であることをより明確化する観点から、以下のような規定とすることも考えられる。 ### 【変更オプション - 共同研究開発契約を締結しない場合の追加委託料】 ```  甲および乙が、本契約第3条第3項に定める本報告書の確認が完了した日から4ヶ月以内に、共同研究開発契約を締結しなかった場合は、乙は、甲に対し、本検証の追加の委託料として、本報告書確認完了から5ヶ月以内に●万円(税別)支払うものとする。 ``` #### <解説> - 事業会社としては、PoC段階があくまで共同研究開発段階の前提であるため、委託料を低額に抑えるという判断になることも多い。 - スタートアップとしては、共同研究開発に進めるのであれば、PoC段階では低額な委託料に甘んじるという方針もあり得る。 - そこで、これらの思惑の調整規定として、共同研究開発契約が締結されなかった場合は、PoC費用の追加分の支払義務を規定している。 - 契約交渉においては、PoC段階後、必ずしも共同研究開発段階に進まないことも多いことから、本条と委託料を関連付けて交渉することが望ましい。 ## 7条(乙が甲に提供する資料等) ``` 第7条 乙は、甲に対し、本検証に合理的に必要な資料、データ、機器、設備等の提供、開示、貸与等その他本検証に必要な協力を行うものとする。 ``` ### <ポイント> - 本検証に際して、事業会社による資料等の提供その他の協力義務、および提供された資料等に起因する責任について取り決めた規定(追加オプションの2項および3項)である。 ### <解説> - 本検証において、事業会社がスタートアップに対して提供する資料等が重要な位置づけとなる場合には、以下の通り、当該資料等の開示権限の有無・適法性について事業会社の表明保証を定めたり、その内容に誤りがあったり、提供等が遅延したために、本検証の遅延や本報告書に瑕疵等が生じた場合にスタートアップが責任を負わない旨を定めることも考えられる。 ### 【追加オプション - 乙提供資料等についての責任】 ``` 2 乙は、甲に対し、前項に定める資料、データ、機器、設備等を甲に提供等することについて、正当な権限があること、および、かかる提供等が法令に違反するものではないことを保証する。 3 乙が甲に対し提供等を行った資料およびデータの内容に誤りがあった場合、またはかかる提供等を遅延した場合、これにより生じた本検証の遅延、本報告書の瑕疵(法律上の契約不適合を含む。)等の結果について、甲は責任を負わない。 ``` ## 8条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い) ``` 第8条 甲および乙は、本検証の遂行のため、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示等の方法ならびに媒体を問わず、また、本契約の締結前後に関わらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報およびデータ、素材、機器およびその他有体物ならびに本検証によって得られた情報(本報告書に記載された情報を含む。)(別紙●●に列挙のものを含む。以下「秘密情報等」という。)を秘密として保持し、秘密情報等の開示等した者(以下「開示者」という。)の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に開示等または漏えいしてはならないものとする。 2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。 ① 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの ② 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの ③ 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの ④ 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの ⑤ 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、又は創出したもの 3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本検証の遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本検証遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。 4 受領者は、秘密情報等について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報等の組成または構造を特定するための分析を行ってはならない。 5 受領者は、秘密情報等を、本検証の遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。 6 本条第1項および同条第3項ないし第5項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができるものとする。 ① 法令の定めに基づき開示等すべき場合 ② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに基づく開示等の要求がある場合 ③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合 7 本条第1項および同条第3項ないし第5項の定めにかかわらず、甲および乙は、相手方の事前の承諾なく、以下の事実を第三者に公表することができるものとする。  甲乙間で、本検証が開始された事実 8 本検証が完了し、もしくは本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(その複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。 9 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。 10 本条は、本条の主題に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面または口頭による提案、およびその他の連絡事項の全てに取って代わる。 11 本条の規定は、本契約が終了した日より5年間有効に存続するものとする。 ``` ### <ポイント> - 相手から提供を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。 ### <解説> 秘密情報の定義 - 秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、簡易迅速に行うことが多いPoC段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクを避けるため、前者の規定を原則とした。 - 他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、「秘密を指定」する条文を採用すればよい。 - なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、「秘密保持契約」のモデル契約書に詳細に解説しているため、そちらを参考にされたい。 ### 【コラム】秘密情報管理の詳細については以下も参照されたい - 秘密情報の保護ハンドブックの手引き - - 秘密情報の保護ハンドブック - - 知財を使った企業連携4つのポイント - ### 技術検証が開始された事実の公表 - スタートアップにとって重要な条項となるのが本条第7項である。スタートアップにとって、自社技術が事業会社への導入の技術検証のフェーズまで進んだとの事実は、投資家やユーザーに対する効果的なPR材料になる場合が多く、スタートアップがかかる事実の公表を望むケースが多い。 - しかし、本条7項のような規定が入っていない場合、秘密情報の定義の内容によっては、かかる事実の第三者への公表が守秘義務違反を構成するか否かが曖昧なケースも存在し、スタートアップが公表に踏み切れないケースや、事業会社に事前に許可を求め、社内決裁等の関係で発表すべきタイミングに発表できないケースも散見される。 - そこで、本モデル契約においては、検証が開始された事実は公表しても問題ないと合意できたと想定し、公表を積極的に許可する規定を設けることで、かかる弊害を回避することとした。 ### 秘密保持契約とPoC契約内の秘密保持条項の関係 - 秘密保持契約に引き続いてPoC契約を締結する場合、秘密保持契約とPoC契約内の秘密保持条項の関係が問題となる。 - PoC契約において秘密保持条項を設けず前者が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては、秘密保持契約の締結時点よりも、秘密情報の対象について具体的な情報整理が進んでいると想定し、本PoC契約内の秘密保持条項が、すでに締結されている秘密保持契約を上書きすることを10項で明記している。 - この点について、すでに締結した秘密保持契約の内容を本PoC契約で上書きすることで齟齬が生じないか、十分に注意して規定する必要がある。 ### 新たな秘密保持条項の必要性 - PoC段階など、相手方から提供を受けた秘密情報と並んで、検証結果などの成果物情報が存在する場合、これらの成果物情報(いわゆるフォアグラウンド情報)も秘密保持の対象とする必要がある。すでに秘密保持契約を締結している場合も多いと思われるが、秘密保持契約では秘密情報の定義上、フォアグラウンド情報が含まれるかどうかが曖昧なケースが多いため、別途PoC契約で秘密保持契約条項を設ける必要がある。 - PoC契約で新たに秘密保持条項を設ける場合、秘密保持契約を全て上書きする場合(上記の条項案の例)と、秘密保持契約の条項を活かしつつ、追加で必要な条項のみ追加する場合がありうる。PoC契約締結までの契約交渉を簡便にするという観点からは、後者の方法に依ることも考えられる。 ## 9条(本報告書等の知的財産権) ``` 第9条 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権は、乙または第三者が従前から保有しているものを除き、甲に帰属するものとする。 2 甲は、乙に対し、乙が本検証の遂行の目的のために必要な範囲に限って、乙自身が本報告書を使用、複製および改変することを許諾するものとし、著作者人格権を行使しないものとする。 ``` ### <ポイント> - 本報告書であるレポート等の著作権その他の知的財産権の取扱いおよび利用条件について取り決めている。 ### <解説> #### 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の帰属 - 本報告書であるレポートや、その他本検証の過程で生じる知的財産権の取扱いについては、スタートアップ・事業会社間で争いが生じることがあるので、契約において規定しておくことが重要である。 - 本モデル契約では本検証の作業主体がスタートアップであることを前提として、知的財産権はすべてスタートアップに帰属することと規定している。 - スタートアップに帰属する知的財産権の出願は、秘密保持契約等他の条項に抵触しない限りにおいてスタートアップが自由に行うことができるが、事業会社が従前から保有していた知的財産権等(バックグラウンドIP)との関係で紛争が起こることを回避するため、以下の【追加オプション - 出願の事前通知】に記載するようにスタートアップの出願前に事業会社への通知義務を設定することも考えられる。 - なお、本報告書の利用が第三者の知的財産権を侵害しないことの保証を求められる場合もあるが、本モデル契約では、PoC段階では、完成させるべき成果物が定まっていないことから、第三者の知的財産権の侵害の有無を判断する前提となる事実関係が固まっておらず、侵害の有無の確認が困難であること等を踏まえ、保証条項は設けないこととした。 #### 技術検証段階におけるスタートアップと事業会社の関係性 - 事業会社としては、委託料を払っている以上、本報告書を含むすべての知的財産権は事業会社に帰属すべきと考えるかもしれない。しかしながら、PoC契約における委託料は原則としてスタートアップの検証作業に対する対価であり、これにより発生した知的財産権の譲渡を受けるためには、別途それに見合った対価を支払う必要がある。 - なお、本来避けるべきであるが、万が一、スタートアップおよび事業会社に共有帰属にせざるを得ない状況では、第三者への利用許諾を含め独立して知的財産権を行使すること(サブライセンスフリー)に事前同意する旨を定めることは不可欠である。 - 事業会社は、オープンイノベーションを通じて自社の事業を加速させるという観点から、スタートアップとの間で適切な知的財産権の分配を行うというスタンスの重要性を意識した上で、PoC段階において最も重要なのは共同開発の実現に向けた報告書の内容であり、その知的財産権の帰属ではないことを認識されたい。 ### 【追加オプション条項:出願の事前通知】 ```  甲は、本条第1項の知的財産権のうち、特許権、実用新案権、回路配置利用権、意匠権および商標権について出願をしようとするときは、予め乙にその概要を文書で通知するものとする。 ``` #### <解説> - 仮に本条第1項の知的財産権(本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権)がスタートアップに単独に帰属するとしても、スタートアップには守秘義務があることから、事業会社の秘密情報を含めた形で特許出願をしてはならないことは自明である。 - 事業会社からすると、スタートアップの出願に伴い、本検証を通じてスタートアップが得た事業会社の秘密情報が対外的に開示等されることは大きなリスクであるから、少なくとも本条のような事前の通知を要望することが多い。 ### 追加オプション条項:フィードバック規定】 ```  本検証遂行の過程で、乙が甲に対し、本検証に関して何らかの提案や助言を行った場合、甲はそれを無償で、甲の今後の製品の改善のために利用することができるものとする。 ``` #### <解説> - 本検証において、事業会社からスタートアップに対し提案や助言(フィードバック)が行われることも多いが、フィードバックの権利性で後にトラブルが発生しないようにする観点から、これらの利用について上記のように規定することも考えられる。 ## 10条(損害賠償) ``` 第10条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方が契約上の義務に違反しまたは違反するおそれがある場合、相手方に対し、当該違反行為の差止めまたは予防および原状回復の請求とともに損害賠償を請求することができる。 2 甲が乙に対して負担する損害賠償は、故意または重大な過失に基づくものである場合を除き、本契約の委託料を限度とする。 ``` ### <ポイント> - 契約の履行に関して契約違反が生じた場合の違反行為の停止等および損害賠償責任に関する条項である。 ### <解説> - 損害賠償責任の範囲・金額・請求期間についてどのように定めるかについては、本検証の内容やコストの負担、委託料の額等を考慮してスタートアップ・事業会社の合意により決められるケースもあるが、本条案では具体的な損害賠償額は定めず、以下のとおりその上限のみ定めた。 - 本モデル契約では、スタートアップの損害賠償の範囲について、何を請求原因とするのかにかかわらず、損害賠償額の上限は委託料を限度とすることを定めている。 - 但し、故意・重過失の場合には、上限規定は適用されないものとしている。損害発生の原因が故意による場合には、免責・責任制限に関する条項は無効になると解釈されるおそれがあり、故意に準ずる重過失の場合(例えば、重大な情報の漏洩等)にも同様に無効とするのが有力な考え方であることから、このような規定を設けた。 - 本モデル契約は、損害立証が困難な秘密情報を取り扱うものであり、かつ、収益性が不明確な研究・開発段階の契約であることから、違反行為による損害の発生を事前に予防、あるいは損害が発生しつつある場合にはそれを最小限に留めることに越したことはない。そこで本条では、損害賠償以外にも違反行為の停止または予防および原状回復の請求が行えることとしている。具体的には、特定の行為を求める仮処分や訴訟手続きなどを行うこととなる。 ## 11条(解除) ``` 第11条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。 ① 本契約の条項について重大な違反を犯した場合 ② 支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合 ③ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合 ④ 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の有効性を争った場合 ⑤ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合 2 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。 ``` ### <ポイント> - 契約解除に関する一般的規定である。 ### <解説> - 4号においては、本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の有効性を争った場合には、契約を解除できることとしている(いわゆる不争条項)。 - スタートアップとしては、以下のようないわゆるチェンジオブコントロール条項(COC条項)等により、M&Aが本モデル契約の解除事由として定められると、M&Aに先立つデューデリジェンスにおいてリスクとして評価されうる。 ### 【解除事由としてのCOC条項の例】 ``` 他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合 ``` - かかる条項が解除事由に含まれている場合は、これらの支障を説明した上で削除を求めることも検討を要する。 - 事業会社より、スタートアップが競合企業に吸収合併されて秘密情報が競合にわたってしまうことを懸念してCOC条項の導入が求められる場合も考えられる。 - その場合には、当該懸念を解消するべく、解除事由となる経営権の移転先を競合会社(具体的に会社名を列挙することも考えられる。)に限定した上でCOC条項を導入することも考えられる。 ## 12条(期間) ``` 第12条 本契約は、本契約の締結日から6ヶ月、または、第3条第3項に定める確認が完了する日のいずれか早い日まで効力を有するものとする。 ``` ### <ポイント> - 契約の有効期間を定めた一般的条項である。 ### <解説> - 本モデル契約では、本報告書の提出期限(3条2項)を基準に有効期間を定めることとしつつも、事業会社が確認をしない限り、いつまでも技術検証契約が続いてしまうことが想定されることから、最長でも6ヶ月を超えないこととしている。 ## 13条(存続条項) ``` 第13条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても本契約第5条第2項(甲の義務)、第6条(共同研究開発契約の締結)、第7条(乙が甲に提供する資料等)第2項および第3項、第8条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い)から第12条(損害賠償)、本条、第14条(準拠法管轄裁判所)ならびに第15条(誠実協議義務)の定めは有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。 ## 14条(準拠法および管轄裁判所) ``` 第14条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <ポイント> - 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。 ### <解説> - クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。 - 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。 ### 【変更オプション1 ― 知財調停】 ``` 第14条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。 2 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 3 第1項に定める紛争を除く本契約に関する紛争(裁判所の知財調停手続きを含む。)については、日本国法を準拠法とし、第1項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <解説> - 紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。 - 「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。 - 運用面では、原則として、3回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。 - 知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。 - 知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。 - また、仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて下記のような仲裁条項に変えるという選択肢もある。 ### 【変更オプション2 - 仲裁条項例】 ``` 本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。 ``` ### <ポイント> 紛争解決手続きとして仲裁を指定する条項である。 ### <解説> - 仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて仲裁条項に変えるという選択肢もある。 ## 15条(協議解決) ``` 第15条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、協議の上解決する。 ``` ### <ポイント> - 紛争発生時の一般的な協議解決の条項である。 ## その他の追加オプション条項 ### 再委託 ``` 第●条 甲は、【乙が書面によって事前に承認】した場合、本検証の一部を第三者(以下「委託先」という。)に再委託することができるものとする。なお、乙が上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要するものとする。 2 前項の定めに従い委託先に本検証の遂行を委託するこの場合、甲は、本契約における自己の義務と同等の義務を、当該委託先に課すものとする。 3 甲は、委託先による業務の遂行について、乙に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。ただし、乙の指定した委託先による業務の遂行については、甲に故意または重過失がある場合を除き、責任を負わない。 ``` #### <ポイント> - 本検証の遂行に際しての再委託の可否および再委託が行われた場合のスタートアップの責任内容について定める条項である。 #### <解説> - 再委託の可否については、再委託について事業会社の事前承諾を要するパターンと再委託先の選定について原則としてスタートアップの裁量により行えるパターンが考えられる。 - 技術の導入検証においては、スタートアップの技術力に着目して契約が締結されることや、事業会社が提供する資料等の取扱いについて事業会社のコントロールを及ぼすという観点から、本モデル契約においては事業会社の同意を取得することとしている。 ### 契約内容の変更 ``` 第●条 本検証の進捗状況等に応じて、検証事項が想定外に拡大した等の事情により、検証期間、委託料等の契約条件の変更が必要となった場合、甲または乙は、その旨を記載した書面をもって相手方に申し入れるものとする。当該申し出があった場合、甲および乙は、速やかに契約条件の変更の要否について協議するものとする。 2 前項の協議に基づき、本契約の内容の一部変更をする場合、甲および乙は、当該変更内容が記載された、変更契約を締結するものとする。 ``` #### <ポイント> - 契約の内容に変更が生じた場合における、契約変更の手続について定めた規定である。 ### 権利義務の譲渡の禁止 ``` 第●条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせもしくは担保に供してはならない。 ``` #### <ポイント> - 契約上の地位については相手方の承諾なく譲渡できないとする一般的規定である。 >本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲、乙記名押印の上、各自1通を保有する。     年  月  日 甲 乙 ---- ## (別紙●●)第2条1項関連 本検証にかかるプロセスは概ね以下のとおりとする。なお、本別紙と本モデル契約が矛盾抵触する場合、本別紙が優先する。 ① 乙は甲に対して、本検証の対象となる製品(ヘッドライトカバー)に関する図面、仕様に関する情報、本検証において期待される放熱性能を含めた目標スペック、その他本検証を甲が進めるにあたり必要となる情報を提供する。 ② 甲は乙から提供された情報を基に、本検証にかかる詳細計画・スケジュールを提示する。詳細計画は以下を含む。 - αを添加したヘッドライトカバーの材料を成形して製造される試験片の形状・寸法などの詳細 - 試験片に対して行われる試験項目(放熱特性の他、機械的強度や疲労特性などを含む。) - その他、乙により特に要望された事項が存する場合、当該事項 ③ 甲は当該計画に沿って本検証を行い、乙に対して本報告書を納品する。乙は本報告書を速やかに確認し、以下の事項を含む通知を相当な期間内に行う。 (i) 共同開発に移行するかどうかの結論 (ii) 放熱特性を含む以下の項目に関する生データを含めた乙の評価結果  (a) ・・・  (b) ・・・ (iii) 共同開発に移行しない場合はその理由 (改善すべき特性の指摘など、具体的な事柄を明記すること。) ④ 甲乙は評価結果が当初想定されたレベルの場合、原則として共同開発契約に移行することとし、そのための措置を速やかに採る。 ### <解説> - すでに、秘密保持契約段階で①②が終了している場合は、詳細計画・スケジュールを別紙として添付することとする。 ================================================ FILE: 3_モデル契約書v1_0_共同研究開発契約書(新素材編)_逐条解説あり.md ================================================ # モデル契約書ver1.0 共同研究開発契約書(新素材) ## 想定シーン 1. 自動車部品メーカーY社は、X社(樹脂に添加可能な放熱に関する新素材を開発した大学発スタートアップ)から本素材の性能および耐久性に関する検証レポートを受領した後、社内検討を行い、正式にX社との共同研究開発を行うことが決定した。 2. 契約交渉においては、双方の意向として、以下の点が挙げられた。 1. X社としては、資金調達の観点からもY社との共同研究開発を開始した時点、および、一定の成果が出た時点で、それぞれ公表したい。 2. Y社としては、研究開発の結果生まれた成果物にかかる知的財産権は自社の帰属としたい。 3. 他方、X社としても、(1)上場審査やM&Aに先立つデューデリジェンスにおいてマイナス評価を受けないために、また、(2)自由度を確保して多数の企業とのアライアンスを実施し市場を拡大して売上を増加させるために、研究開発の結果生まれた成果物にかかる知的財産権は自社の単独帰属としたい。ただし、その場合であってもY社による成果物利用の用途を限定して、当該用途以外の成果物の他社への展開が阻害されない形であれば、当該用途においては成果物をY社のみが使用できるようにすることはやむを得ないと考えている。 4. 協議の結果、単独発明による成果物にかかる知的財産権は当該発明を行った当事者に単独帰属、共同研究開発の成果物にかかる知的財産権はX社に単独帰属させた上で、Y社に対して、一定期間・一定の領域において独占権を認める無償の通常実施権を設定することとした。 5. 研究開発の進め方としては、次のとおりとする。X社が技術者をY社に派遣し、X社およびY社の技術者が共同でY社の設備を用いて、本素材をポリカーボネート樹脂組成物(量産品を念頭においた組成物)に配合し、ヘッドライトカバーの試作品を作成する。X社の技術者の立会いのもと、Y社は当該試作品について、性能検査や耐久試験を行う。そして、性能検査や耐久試験の結果をもとに、X社は、当該素材の表面処理を調整し、再度、ポリカーボネート樹脂組成物への配合、試作品の製造、検査を行う。 6. 試作品が製品としての目処がついた時点で、Y社は量産化のための原料の調達、量産ラインの準備等の作業を行う。 3. 上記については、両社特段異論はなかったが、最大の争点は研究費の負担や研究成果に対する報酬の有無および支払条件であった。X社としては、共同研究開発の成果としての知的財産権について一定期間・一定の領域で無償独占的通常実施権を設定するのであれば、Y社が当該共同研究開発にかかる実費や人件費に加えて、事業化に至る前段階で、研究成果に対する報酬も支払ってもらいたいと主張した。 4. これに対し、Y社としては、最終的に共同研究開発の成果を事業化した場合は何らかの報酬は払うこととするが、事業化に至る前段階の共同研究開発フェーズにおいては実費および人件費のみの支払いとしたいとの意向を伝えてきた。 5. 協議の結果、実費および人件費については、Y社が負担することとした。一方、研究成果に対する報酬については、研究成果が出てから事業化に至るまでに、Y社内での協議検討や商流の調整等で相当程度の時間を要する反面、事業化に至った場合にどの程度の収益が上がるか不透明な状況であった。そこで、研究成果に対する報酬については、事業化に至る前であっても、研究成果が出た時点で頭金として相当価格を支払うこととし、その後についても、商品販売までのロードマップを策定し、その過程にメルクマールを設定し、各時点において研究成果への対価を支払うことを取り決めた。 ## 目次 - [モデル契約書ver1.0 共同研究開発契約書(新素材)](#モデル契約書ver10共同研究開発契約書新素材) - [想定シーン](#想定シーン) - [目次](#目次) - [前文](#前文) - [1条(目的)](#1条目的) - [<ポイント>](#ポイント) - [<解説>](#解説) - [2条(定義)](#2条定義) - [<ポイント>](#ポイント-1) - [<解説>](#解説-1) - [3条(役割分担)](#3条役割分担) - [<ポイント>](#ポイント-2) - [<解説>](#解説-2) - [4条(スケジュールの作成)](#4条スケジュールの作成) - [<ポイント>](#ポイント-3) - [<解説>](#解説-3) - [5条(経費負担)](#5条経費負担) - [<ポイント>](#ポイント-4) - [<解説>](#解説-4) - [【変更オプション条項 - 各自負担】](#変更オプション条項-各自負担) - [6条(情報の開示)](#6条情報の開示) - [<ポイント>](#ポイント-5) - [<解説>](#解説-5) - [7条(知的財産権等の帰属および成果物の利用)](#7条知的財産権等の帰属および成果物の利用) - [<ポイント>](#ポイント-6) - [<解説>](#解説-6) - [【コラム】製造委託の際の実施許諾](#コラム製造委託の際の実施許諾) - [【コラム】知的財産権の帰属バリエーション](#コラム知的財産権の帰属バリエーション) - [8条(ライセンス料の不返還)](#8条ライセンス料の不返還) - [<ポイント>](#ポイント-7) - [9条(第三者の権利侵害に関する担保責任)](#9条第三者の権利侵害に関する担保責任) - [<ポイント>](#ポイント-8) - [<解説>](#解説-7) - [10条(研究成果に対する対価)](#10条研究成果に対する対価) - [<ポイント>](#ポイント-9) - [<解説>](#解説-8) - [【コラム】 マイルストーン方式](#コラムマイルストーン方式) - [11条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い)](#11条秘密情報データおよび素材等の取扱い) - [<ポイント>](#ポイント-10) - [<解説>](#解説-9) - [12条(成果の公表)](#12条成果の公表) - [<ポイント>](#ポイント-11) - [<解説>](#解説-10) - [13条(第三者との競合開発の禁止)](#13条第三者との競合開発の禁止) - [<ポイント>](#ポイント-12) - [<解説>](#解説-11) - [【コラム】競業避止の範囲](#コラム競業避止の範囲) - [14条(第三者との間の紛争)](#14条第三者との間の紛争) - [<ポイント>](#ポイント-13) - [<解説>](#解説-12) - [15条(権利義務譲渡の禁止)](#15条権利義務譲渡の禁止) - [16条(解除)](#16条解除) - [<ポイント>](#ポイント-14) - [<解説>](#解説-13) - [【解除事由として定められるCOCの例】](#解除事由として定められるcocの例) - [17条(期間)](#17条期間) - [<ポイント>](#ポイント-15) - [<解説>](#解説-14) - [18条(存続条項)](#18条存続条項) - [<ポイント>](#ポイント-16) - [19条(損害賠償)](#19条損害賠償) - [<ポイント>](#ポイント-17) - [<解説>](#解説-15) - [20条(通知)](#20条通知) - [<ポイント>](#ポイント-18) - [21条(準拠法および紛争解決手続き)](#21条準拠法および紛争解決手続き) - [<ポイント>](#ポイント-19) - [<解説>](#解説-16) - [【変更オプション1 ― 知財調停】](#変更オプション1知財調停) - [<解説>](#解説-17) - [【変更オプション2 - 仲裁】](#変更オプション2仲裁) - [<ポイント>](#ポイント-20) - [<解説>](#解説-18) - [22条(協議解決)](#22条協議解決) - [その他のオプション条項](#その他のオプション条項) - [協議会の設置](#協議会の設置) - [<ポイント>](#ポイント-21) - [<解説>](#解説-19) ## 前文  X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)は、本製品(第1条で定義する。)の研究開発および製品化を共同で実施することについて、次のとおり合意したので共同研究開発契約(以下「本契約」という。)を締結する。 ## 1条(目的) ``` 第1条 甲および乙は、共同して下記の研究開発(以下「本研究」という。)を行う。 記 ①本研究のテーマ:甲が開発した技術を適用した、窒化アルミニウムを主体とする高熱伝導性を有するウイスカ―および当該ウイスカーを配合した樹脂組成物(以下「本素材」という。)を成形してなるヘッドライトカバー(以下「本製品」という。)の開発 ②本研究の目的(以下「本目的」という。」) :本製品の開発および製品化 ``` ### <ポイント> - 共同研究開発(本研究)のテーマおよび目的に関する規定である。 ### <解説> 共同研究開発のテーマ(本条1号) - 共同研究開発のテーマの記載の抽象度 - 共同研究開発のテーマは、抽象的に規定し過ぎると双方の認識に齟齬が生じやすい。一方、具体的に規定し過ぎると拡張や変更の度に契約修正の必要が生じる。 - そこで、本条1号のように、ある程度の幅を持たせつつ抽象的過ぎず、かつ、具体的過ぎない記載とするのが良い。 - 共同研究開発のテーマの広狭 - 共同研究開発のテーマの定義は、知的財産権等の取扱いや、競業避止の範囲などに影響する。 - 例えば、共同研究開発のテーマの定義が広すぎると、自社固有の研究成果(知的財産権等)が共同研究開発(本研究)の成果と解釈され、本契約に従って知的財産権の帰属や成果物の利用関係が規律される(双方が活用可能なものとなる)リスクがある。さらに、不当に広範囲の競業避止義務が課されることにもつながり、本来は自由に研究できるべき研究領域について活動の制限が発生する危険もある。 - 他方、共同開発のテーマの定義が狭すぎると、実際は共同研究の成果であるにもかかわらず、本契約書の枠外とされてしまい、当該成果に関して勝手に特許出願をされてしまう、または本来禁止したい範囲の競業行為を規制できない等の弊害を生じる可能性がある。さらに、研究のスコープがピボットするたびに、本契約の範囲から逸脱してしまい、再交渉を余儀なくされるリスクもある。 - そこで、共同研究開発のテーマは、広すぎず狭すぎない実態に即したものとすべきである。 共同研究開発の目的(本条②) - 共同研究開発の目的は、両当事者の秘密保持義務の内容および範囲を画するものとしても重要である。 - 秘密保持義務条項では、両当事者は共同研究開発の目的以外の目的で秘密情報を使用してはならないとの条件が設けられることが一般的である(本契約では11条3項)。 - 秘密保持義務の内容および範囲を確定する際に、本条で定める共同研究開発の目的が参照されることになる。 ## 2条(定義) ``` 第2条 本契約において使用される用語の定義は次のとおりとする。 ① バックグラウンド情報  本契約締結日に各当事者が所有しており、本契約締結後30日以内に、当該当事者が他の当事者に対して書面で、その概要が特定された、本研究に関連して当該当事者が必要とみなす知見、データおよびノウハウ等の技術情報を意味する。 ② 本単独発明  特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で各当事者が、相手方から提供された情報に依拠せずに独自に創作した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果を意味する。 ③ 本発明  特許またはその他の知的財産権の取得が可能であるか否かを問わず、本研究の実施の過程で開発または取得した発明、発見、改良、考案その他の技術的成果であって、前号に定める本単独発明に該当しないものを意味する。 ``` ### <ポイント> - 本契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。 ### <解説> バックグラウンド情報(本条①) - 共同開発を始めるにあたり、最も重要な事柄の一つがバックグランド情報(共同研究開発契約締結時にすでに保有していた技術情報)の管理である。 - この管理を怠ると、契約締結前に保有していた情報と契約締結後に新たに生じた情報が混在することにより、バックグランド情報であることの主張立証が困難となり、各情報に関する知的財産権の帰属が曖昧になってしまう。 - そうなると、本来単独の特許として出願できたはずのバックグランド情報が、共同研究開発上の成果物とされてしまい、共有特許や相手方の単独特許となってしまうリスク(コンタミネーションリスク)が生じる。 - このリスクを極小化するため、本モデル契約では、共同研究開発の開始時点において既に各自が保有しているバックグラウンド情報をリストにして開示・交換することの他、以下のような管理を行うことがある。 > (i) 特許出願になじむ技術情報(例:ノウハウ・データ・ソースコード以外のもの)については特許出願をしておく。 > (ii) (i)以外の技術情報については、公証制度やタイムスタンプサービスの利用により、共同開発契約締結時に既に保有していたという証拠化を図る。 - また、相手方による必要以上の技術情報の開示要求リスクを回避するため、本条ではバックグラウンド情報を「自らが必要とみなす」ものとの定義し、開示するバックグラウンド情報の範囲を自ら決定できることとしている。 - このように、(i)開示するバックグランド情報の範囲を自ら決定できるようにしておくこと、(ii)開示したバックグランド情報の相手方における扱い(例:秘密保持義務、目的外使用禁止義務、特許出願禁止義務等)を定めておくことが重要である(本モデル契約では第9条第1項の「秘密情報」の定義にバックグラウンド情報を含めることでこの点に対処している)。 「本単独発明」および「本発明」(本条②③) - 本モデル契約では第7条において、「本単独発明」に関する知的財産権は当該発明を創出した者に帰属し、「本発明」についてはスタートアップに帰属する旨規定しているため、「本単独発明」と「本発明」の区別は極めて重要である。 - ここでいう「本発明」とは、「本単独発明」に該当しない発明等と定義されているが、実質的には共同でなされた発明のことを指している。 ## 3条(役割分担) ``` 第3条 甲および乙は、本契約に規定の諸条件に従い、本研究のテーマについて、次に掲げる分担に基づき本研究を誠実に実施しなければならない。 ① 乙の担当:本素材を用いた本製品の設計、製作および本製品の特性の評価 ② 甲の担当:技術者の派遣。乙の前号の評価の結果を基にした、本素材の表面処理の調整および配合量の検討。本製品の特性の評価への立会い ``` ### <ポイント> - 両当事者の役割分担(担当業務)を定めた規定である。 - 共同研究開発契約は、基本的にはそれぞれの役割分担(担当業務)の範囲内で、誠実に研究開発を行い、その成果を報告し合う義務を相互に負う、準委任契約であるという考えが有力である。請負ではないので、契約中に特記事項がない限り、一定の成果を求められることはない。 ### <解説> 役割分担の範囲の考え方 - 役割分担は、双方の認識の齟齬を回避すべく、当事者間で認識のすり合わせをしておく必要がある。これを怠ると、ある役割については双方ともに全く着手がなされていないということになりかねない。 - もっとも、共同研究開発が未実施あるいは開始直後の段階では詳細な役割分担を決めることが困難である。また、共同研究開発の進行に伴って発生する新たな役割(作業)が不明であることからも、詳細な役割分担を定めることは困難であろう。 - そのような場合においても、本条のように、役割分担の大きな枠組みについてだけでも規定しておくことが望ましい。双方が合意した「枠組み」があれば、後に役割分担の詳細を協議する際もスムーズだからである。 ## 4条(スケジュールの作成) ``` 第4条 甲および乙は、本契約締結後速やかに、前条に定める役割分担に従い、本研究テーマに関する自らのスケジュールをそれぞれ作成し、両社協議の上これを決定する。 2 甲および乙は、前項のスケジュールに従い開発を進めるものとし、進捗状況を逐次相互に報告する。また担当する業務について遅延するおそれが生じた場合は、速やかに他の当事者に報告し対応策を協議し、必要なときは計画の変更を行うものとする。 ``` ### <ポイント> - 共同研究開発(本研究)の具体的内容として、スケジュールの定め方を規定する条項である。 ### <解説> - どのようなタイミングで両者が協議し、具体的なスケジュールや研究テーマ等をどのように確定し、どのように本研究遂行中の問題を解決していくかを決めておくことが重要である。 - 本条では、本契約の締結後速やかにスケジュールを定めることとなっているが、契約締結時に詳細なスケジュールを定めることは困難である場合も多い。そのような場合は、契約締結時に大まかなスケジュールだけでも定めておき、研究開発の進行に応じ、その都度スケジュールを具体的なものにアップデートしていくことが望ましい。 - 事業会社の稟議の都合などで、スタートアップがイメージしているよりも報告書や成果物の納品時期が早く、想定外にスケジュールがタイトとなることがある。そのような事態を回避するためにも、大まかなスケジュールだけでも事前に合意しておくべきである。 ## 5条(経費負担) ``` 第5条 乙は、本研究を行うにあたって生じた経費(甲が費消した研究開発にかかる実費および人件費を含む。)を、書面によって別途合意されない限り、全て負担しなければならない。 ``` ### <ポイント> - 本研究に必要な経費を誰が負担するかを定める条項である。共同開発の費用負担は各自がそれぞれの分担範囲で行うというのが我が国の長らくの商慣習であった。しかし、近年のオープンイノベーションの流れに鑑み、本条のように、資金力の豊かな当事者が費用を負担するというケースも散見される。 - 共同研究開発の実施場所、研究・開発担当者、購入した設備の所有権等が契約終了後どちらの当事者に帰属するかについての規定を定めることも考えられる。 ### <解説> 研究開発の経費と知的財産権の帰属 - スタートアップが提供する素材や技術情報が本研究や本製品の開発において重要な意味を持ち、他方、スタートアップの役割分担に要する費用が高額な場合は、本条のように事業会社が全費用を負担するということもある。 - 事業会社としては、研究開発の経費の多くを負担する場合、実質的には共同研究開発契約ではなく、研究委託契約であるとの理解の下、本研究の結果創出されたすべての知的財産権は事業会社に帰属すべきという主張をしがちである。 - しかし、研究開発の費用負担は、スタートアップが開発に携わる人を出していることに対応する負担であり、当該費用を負担していることが直ちに成果物の知的財産権の帰属主体となることを正当化するものではない。 - 他方、共同研究開発の結果生じた知的財産権の取得のための対価は、成果物創出への貢献度等を踏まえて定められるべきものである。通常、かかる知的財産権を発明者でない者が獲得するためには、別途それに見合った対価を支払う必要がある。 スタートアップが知的財産権を保有する重要性 - 事業会社としては、研究成果に係る知的財産権を取得できずとも、研究成果を(一定の範囲で)独占的に利用できれば事業戦略上支障はないはずである。 - そこで、双方が研究成果に係る事業を成功させるべく、スタートアップが自社で知的財産権を保有することの重要性にも配慮し、スタートアップに知的財産権を帰属させつつ、事業会社に事業領域や期間等の面で一定の限定を付した独占的利用権を設定することで調整することが、創出された発明の最大活用の観点からは望ましい。 - スタートアップが自社で知的財産権を保有する重要性とは、 - ①知的財産権を単独で保有することで事業基盤が強固になり、利益を創出する力が高まる点、および - ②資金調達の際に、投資家に対して、知的財産権の単独保有を通じて事業上の強みを高める旨の説明ができる点 にある。 - 事業会社がスタートアップと対等なパートナーとして付き合う姿勢があれば、スタートアップのコミュニティにおいてもそれが認知され、他のスタートアップからコンタクトされることが期待でき、さらなるイノベーションへのアクセスが容易となる。 - 事業会社は、自社の事業戦略上の必要性を超えた要求をしていないかを常に確認し、スタートアップとWin-Winとなる条件で契約を締結することが、結果として、新たなイノベーションへのアクセスを高め、それにより長期的な繁栄(Sustainability)がもたらされるということを忘れてはならない。 ### 【変更オプション条項 - 各自負担】 ``` 甲および乙は、本研究を行うにあたって自己に生じた経費を、書面によって別途合意しない限り、甲乙各自が負担しなければならない。 ``` ## 6条(情報の開示) ``` 第6条 甲および乙は、本契約締結後30日以内に、各自のバックグラウンド情報(もしくはその概要)を書面で相手方に開示し、特定しなければならない。 2 甲および乙は、本契約の有効期間中、自己が担当する業務から得られた技術情報を速やかに相手方当事者に開示する。ただし、第三者との契約により当該開示を禁止されているものについては、この限りではない。 ``` ### <ポイント> - 両当事者がバックグラウンド情報と各自の担当業務から得られた技術的情報を相手方に開示する規定である。 ### <解説> - バックグラウンド情報のうち、特許出願等に馴染むものについては、コンタミ防止の観点から、相手方に開示する前に特許出願等を済ませておくことが望ましい。 - ただし、特許出願等を済ませていたとしても、特許出願等の内容が公開前の場合は、相手方に開示するかどうかを慎重に判断する必要がある。 - また、バックグラウンド情報は、「本研究に関連して当該当事者が必要とみなす知見…」であるから、これに該当しない情報、つまり、本研究に関連しない情報や本研究に必要でない情報まで開示しないように注意する必要がある。 ## 7条(知的財産権等の帰属および成果物の利用) ``` 第7条 本単独発明にかかる知的財産権は、その発明等をなした当事者に帰属するものとする。甲および乙は、相手方に対し、各自の本単独発明にかかる知的財産権に基づき、相手方が本製品の設計・製造・販売行為をすることを許諾する。許諾の条件は別途協議の上定める。 2 甲は、乙に対し、下記の条件で乙が本研究の開始以前から甲が保有する別紙 ●●に定める特許権に係る発明を実施することを許諾する。 記   ライセンスの対象 :本製品の設計・製造・販売行為   ライセンスの種類 :非独占的通常実施権を設定   ライセンス期間  :本契約締結日から~●年●月●日。ただし、期間が満了する60日前までに、いずれかの当事者が合理的な理由(ライセンスの必要性が消失した場合を含むが、これに限られないものとする)に基づき更新しない旨を書面で通知しない限り、1年間の更新期間で、同条件で自動的に更新されるものとする。   サブライセンス  :原則不可。ただし、[グループ会社名等]に対するサブライセンスは可能   ライセンス料   :ライセンス期間中に乙が販売するすべての本製品の正味販売価格の●%(外税)   地理的範囲    :全世界 3 乙は、甲に対し、前項のライセンス料の計算のため、本契約締結日以降、[期間]毎に、当該期間の販売状況(販売個数・単価、その他ライセンス料の計算に必要な情報を含む。)を当該期間の末日から15日以内に書面で報告するとともに、同30日以内に当該期間に発生したライセンス料を支払うものとする。 4 乙は第2項のライセンス料を甲が指定する銀行口座に振込送金する方法により支払う。振込手数料は乙が負担する。 5 本条のライセンス料の遅延損害金は年14.6%とする。 6 本発明にかかる知的財産権は、甲に帰属する。ただし、甲が本契約14条1項2号および3号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、当該知的財産権を乙または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することを求めることができる。 7 甲は、乙に対し、下記の条件で乙が本発明を実施することを許諾する。 記   ライセンスの対象:本製品の設計・製造・販売行為   ライセンスの種類:本契約締結後●年間は独占的通常実施権を設定し、その後は非独占的通常実施権を設定する。ただし、本契約締結後●年間を経過する前であっても、正当な理由なく乙が本発明を1年間実施しない場合には当該期間の満了時より、または、乙が本発明を乙の事業に実施しないことを決定した場合には当該決定時より、非独占的通常実施権を設定する。   ライセンス期間 :本契約締結日~●年●月●日は独占的ライセンス            ●年●月●日~本発明にかかる知的財産権の有効期間満了日までは非独占的ライセンス   サブライセンス :原則不可。ただし、[グループ会社名等]に対するサブライセンスは可能   ライセンス料  :無償   地理的範囲   :全世界 8 甲および乙は、本研究の遂行の過程で発明等を取得した場合は、速やかに相手方にその旨を通知しなければならない。相手方に通知した発明が本単独発明に該当すると考える当事者は、相手方に対して、その旨を理由とともに通知するものとする。ただし、本素材を配合したポリカーボネート樹脂組成物またはヘッドライトカバーに関する発明については、本発明であると推定されるものとする。 9 甲は、自らの費用と裁量により、本発明について特許出願を行うことができる。ただし、乙のみが本発明のうちの特定の発明について、または特定の国について特許出願を希望する場合、乙がその費用を負担し、乙の名義で当該発明についてまたは当該国について当該特許出願をなすことにつき、乙は協議を求めることができる。 10 前項ただし書により乙が特許出願を行った場合においては、乙は、甲に対し、出願後●年間、当該発明の独占的許諾権および再実施許諾権を無償で設定するものとし、その後は無償の非独占的通常実施権を設定するものとする。 11 甲および乙は、相手方の同意なくして、相手方から開示等を受けた技術情報(バックグラウンド情報を含む。)およびサンプル、本研究の遂行の過程で相手方が創作した本単独発明、考案またはその他の相手方が取得した技術情報もしくはノウハウについて、日本を含めたいかなる国にも特許、実用新案、商標、著作権またはその他のいかなる知的財産権も出願または登録してはならず、いずれかの当事者がこれに違反した場合は、その違反した当事者に当該出願または登録に関する権利またはその持分を無償で譲渡すべき旨を請求することができる。 12 甲および乙は、本発明または本研究の開始以前から甲が保有する別紙●●に定める特許権に係る発明に改良、改善等がなされた場合、その旨を相手方に対して速やかに通知した上で、本条の定めを適用して当該改良、改善等に係る成果を取り扱うものとする。 ``` ### <ポイント> - 本共同開発に関わる知的財産権等の帰属や成果物の利用について定めた規定である。本モデル契約では、本共同研究以降のスムーズな製造・販売への移行が見通せる状況を想定した上で、共同研究の発明等の成果をスタートアップ側に権利帰属させることについて事業会社からの理解を得るため、本発明にかかる知的財産権の権利の帰属と同時に、その後のライセンス条件についても定める内容としている。 - 他方、素材分野では、共同開発後にも製品販売までに長期を要するケースも多い。その際は、特許権等のライセンスにかかる詳細な取り決めは、別途ライセンス契約として締結することで、共同研究開発の契約をシンプルにすることも選択肢である。 - ライセンス料率を決定するためには、スタートアップが提供する特許等の希少性や重要性、本製品の市場規模、販売価格や製品寿命、あるいは本製品の付加価値における当該特許等の貢献度など、個別のケースに応じた幅広な検討が必要である。 ### <解説> 知的財産権の帰属の考え方 - 知的財産権の帰属の決定方法は、 - ①誰が発明したかを問わず、いずれかの当事者に単独帰属させる、 - ②全て当事者間の共有、 - ③当該知的財産等を発明した当事者に帰属、 - ④当事者間で都度協議、 に大別できるが、共同で開発した知的財産権については、創出された発明の最大活用の観点から、スタートアップに単独帰属させることを積極的に検討することが期待される。 - 現状では、知的財産権の共有は、次の点からスタートアップにとって好ましくない。 - 特許権を共有にする場合、日本法の下では、当該特許発明の実施は、契約で特段の制限をかけなければ各共有者が自由に実施できる(特許法73条2項)ものの、当該特許の第三者へのライセンスは共有者の許諾がなければ原則としてなし得ない(特許法73条3項)。 - したがって、例えば、ものづくり系のスタートアップが、第三者に自社プロダクトの製造・量産を依頼するにあたり当該第三者に共有特許をライセンスする必要がある場合、事業会社からライセンスの許可をとらなければならない。しかし、事業会社の社内決裁に時間を要することで事業のスピードが低下したり、そもそもライセンスの許可が下りず、計画が頓挫するといった可能性も否定できない。 - また、共有特許に係る共有持分の譲渡についても、共有者の同意が必要になる(特許法73条1項)。例えば、スタートアップがM&AによるEXITを目指す場合、M&Aのスキームによっては当該特許の共有持分を個別に買主である企業に譲渡する必要が出てくる場合があり、事業会社の許諾が必要となる。そして、当該許諾を適時に得られなければ、当該M&Aに対する支障となる。 - 以上は日本法を前提とする。共有特許制度に関する法律の内容は国によってもまちまちであり、グローバルビジネスにおいては、各国の法制に沿って対応する必要があるが、スタートアップにとってこれも大きな負担となる。 - 結論として、オープンイノベーションを成功させるためには、研究成果についての知的財産権の共有は極力避けることが望ましい。仮に共有にせざるを得ない場合であっても、上記弊害が生じないよう、予め、第三者に対するライセンスについての同意条項を規定するなどの配慮をする必要がある。 成果の利用についての考え方 - 研究成果についての権利をスタートアップに単独帰属させる場合は、共同研究開発契約締結時に、事業会社に当該権利について一定の範囲での独占的な利用権の設定を含むライセンス条件の設定を予めしておくことなどにより、両当事者の納得が得られる整理を模索すべきである。 - 本モデル契約では、本発明にかかる知的財産権について、本条6項で甲に帰属させ、同7項で事業会社に対して本製品を販売等する範囲で独占的通常実施権を設定している。 - もっとも、事業会社が本製品を販売等するためには、その他のスタートアップの知的財産権(具体的には、スタートアップによる単独発明にかかる知的財産権や本研究の開始以前からスタートアップが有している知的財産権)の利用権もあわせて設定しなければならないことがある。 - そこで、本モデル契約では、単独発明にかかる知的財産権の処理については別途協議するとし(本条1項)、本研究の開始以前からスタートアップが有している知的財産権のライセンスについては、ランニングロイヤルティの方式でライセンス料を計算している(本条2項~5項。なお、ライセンスすべき知的財産権は特許権しかないことを前提としている)。 - このように個別にライセンス料を設定する方法の他にも、10条の「研究成果に対する対価」の中に同ライセンス料を含ませる方式もある。この場合には、10条の「研究成果に対する対価」の金額に、ライセンス料を加味した額を設定することとなる。 - 本条においては、本発明のライセンス料を無償としているが、次条に定める研究成果への対価の額や、本発明の汎用性や実用性などを加味し、これを有償にすることも考えられる。 - また、本条では事業会社に「独占的通常実施権」を設定しており、スタートアップ自身が実施することも確保されているが、「専用実施権」(特許法77条)を設定した場合には、特段の定めをしない限りスタートアップ自身が対象発明を実施できなくなる。両者の違いに注意が必要である。 - 上記の実施権の設定に加えて、本発明に係る知的財産権をスタートアップに単独帰属させた場合、状況に応じて、事業会社に当該知的財産権買取の交渉オプションを与える、あるいは、独占的通常実施権の独占期間の延長を協議に基づき認める条項等を入れることで、事業会社に配慮するケースもあろう。 - さらに13条で、一定期間の競業避止義務を定めることで、知的財産権をスタートアップに帰属させることによる事業会社の懸念にも配慮している。 - 本条では、「競業する事業」の範囲が明確とならないという問題も生じ得ることから、具体的な企業名や製品の特徴を列挙することも検討すべきである。 - なお、ライセンス期間について、本件では素材が最終的に製品化されて市場で流通するようになるまでに相当期間を要し、当初設定したライセンス期間では、ライセンスに基づき実際に最終製品を販売できる期間が極めて短くなってしまうおそれがあり、事業会社に不都合である。そのため、一定のライセンス期間を確保する要請がある。 - 他方、徒にライセンス期間を長期化させると、製品化を断念した場合等、ライセンスの必要がない場合にもライセンスが残存することとなり、スタートアップに不都合である。 - そこで、ライセンス期間は契約締結から一定期間(●年間)としつつも、合理的な理由に基づき更新拒絶をしない限り、ライセンスが自動更新されるものとした。このような建付けにすることにより、契約締結後に判明するライセンスの継続の必要性等を加味しながら、ライセンス期間を柔軟に設定することができる。 スタートアップの事業継続性リスク - スタートアップに権利を単独帰属させる場合、事業会社としては、スタートアップが事業に失敗し、破産等、事業継続が困難になった場合、本研究の成果に係る知的財産権が事業会社に対して本条所定のとおりにライセンスされず、本製品の製造等に支障を来すのではないかという懸念を持ちがちである。 - そこで、本条では、スタートアップに経済的不安が生じた場合には、スタートアップから研究成果に係る知的財産権の譲渡を受けることができるようにした(「事業会社の指定する第三者」は、事業会社のグループ会社や知財管理会社に帰属させる場合を想定している)。 - ただし、スタートアップが破綻に瀕している状況下での知的財産権の譲受は詐害行為取消(倒産手続上は否認権行使)などのリスクがあることから、実際に知的財産権の譲渡を受ける場合には、スタートアップにおいて事業再生手続などを利用するなどして、債権者の一定の関与のもとで譲渡手続きを進めるのが適切といえる。 - また、当該スタートアップの価値の大部分を知的財産権(およびこれを開発することのできる人材)が占めるのであれば、事業会社としては、知的財産権の譲受ではなく、当該スタートアップ自体を買収することも検討に値する(無論、債権債務関係が承継される点には留意が必要である)。 - スタートアップ破綻時のリスクとして、事業会社に与えられた通常実施権が当該特許権を取得した第三者に対抗できるかという点については、「通常実施権は、その発生後にその特許権・・・を取得した者に対しても、その効力を有する。」と規定する当然対抗制度(特許法99条)の対抗力の範囲の問題となるが、現時点では、判例の蓄積が存在しない。よって、差止請求権の不行使およびその対価という、通常実施権に関する主たる法律関係はともかく、独占特約、実施報告義務などの付随的な法律関係についてまで当然に対抗できるかどうかは、議論の余地がある。 ### 【コラム】製造委託の際の実施許諾 - 自ら量産設備を揃えることが資金的に困難なスタートアップにとって、自社プロダクトの量産を第三者に委託することが時として必須となる。 - ここで注意しなければならないのは、第三者に特許製品の製造を委託する行為が特許法第73条第3項により他の共有者の同意を要する行為に該当するとされることがあるということである。 - この点、過去の裁判例から、製造委託に関しては、第三者に対する実施許諾には該当しないとして、特許権が共有の場合であっても他の共有者の同意なく、これを行うことが可能な場合がある。 - ただし、その要件として、①スタートアップから受託者に関する指揮監督、②委託者(スタートアップ)による製造物の全量引取りなどを具備する必要がある。 - なお、上記要件において特許の共有者の同意なく製造委託が可能であることは、日本独自の取り決めであり、日本国外においては、一般的になんらかの許諾が必要である。 ### 【コラム】知的財産権の帰属バリエーション - 本条では本発明にかかる知的財産権は全てスタートアップに帰属と規定しているが、その他、以下のようなバリエーションがある。 1. 発明者主義:発明をした発明者が在籍する主体に知的財産権が帰属する。スタートアップと事業会社の従業員が共同で発明をしたら、双方共有の知的財産権となる。知的財産権法のデフォルトルールに沿っており、直感的にフェアな条件であり、合意しやすい。 2. すべて共有:発明者が誰であろうと、本発明にかかる全ての知的財産権をスタートアップと事業会社の共有とする(持分割合について、等分にする場合や貢献度に応じて定める場合がある)。知的財産権法のデフォルトルールからすると、実際に開発業務を行ったスタートアップの従業員が発明者となるケースが多いと思われるが、事業会社が共同研究開発にかかる費用を支払っていることに鑑みると、事業会社が支払う額によっては「すべて共有」とすることも妥当な落としどころとなる場合もある。ただし、知的財産権を共有とした場合、各自の権利行使について原則として共有者の承諾が必要となるというデメリットが発生することから、第三者への利用許諾を含め、単独で知的財産権を行使できるよう事前の同意を得ておくことが望ましい。 3. 分野を決めてそれぞれ単独帰属とする方法 共有にかかる知的財産権は活用が難しい。特に、スタートアップとしては、自社の技術を横展開していろいろな企業に使って欲しいのに、共有にかかる特許権を第三者ライセンスすることにつき、事業会社の同意が得られないケースも存在する。そこで、本件においても、多くの用途に適用しうる新素材の汎用的な発明はスタートアップに単独帰属、本製品(ヘッドライトカバー)に特有の発明は事業会社に単独帰属、とする整理も考え得る。 ## 8条(ライセンス料の不返還) ``` 第8条 乙は、本契約に基づき甲に対して支払ったライセンス料に関し、計算の過誤による過払いを除き、本特許権等の無効審決が確定した場合(出願中のものについては拒絶査定または拒絶審決が確定した場合)を含むいかなる事由による場合でも、返還その他一切の請求を行わないものとする。なお、錯誤による過払いを理由とする返還の請求は、支払後30日以内に書面により行うものとし、その後は理由の如何を問わず請求できない。 ``` ### <ポイント> - 支払われたライセンス料についての不返還を定めた条項である。 ## 9条(第三者の権利侵害に関する担保責任) ``` 第9条 甲は、乙に対し、本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売が第三者の特許権、実用新案権、意匠権等の権利を侵害しないことを保証しない。 2 本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売に関し、乙が第三者から前項に定める権利侵害を理由としてクレームがなされた場合(訴訟を提起された場合を含むが、これに限らない。)には、乙は、甲に対し、当該事実を通知するものとし、甲は、乙の要求に応じて当該訴訟の防禦活動に必要な情報を提供するよう努めるものとする。 3 乙は、本特許権等が第三者に侵害されていることを発見した場合、当該侵害の事実を甲に対して通知するものとする。 ``` ### <ポイント> - ライセンス対象となる特許権等の非保証を定めた規定である。 - 1項の特許非保証を前提として、2項は、ライセンシーが第三者から訴訟提起された場合のライセンサーの協力義務を定めたものである。 ### <解説> - ライセンスの対象となる特許等については、第三者の権利侵害がないことを保証する(いわゆる「特許保証」)のが当然だという考え方になりがちである。 - しかし、特許保証を行うことは、ライセンサーのリスクが非常に高い。スタートアップと事業会社の間の適切なリスク分配という観点からは、特許保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。仮に、特許保証をするにしても、「甲が知る限り権利侵害はない」「甲は権利侵害の通知をこれまで受けたことはない」ことの表明にとどめるべきである。 ## 10条(研究成果に対する対価) ``` 第10条 本研究が所期の目的を達成した時は、乙は、甲に対し、下記の定めに従って研究成果に対する対価を支払うものとする。 記 ① 本製品が別紙●●所定の性能を達成した時: ●円 ② 本製品を用いたヘッドライトの試作品が完成した時点:   甲乙別途協議した金額(ただし、●円を下回らないものとする。) ③ 本研究の成果を利用した商品の販売が開始した時点:   甲乙別途協議した金額(ただし、●円を下回らないものとする。) ``` ### <ポイント> - 本研究の完了後、事業化に至るまでにおける、研究成果に対する報酬の支払を定める規定である。 ### <解説> 研究成果の対価交渉の方針・考え方 - 「想定シーン」で述べたように、研究成果が出てから事業化に至るまでに、事業会社の社内での最終製品の開発・生産準備や商流の調整等で相当程度の時間を要する上に、事業化に至った場合にどの程度の収益が上がるか不透明である場合が少なくない。 - そこで、研究成果に対する報酬については、事業化に至る前であっても、研究成果が出た時点で頭金として相当価格を支払うこととし(本条①)、その後についても、商品販売までのロードマップを策定し、その過程にメルクマールを設定し、各時点において研究成果への対価を支払うことを取り決め、ただしその額について別途協議の上定めるものとした(本条②③)。 - この②や③の対価の額の交渉に時間を要することも考えられるが、あくまでも金額が合意できてから作業を開始するのが原則であるから、スタートアップとしてはその交渉期間中に②や③に係る作業だけを進めること(特に、その成果を事業会社側に共有すること)は、程度問題ではあるが、避けたい。 - そのため、②や③の対価に係る交渉は、収益性等の考慮事項の数値が見えてきた段階で、早めに始めておくことが望ましい。 研究成果に対する報酬発生有無および報酬額 - 研究成果に対する報酬の有無およびその支払額は、 - a.共同開発した知財の帰属、 - b.実施権の許諾範囲、 - c.競業避止の範囲、 - d.納品物とその利用範囲、および - e.製品のターゲット市場の規模や期待収益 などを考慮して交渉・決定されるべきものである。 - 本モデル契約では、「① 本製品が別紙●●所定の性能を達成した時」に頭金を支払うこととしている。この金額の設定においては、 - 研究開発で発生する経費(実費+人件費)は事業会社が負担する形としている点、 - 共同開発された知財はスタートアップの単独帰属としている点、 - 事業会社は共有知財について一定期間・一定の領域で無償独占的通常実施権の設定を受ける点、 などを踏まえつつ、事業化に至った際の製品の市場性や利益率等などの経済性、本製品の付加価値における当該特許等の貢献度、そしてライセンスフィーとのバランスなど、個別のケースに応じた幅広な検討が必要である。 - 他にも、例えば共同研究開発を開始してすぐにスタートアップから開発における重要度の高い知財が事業会社に提供される場合、研究の成否を問わず、契約締結のタイミングで一時金の支払いを設定するという選択肢もあり得るだろう。 ### 【コラム】 マイルストーン方式 - 上例のように、オープンイノベーションにおいて、事業会社の事業の進捗に応じて、スタートアップに対して、段階的に対価を支払う形式をマイルストーン方式といい、その場合の対価をマイルストーン・ペイメントと呼ぶ。 - 本条では、研究成果に対する報酬の支払条件を定めるにあたってマイルストーン方式を採用している。 - この点、創薬の分野では、特許等のライセンス料の支払条件を定めるにあたり、マイルストーン方式が広く採用されているが、他の分野ではほとんど実績がない。 - しかし、研究成果に対する報酬をマイルストーン方式で支払うことは、資金調達を常に実現しなくてはならないスタートアップ側の事情と、事業の見通しが不確定な状況では多額の対価を支払いたくない事業会社側の事情とを調整する、一つの有効な方法ではないかと期待されており、今後、オープンイノベーションを進めるにあたり、他分野でも導入を検討すべきである。 - 創薬の分野でマイルストーン方式の採用が進んだ背景としては、マイルストーンの指標として、治験の進行度に合わせたフェーズ(1~4まである)や、各国の行政機関(例:日本ではPMDA)による薬事認証が存在するので、マイルストーン達成の客観性が担保されている点が指摘できる。 - 他の分野においてもマイルストーン方式を導入する際は、マイルストーンの指標について、その達成(支払条件の具備)につき客観性を担保できるようにしておくことが重要である。 - 本モデル契約においては、頭金●円の支払が発生する条件を「①本製品が別紙●●所定の性能を達成した時」と定め、マイルストーンの指標を客観的に定めようとしている。 ## 11条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い) ``` 第11条 甲および乙は、本研究の遂行のため(以下「本目的」という。)、文書、 口頭、電磁的記録媒体その他開示および提供(以下「開示等」という。)の方法 および媒体を問わず、また、本契約締結の前後にかかわらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報およびデータ、素材、機器およびその他有体物、本研究のテーマ、本研究の内容および本研究によって得られた情報(別紙●●に列挙のものおよびバックグラウンド情報を含む。以下「秘密情報等」という。)を秘密として保持し、秘密情報等を開示等した者(以下 「開示者」という。)の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に開示等または 漏えいしてはならない。 2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。 ① 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの ② 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの ③ 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの ④ 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの ⑤ 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、又は創出したもの 3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本目的のために合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。 4 受領者は、秘密情報等について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報等の組成または構造を特定するための分析を行ってはならない。 5 受領者は、秘密情報等を、本目的のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。 6 本条第1項および同条第3項ないし第5項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができる。 ① 法令の定めに基づき開示等すべき場合 ② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに基づく開示等の要求がある場合 ③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合 7 本研究が完了し、もしくは本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(その複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他の有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。 8 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。 9 本条は、本条の主題に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面または口頭による提案その他の連絡事項の全てに取って代わる。 10 本条の規定は、本契約が終了した日からさらに5年間有効に存続するものとする。 ``` ### <ポイント> - 相手から開示提供等を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。 ### <解説> 従前に締結した秘密保持条項との関係整理 - 秘密保持契約やPoC契約に引き続いて共同研究開発契約を締結する場合、共同研究開発契約よりも前に締結した契約における秘密保持条項と共同研究開発契約における秘密保持条項の関係が問題となる。 - 共同研究開発契約においては新たな秘密保持条項を設けずに既存の(従前の契約で定めた)秘密保持条項が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては共同研究開発契約で新たに定める秘密保持条項が、既存の秘密保持条項を上書きすることとしている(本条9項)。 - 共同研究開発契約において、既存の秘密保持条項とは異なる内容の秘密保持条項を設ける場合は、特にそれらの優先関係に留意しなければならない。 秘密情報の定義(秘密である旨の特定の要否) - 秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、本モデル契約では、様々な情報、データ、素材等がやりとりされることが多い共同研究開発段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクが大きいと考え、秘密である旨の特定を要さない前者を採用している。 - 他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、「秘密を指定」する条文を採用すればよい。 - なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、「秘密保持契約」のモデル契約書に詳細に解説しているため、そちらも参考にされたい。 秘密情報の定義(秘密情報に有体物を含めるか否か) - 共同研究開発では、無体物である情報やデータに加え、有体物である素材それ自体がやり取りされることが多いところ、この素材は、当事者にとっては秘密情報と同様の重要性を持つものである。そこで、本モデル契約では、素材を含む有体物をも保護することとし、有体物を含む保護の対象全体を「秘密情報等」と整理している。 - また、本モデル契約では、秘密情報等に「別紙●●に列挙のもの・・・を含む」という文言を入れることで、特に秘密情報等として保護すべきものが(別紙に列挙することで)秘密情報等の範囲から漏れることを防止できる立て付けにしている。 - さらに、本モデル契約では、「本契約締結の前後にかかわらず」の文言を入れることで、締結前の秘密情報も保護の対象となることを明らかにしている。 ## 12条(成果の公表) ``` 第12条 甲および乙は、第11条で規定する秘密保持義務を遵守した上で、本研究開始の事実として、別紙●●に定める内容を開示、発表または公開することができる。 2 甲および乙は、第11条で規定する秘密保持義務および次項の規定を遵守した上で、本研究の成果を開示、発表または公開すること(以下「成果の公表等」という。)ができる。 3 前項の場合、甲または乙(以下「公表希望当事者」という。)は、成果の公表等を行おうとする日の30日前までに本研究の成果を書面にて相手方に通知し、甲および乙は協議により当該成果の公表等の内容および方法を決定する。 ``` ### <ポイント> - 共同研究開発の開始および成果の公表の手続きについて定める規定である。 ### <解説> - まず、共同研究開発を開始した事実については、契約締結の時点で具体的な公表内容を合意し、それを記載した別紙を契約書に添付しておくことが望ましい。 - 共同研究開発の成果の公表については、秘密保持義務を遵守することはもちろん、成果について事前通知の上、公表内容について協議を行うべきこととした。 - スタートアップは、資金調達などの観点からピッチイベントなどを行うことが多い。このようなピッチイベントにおいて研究の開始や成果についてプレゼンすることも本条の「公表」に該当するため、本条の手続きに則って進める必要がある。 ## 13条(第三者との競合開発の禁止) ``` 第13条 甲および乙は、本契約の期間中、相手方の文書による事前の同意を得ることなく、本製品と同一または類似の製品(本素材を配合した樹脂組成物からなる自動車用のライトカバーを含む。)について、本研究以外に独自に研究開発をしてはならず、かつ、第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託してはならない。 ``` ### <ポイント> - いわゆる競業避止義務を定める条項であり、具体的には、本モデル契約の期間中の第三者との競合開発を禁止する規定である。 ### <解説> - 本モデル契約の期間中に、競業他社とも類似の共同研究開発がされ、そちらで成果物を特許出願されてしまうリスクがあるため、本条を定めることは重要である。 ### 【コラム】競業避止の範囲 - 競業避止の範囲について、本モデル契約では「本製品と同一または類似の製品」としているが、「本研究と同一または類似のテーマ」などと定められることもある。 - 「本製品」や「本研究のテーマ」の定義が曖昧であると、広汎な研究領域が競業避止の名の下に禁止されてしまい、当事者によっては大きなリスクとなる。他方、「本製品」や「本研究のテーマ」の定義が狭すぎると、本来禁止したい領域が禁止できないというリスクが生じる。 - 競業避止義務違反に関する紛争においては、上記の「類似」の範囲が問題となることが多い。したがって、別紙等で「類似」の範囲をより具体的に定める(「①○○、②△△、③□□を全て備える製品は本製品と類似しているものとする」など)ことも検討すべきである。 - さらに、禁止の範囲を「類似」(技術的に近似していること)に限定すべきかという論点もある。たとえば、技術的には異なっていても、同じ市場にあり競合する製品(例:白熱電球とLED)も競合避止の範囲に含めるべきか、という問題である。 ## 14条(第三者との間の紛争) ``` 第14条 本研究に起因して、第三者との間で権利侵害(知的財産権侵害を含む。)および製造物責任その他の紛争が生じたときは、甲および乙は協力して処理解決を図るものとする。 2 甲および乙は、第三者との間で前項に定める紛争を認識した場合には速やかに他方に通知するものとする。 3 第1項の紛争処理に要する費用の負担は以下のとおりとする。 ① 紛争の原因が、専ら一方当事者に起因し、他方当事者に過失が認められない場合は当該一方当事者の負担とする。 ② 紛争が当事者双方の過失に基づくときは、その程度により甲乙協議の上その負担割合を定める。 ③ 上記各号のいずれにも該当しない場合、甲乙協議の上その負担割合を定める。 ``` ### <ポイント> - 研究開発時に起こりうる第三者との主なトラブルは、知的財産権等の権利の侵害または製造物責任に関するものである。本条はこのようなトラブルが発生した場合の両当事者の責任と費用負担について定めた規定である。 ### <解説> - 開発委託の場合には、開発者側に、成果物が第三者の知的財産権を侵害しないことの表明保証を求める場合も少なくないが、本件は両当事者の知見を合わせて成果物の創出に向けて取り組む共同研究開発であるから、第三者の知的財産権の侵害が発覚した場合には、両者協力して処理解決することとし、紛争を認識した場合は他方に速やかに通知することとしている。 - 責任と費用は、紛争の原因がある当事者の負担とし、当事者双方の過失による場合には過失の度合いにより協議の上負担する旨規定している。 ## 15条(権利義務譲渡の禁止) ``` 第15条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせ、もしくは担保に供してはならない。 ``` ## 16条(解除) ``` 第16条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。 ① 本契約の条項について重大な違反を犯した場合 ③ 支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合 ④ 手形交換所の取引停止処分を受けた場合 ⑤ 本単独発明または本発明に関する知的財産権の有効性を争った場合 ⑥ その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合 ⑦ 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。 ``` ### <ポイント> - 契約解除に関する一般的な規定である。 - 4号においては、ライセンス対象となっている本発明に関する知的財産権およびライセンス対象となりうる本単独発明に関する知的財産権の有効性を争った場合には、本モデル契約を解除できることとしている(いわゆる不争条項)。 ### <解説> - 以下のように、いわゆるチェンジオブコントロール(COC)が解除事由として定められることがある。しかし、そうすると、M&Aが解除事由となりかねず、上場審査やデューデリジェンスにおいてリスクと評価され得る。 - したがって、スタートアップとしては、解除事由にCOCが含まれている場合、それによる支障を説明し、削除を求めることを検討すべきである。 #### 【解除事由として定められるCOCの例】 ``` 他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合 ``` ## 17条(期間) ``` 第17条 本契約の有効期限は本契約締結日から1年間とする。本契約は、当初期間や更新期間の満了する60日前までにいずれかの当事者が更新しない旨を書面で通知しない限り、さらに1年間、同条件で自動的に更新される。 2 乙は、本研究が技術的に見て成功する可能性が低いと合理的に判断されるまたは事業環境が変化し本研究の事業化が困難であると合理的に判断される等の合理的理由がない限り、前項に定める更新を拒絶することができない。 ``` ### <ポイント> - 契約の有効期間を定めた一般的条項である。 ### <解説> - 共同研究開発契約の有効期間は、「1年間」などの具体的な期間を定めるケースや開発の進捗を終了条件として定めるケースなどがあるが、いずれのケースにおいても契約の終了時期が明確に分かることが重要である。 - 本条2項は、事業会社が更新を拒絶できる場合を、本研究の成功や事業化が困難と判断されるような合理的理由がある場合に限定している。事業会社との共同研究開発が継続していることが、スタートアップの資金調達におけるVC側の考慮要素となり得るため、事業会社側からの合理性のない更新拒絶を防止する趣旨である。 - このような「合理的理由」は、様々なものが考えられるため契約締結時点で一義的に定めることは困難である。もっとも、研究テーマによっては更新拒絶を可能とすべき具体的な数値基準を定めることもできよう。当事者間のトラブルを避ける観点からは、可能であれば、そのような具体的な基準を定めておく方が望ましい。 ## 18条(存続条項) ``` 第18条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても第7条(知的財産権等の帰属および成果物の利用)ないし第12条(成果の公表)、第14条(第三者との間の紛争)、19条(損害賠償)、第20条(通知)、第21条(準拠法および紛争解決手続き)および第22条(協議解決)の定めは有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。 ## 19条(損害賠償) ``` 第19条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方が契約上の義務に違反しまたは違反するおそれがある場合、相手方に対し、当該違反行為の停止または予防および原状回復の請求とともに損害賠償を請求することができる。 ``` ### <ポイント> - 契約違反が生じた場合に違反行為の停止等および損害賠償請求ができることを規定している条項である。 ### <解説> - 損害賠償責任の範囲・金額・請求期間は、本研究の内容やコストの負担、委託料の額等を考慮してスタートアップと事業会社の合意により決められる。例えば、損害賠償額の上限を、研究成果に対する報酬の総額とすることが考えられる。 - 本研究は、損害立証が困難な秘密情報を取り扱うものであり、かつ、収益性が不明確な研究開発段階の契約であることから、本条では、損害賠償請求だけでなく違反行為の停止または予防および原状回復の請求が行えることとしている。具体的には、特定の行為を求める仮処分や訴訟手続きなどを行うこととなる。 ## 20条(通知) ``` 第20条 本契約に基づく他の当事者に対する通知は、本契約に別段の規定がない限り、すべて、他方当事者に書面または各種記録媒体(半導体記録媒体、光記録媒体および磁気記録媒体を含むが、これらに限らない。)を直接交付し、郵便を送付し、または他方当事者が予め了承する電子メールもしくはメッセージングアプリを利用して電磁的記録を送信することにより行うものとする。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約における通知方法の原則を定めた規定である。書面だけでなくUSBメモリなどの媒体によるやり取りも可能とし、また、郵便やファックスに加え、相手方が了承すれば電子メールやメッセージングアプリでの通知も認める規定としている。 ## 21条(準拠法および紛争解決手続き) ``` 第21条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <ポイント> - 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。 ### <解説> - クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。 - 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。 ### 【変更オプション1 ― 知財調停】 ``` 第21条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。 2 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 3 第1項に定める紛争を除く本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、第1項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` #### <解説> - 紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。 - 「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。 - 運用面では、原則として、3回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。 - 知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。 - 知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。 - また、仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて下記のような仲裁条項に変えるという選択肢もある。 ### 【変更オプション2 - 仲裁】 ``` 本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。 ``` #### <ポイント> - 紛争解決手続きとして仲裁を指定する条項である。 #### <解説> - 仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて仲裁条項に変えるという選択肢もある。 ## 22条(協議解決) ``` 第22条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議の上解決する。 ``` ## その他のオプション条項 ### 協議会の設置 ``` 1 甲および乙は、本研究の効率化および甲乙間の合意形成を容易にするため、甲乙各々から選ばれた委員からなる協議会を設ける。 2 甲および乙は、自らが選任した協議会の委員の変更・追加・削減を行う場合は、その変更・追加・削減に関わる委員の名前と共にその旨を相手方当事者に連絡する。 3 協議会での決定は、全委員の合意により行われる。協議会において全委員の合意が得られず決定ができなかった問題は、甲および乙の最高責任者間の協議により決められる。 4 協議会は、次の事項について決定を行う。 (1)本研究の具体的な遂行方法 (2)各当事者への担当業務の進捗状況 (3)本研究の遂行方法またはスケジュールの変更 (4)本研究が事業化した際の当事者の権利 (5)本研究の内容変更または中止 (6)その他協議会が定める事項 5 甲および乙は、本契約の目的を達成するために、定期的に(少なくとも3ヵ月に1回)または必要に応じて、協議会を開催して、甲および乙が行う本研究の成果の報告を受けると共に、前項に挙げられた事項について協議決定する。 6 協議会の議事は、その都度、議事録その他の書面により合意する。 7 第3項によっても協議が調わない場合、各当事者は、書面によって相手方に相当期間を定めて通知することにより、本契約を将来に向かって解除することができる。この場合、両当事者は当該解除までの担当業務の報告を行う。 ``` ### <ポイント> - 当事者同士の協業を円滑にするために、情報交換や進捗方法の調整を行うための会議の開催について定める規定である。 ### <解説> - オープンイノベーションにあたっては、慎重に進めたい事業会社側のスピード感と手元資金が尽きるまでの限られた期間の中で迅速に進めたいスタートアップ側のスピード感が合わず、アライアンスがうまくいかないケースが少なくない。 - この課題を解決するために、協議会への出席者について、(特に事業会社側において)本研究について一定の決裁権をもったメンバーを入れることを義務化することも考えられる。 ================================================ FILE: 4_モデル契約書v1_0_ライセンス契約書(新素材編)_逐条解説あり.md ================================================ # モデル契約書ver1.0 ライセンス契約書(新素材) ## 想定シーン 1. X社(樹脂に添加可能な放熱に関する新素材を開発した大学発スタートアップ)とY社(自動車部品メーカー)の共同研究開発は順調に進み、研究成果として、樹脂に対して本素材を特定量配合してなる透明性樹脂組成物、その成形体およびそれからなるライトカバーについて、共同研究契約に基づきX社単独名義で特許出願がなされた。 2. また、本素材を用いた樹脂により形成されるヘッドライトカバーの量産化の目処もついたことから、X社からY社に対するライセンスの内容や事業化後の両社の権利関係を協議することとなった。 3. また、共同研究開発の結果、Y社においては、当初想定していた製品(ポリカーボネート樹脂組成物からなるヘッドライトカバー。以下「当初製品」という。)以外の製品(アクリル系樹脂組成物からなるテールランプカバー。以下「応用製品」という。)にも研究成果を活用できると考えたため、Y社は、X社に対し、応用製品についても研究成果の利用許諾を得たいと考えるに至り、本ライセンス契約を締結することとした。 4. ライセンスの条件の概要は以下のとおりである。 1. バックグラウンド技術のライセンスは、共同研究開発契約において当初製品について定めたものと同様に、非独占的通常実施権により行うこと。 2. 研究成果は汎用性が高く、X社の利用の自由度を確保しておくため、応用製品については、非独占的通常実施権を設定すること。 3. X社は、本素材の技術力をブランディングするために取得した登録商標「XXX」を、ヘッドライトカバーとテールランプカバーのPRに使用してもらうことを希望し、Y社もこの点を了承していること。 ## 目次 - [前文](#前文) - [1条(定義)](#1条定義) - [2条(権利の許諾)](#2条権利の許諾) - [3条(禁止事項)](#3条禁止事項) - [4条(本製品2に関するライセンス料)](#4条本製品2に関するライセンス料) - [5条(監査)](#5条監査) - [6条(ライセンス料の不返還)](#6条ライセンス料の不返還) - [7条(改良技術)](#7条改良技術) - [8条(本商標)](#8条本商標) - [9条(第三者の権利侵害に関する担保責任)](#9条第三者の権利侵害に関する担保責任) - [10条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い)](#10条秘密情報データおよび素材等の取扱い) - [11条(期間)](#11条期間) - [12条(解除)](#12条解除) - [13条(契約終了後の措置)](#13条契約終了後の措置) - [14条(損害賠償)](#14条損害賠償) - [15条(存続条項)](#15条存続条項) - [16条(準拠法および紛争解決手続き)](#16条準拠法および紛争解決手続き) - [17条(協議解決)](#17条協議解決) - [その他のオプション条項](その他のオプション条項) ## 前文  X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)とは、甲乙間で●年●月●日付で締結した共同研究開発契約に基づいて甲に単独帰属した特許権等の応用製品に関する実施許諾の条件等を定めるため、次のとおりライセンス契約(以下「本契約」という。)を締結する。 ### <ポイント> - 本モデル契約は、以下の各ライセンスをスタートアップから事業会社に対して行うための契約である。 1. 研究開発着手時に想定していなかった製品(応用製品)に、研究成果ならびに共同研究開発に着手する前にスタートアップが保有していた特許権を利用することについてのライセンス 2. 本素材についてスタートアップが保有する技術をブランディングするために保有している商標権のライセンス - 前提理解のため、知財等と対象用途、規定する契約種別の整理を以下に示す。

対象知財等

本製品1
(当初製品、共同研究開発契約で対象としたヘッドライトカバー)
本製品2
(応用製品、本ライセンス契約で対象とするテールランプカバー)
共同研究開発にて、
各々が単独で開発・取得した知財等
使用しない 使用しない
共同研究開発の成果として
共同で発明された知財等

共同研究開発契約にて規定
(本モデル契約でも第2条で引用)

  • 年間は独占的通常実施権
  • ライセンス料:無償
  • など

本ライセンス契約にて規定

  • 非独占的通常実施権
  • ライセンス料:有償
  • など
共同研究開発に着手する前に
スタートアップが保有していた知財等

共同研究開発契約にて規定
(本モデル契約でも第2条で引用)

  • 非独占的通常実施権
  • ライセンス料:有償
  • など

本ライセンス契約にて規定

  • 上記と同条件
本商標

本ライセンス契約にて規定

  • 非独占的通常使用権
  • 無償
### <解説> - 共同研究開発契約では、共同研究開発に着手する前にスタートアップが保有していた特許権等(以下「本バックグラウンド特許権」という。)および研究成果にかかる発明に関して、研究開発時に想定していた製品(「ヘッドライトカバー」)の製造等についてライセンスする旨の条項を設けている。 - 一方、共同研究開発終了後における、スタートアップの本バックグラウンド特許権や研究成果にかかる発明に関する、応用製品の製造等についてのライセンスは、共同研究開発の結果によってその要否および内容が異なるため、同契約書には規定されていない。 - そこで、本モデル契約は、応用製品の製造等について、①バックグラウンド特許権および②研究成果に関するライセンスを行うものである。 - 本モデル契約(ライセンス契約)においては、許諾条件(独占・非独占の別、許諾範囲、ライセンス料等)、技術情報の提供の有無、改良技術の取扱い等が交渉のポイントとなる。 ## 1条(定義) ``` 第1条 本契約において使用される次に掲げる用語は、各々次に定義する意味を有する。 ① 本製品1   別紙製品目録1記載のヘッドライトカバーをいう。 ② 本製品2   別紙製品目録2記載のテールランプカバーをいう。 ③ 本製品   本製品1および本製品2を総称したものをいう。 ④ 本特許権   甲が有する別紙「知的財産目録」記載の特許権または特許出願をいい、これには甲乙間で●年●月●日付で締結した共同研究開発契約第2条第3号に定める本発明の全部または一部に基づく特許権または特許出願が含まれる。 ⑤ 本バックグラウンド特許権   甲乙間で●年●月●日付で締結した共同研究開発契約第2条第1号に定めるバックグラウンド情報(以下「バックグラウンド情報」という。)の全部または一部に基づき取得された、甲が有する別紙「知的財産目録」記載の特許権または特許出願をいう。 ⑥ 本商標   甲が有する別紙「知的財産目録」記載の各商標(商標出願および商標登録の有無を問わないものとする。)をいう。 ⑦ 本特許権等   本特許権、本バックグラウンド特許権および本商標に係る商標権をいう。 ⑧ 本地域   全世界をいう。 ⑨ 改良技術   特許を受けられるか否かに拘わらず、本製品または本製品の製造もしくは使用方法に関するすべての改良、修正および変更をいう。 ⑩ 関連会社   別紙関連会社目録に記載の会社をいう。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。 ### <解説> 本製品の定義 - 「本製品」の定義によって、権利許諾の範囲が確定することとなるため、記載の仕方には注意が必要である。ここでは「本製品1」が共同研究開発の際に想定していた当初製品、「本製品2」が応用製品を指している。 - 本製品の定義を、「自動車用の樹脂により形成されるヘッドライトカバー」または「自動車用テールランプカバー」とだけ記載した場合、本特許権を実施しない製品についてもライセンス対象製品に含まれ、ライセンス料の計算に算入されてしまう。 - 一方、「本特許権を実施する自動車用の樹脂により形成されるヘッドライトカバー」等と「本特許権を実施する」という要件も含めて定義した場合、スタートアップは、本製品2に本特許権にかかる特許発明が実施されていることを確認できない限り、本来ライセンス対象となるべき製品の売上等をライセンス料の計算に算入できない。 - そこで、本モデル契約においては、ライセンスを受ける製品を別紙製品目録において定めることとした。同目録においては、製品名や製品番号等で対象製品を特定することが考えられる。 特許権の定義 - 「本特許権」には、共同研究成果にかかる特許出願または特許権、「本バックグラウンド特許権」には、共同研究開発に着手する前にスタートアップが保有していた特許権等が含まれるよう、これらを別紙「知的財産目録」に記載する必要がある。 - このように「本特許権」と「本バックグラウンド特許権」を分けて定義するのは、本製品1において、「本特許権」については共同研究契約に基づく独占的実施許諾が、「本バックグラウンド特許権」については本モデル契約に基づく非独占的実施許諾がなされており、さらに実施許諾地域も異なるなど、実施許諾条件が異なるためである。 本地域の定義 - 「本地域」の定義は、権利許諾の範囲を定めるものである。本条では全世界としているが、特許権は国ごとに発生するものであり、当該発生国においてのみ特許権としての効力を有するので、対象国を列挙することもある(属地主義)。 - 本地域の範囲について、スタートアップが特許権を保有する範囲とすることも考えられる。 #### 【追加オプション条項 ー 技術情報】 ``` ⑪「本技術情報」  本特許権にかかる特許発明を実施するにあたって必要となる設計図・仕様書・図表などの資料および技術情報をいう。 ``` ### <解説> - 特許のライセンスのみでは事業会社が本製品の製造ができない場合は、技術情報やノウハウ等も合わせてライセンスすることも考えられる。 - その場合は、技術情報を定義するが、スタートアップとしては、上記の定義を採用した場合には、自社がブラックボックス化しているノウハウ等の開示と利用許諾を行う義務を負うことになるため、ノウハウの開示が不必要なケースにおいて不用意にノウハウを含んだ技術情報のライセンスに応じるべきではない。 ### 【コラム】本製品が事後的に改良された場合の扱い - 上記のようにライセンスの対象となる製品(本製品)を別紙等で詳細に特定することは通常行われる実務であるが、本製品が将来改良されて、別紙による特定から逸脱することが想定される。 - このような事態を防止するために、別紙による本製品の特定について、ある程度上位概念的に記載するという方法と、「本製品」をある程度詳細に特定した上で、定義規定にライセンスの対象製品として、「本製品(基本的な設計思想を同一にする改良品を含む。)」というような表現にする、という方法がある。 - いずれにせよ、ライセンス契約を起案する際には、製品には常に改良が伴いうるということを念頭に、ライセンス対象を特定する必要がある。 - 知的財産目録についても同様の問題がある。すなわち、後に一方当事者が単独で取得した特許権についても、ライセンス範囲とするのかという論点である。 - 本製品の改良を前提としない場合、かかる論点は生じにくいが、そうでない場合は上記と併せて考える必要がある。 ## 2条(権利の許諾) ``` 第2条 甲および乙は、本製品1の製造・販売のための本特許権の通常実施権が、甲乙間で締結した●年●月●日付共同研究開発契約第7条1項および第7項に記載の条件で設定されていることを確認する。 2 甲および乙は、本製品1の製造・販売のための本バックグラウンド特許権の非独占的通常実施権が、甲乙間で締結した●年●月●日付共同研究開発契約第7条第2項に記載の条件(ただし、ライセンス期間は本条第6項の定めが優先するものとする。)で設定されていることを確認する。 3 甲は、乙に対し、本地域内において、本製品2の設計、製造・販売のために、本特許権および本バックグラウンド特許権の非独占的通常実施権を許諾する。本特許権および本バックグラウンド特許権の対価は4条で定める。 4 乙は、前項所定の許諾地域外であっても、本製品2を輸出することができる。 5 乙は本製品に本商標を付すように努めるものとし、当該使用の限りにおいて、甲は、乙に対し、本商標の非独占的通常使用権を無償で付与する。 6 本条に定める実施権および使用権の許諾期間は、本契約の期間中または各権利の存続期間満了までのいずれか早いほうとする。 7 乙は、甲が、本特許権または本バックグラウンド特許権(日本の特許権および日本の特許法第127条に相当する特許法がある外国の特許権を対象とする。)に関し、無効理由を解消させる目的で訂正審判請求または無効審判手続における訂正請求を行う場合(以下「訂正等」という。)、甲が訂正等をすることを予め承諾する。 ``` ### <ポイント> - スタートアップから事業会社に対する本特許権、本バックグラウンド特許権および本商標にかかる商標権のライセンスについて定めたものである。 ### <解説> #### 特許権の整理 - ①対象製品(本製品1【当初製品】か本製品2【応用製品】)か)および②共同研究開発により創出された特許権(本特許権)の許諾か本バックグラウンド特許権の許諾か、を記載する必要がある。これを整理したのが以下の表である。
本製品1 本製品2
共同研究開発の成果として共同で発明された知財等

本モデル契約第2条1項および共同研究開発契約第7条第7項に規定

  • ライセンス対象:本製品1の設計・製造・販売
  • ●年間は独占的通常実施権、その後は非独占的通常実施権
  • ライセンス料:無償
  • 地理的範囲:全世界
  • ライセンス期間:本モデル契約の期間中または各権利の存続期間満了までのいずれか早いほう

本モデル契約第2条3項、4条に規定

  • ライセンス対象:本製品2の設計・製造・販売
  • 非独占的通常実施権
  • ライセンス料:有償
  • 地理的範囲:本地域(全世界)
  • ライセンス期間:本モデル契約の期間中または各権利の存続期間のいずれか早いほう
共同研究開発に着手する前にスタートアップが保有していた知財等

本モデル契約第2条2項および共同研究開発契約第7条2項に規定

  • ライセンス対象:本製品1の設計・製造・販売
  • 非独占的通常実施権
  • ライセンス料:有償(ライセンス期間中に事業会社の販売するすべての本製品1の正味販売価格の●%(外税))
  • 地理的範囲:全世界
  • ライセンス期間:●年

本モデル契約第2条3項、4条に規定

  • 上記と同条件
本商標

本ライセンス契約にて規定

  • 非独占的通常使用権
  • 無償
- なお、本条では取り扱っていないものの、共同研究開発においてスタートアップまたは事業会社の単独発明が生じた場合には、共同研究開発契約7条1項に基づき、単独発明にかかる特許権等の知的財産権のライセンスの有無および条件を別途協議の上定めることとなる。 - ライセンスの条件については、同発明の重要性や本製品との関係性を考慮しながら、独占的ライセンスにするか否か、有償にするか否か、有償にする場合にいかなる算定式でライセンス料を算定するか等を決定する必要がある。 #### ライセンスの範囲 - ライセンサー(実施許諾者)は、ライセンシー(実施権者)による想定外の実施を防ぐため、ライセンス(許諾)の範囲を限定的に定める必要がある。本条ではライセンスの対象を製品で限定している。 - 特に、スタートアップは、自社の競争優位性を保つ上で、特許1件あたりの重要性が事業会社のそれに比して高いことが多いから、ライセンスの対象を過度に広く設定しないよう留意すべきである。 - 逆に、事業会社は、真に自社事業に必要な範囲にライセンス対象を留めるよう配慮することが、スタートアップとの中長期的な関係を築くために重要である。オープンイノベーションを通じて自社の事業を継続的に強化していくための秘訣のひとつであるといえよう。 #### 専用実施権 - 本条では、1条⑧号所定の本地域内において、本製品2の製造販売に関する非独占的**通常実施権**を許諾している。**専用実施権**(特許法77条)が提案されることもあるが、専用実施権を設定する場合、契約で別段の定めがなければ、特許権者であるスタートアップ自身も実施ができない(通常実施権の場合は、スタートアップ自身も実施ができる。)。 - 事業会社にとって専用実施権を提案する最大のメリットは、事業会社自ら差止請求権を有する、ということである。反面、差止請求権を行使した場合に抗弁的な法的措置として一般的な特許無効審判は、ライセンサー(スタートアップ)自らが対応しなければならない点には留意が必要である。 - したがって、スタートアップとしては、専用実施権の設定は慎重に判断すべきである。 - なお、専用実施権制度はグローバルには普遍性を有する制度ではないので、この点も留意する必要がある。 #### 商標等の許諾 - 本条では、スタートアップが保有する特許および技術のブランド化の観点から、同技術等に関する商標権をスタートアップが保有していることを前提に、事業会社に対して同商標権の使用許諾を行なっている。 - スタートアップとしては、コアとなる技術のブランディングの観点から、当該技術の名称等につき商標登録を行い、商標権を取得することも検討すべきである。 - なお、本件の場合、スタートアップは事業会社に本商標を使用させるということを超えて、より積極的に、ブランディングの観点から本商標を事業会社に使用させたいという意向があることを前提として、事業会社に対して、本製品に本商標を付する努力義務を課している。 - 商標の使用許諾までは行わない、類似のブランディング方法としては、製品の説明書やウエブサイトに「この製品は○○社のα技術を採用しております。」「この製品は○○社と共同して開発した成果を利用しております。」との記述をしてもらうことである。このような記述がブランディングのみならず、資金調達等に及ぼすプラスの影響は計り知れない。 #### 訂正審判等の承諾 - 本条7項は、訂正審判等に関する事前承諾を定めたものである。 - 特許法127条は、「特許権者は、専用実施権者、質権者または・・・通常実施権者があるときは、これらの者の承諾を得た場合に限り、訂正審判を請求することができる。」と定めている。 - そのため、訂正審判等の必要性を考え、上記条項を設けている。 ### 【コラム】独占的な実施権 - 独占的な実施権は、第三者に対する参入障壁となるので、実施権者に対して、いわば「商圏を与える」という趣旨を持つ。 - 手元資金の厚さが企業存続に影響を及ぼすスタートアップは、時として、特許の実施許諾と引き換えに一時金の獲得を目指すことがあるが、そのような場合には独占的な実施権の付与を前提に、「年間△△万円のリターンが得られる商圏を獲得するために一時金○○万円を支払う、設備投資のようなものですよ。独占期間内の●年間で十分に回収可能です。」という提案をしていくことになる。 ## 3条(禁止事項) ``` 第3条 乙は、甲の書面による事前の承諾を得た場合を除き、以下の各号に掲げる行為をしてはならないものとする。 ① 第三者(乙の子会社または関連会社を除く)に前条に定める実施権および使用権を再許諾すること。 ② 本契約に基づく権利を一部または全部を問わず第三者に譲渡、移転、担保設定、リース、貸与または共有等すること。 ``` ### <ポイント> - ライセンシーの禁止事項を定める条項である。 ### <解説> - 本件では、事業会社が自ら製造を行うことを想定していることから、事業会社による第三者へのサブライセンスを禁止している(本条1号)。 - ただし、ライセンシーは自社の子会社や関連会社で製造販売を行うことも考えられるため、これらを第三者の範囲から除いている。 - しかし、「関連会社」の定義はあいまいであるため、「関連会社」という文言を使用するときは、これを定義規定や別紙等で特定する必要がある(本モデル契約においては別紙で特定する形式にしている(第1条第10号)。 - なお、子会社または関連会社以外にサブライセンスの必要があることが契約締結までに判明している場合は、別紙等で当該サブライセンス先を特定した上で、サブライセンスを許可することもありえよう。 - 本条2号は、許諾された権利の譲渡、移転、担保設定等を禁止する一般的規定である。 ## 4条(本製品2に関するライセンス料) ``` 第4条 乙は、甲に対し、本製品2に関する本特許権および本バックグラウンド特許権に係る発明の実施許諾の対価(以下「ライセンス料」という。)として、以下の支払いを行う。  ① 本契約締結日から1ヶ月以内に金●円(外税)  ② 本契約の期間中に乙の販売するすべての本製品2の正味販売価格の ●%(以下「ランニングロイヤルティ」という。) 2 乙は、甲に対し、ランニングロイヤルティの計算のため、本契約締結日以降、[期間]毎に、当該期間の販売状況(販売個数・単価、その他ランニングロイヤルティの計算に必要な情報を含む)を\[●から●日以内に\]書面で報告するとともに、当該ランニングロイヤルティを当該期間の末日から●日以内に支払うものとする。 3 乙は前項のライセンス料を甲が指定する銀行口座振込送金の方法により支払う。これにかかる振込手数料は乙が負担するものとする。 4 本条で定めるライセンス料についての消費税は外税とする。 5 本条のライセンス料の遅延損害金は年14.6%とする。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約におけるライセンス(本製品2についての本特許権および本バックグラウンド特許権の非独占ライセンス)の対価としてのライセンス料の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。 - ライセンス料(率)を決定するためには、スタートアップが提供する特許等の希少性や重要性、本製品の市場規模、販売価格や製品寿命、あるいは本製品の付加価値における当該特許等の貢献度など、個別のケースに応じた幅広な検討が必要である。 - また、上記条項では、ランニングロイヤルティの算定を本製品2の正味販売価格(総販売価格から運賃や保険料および梱包費などの経費を控除した販売価格)に基づき行っているが、販売価格を基準にすることもありうる。 ### <解説> ライセンス料設定の考え方 - ライセンス料については、①ライセンス契約締結時にまとまった額を支払い(イニシャルフィー)、②その後は実施量に応じて定期的に支払う(ランニングロイヤルティ)のが一般的である。 - 交渉においては、イニシャルフィーとランニングロイヤルティの料率がトレードオフの関係になることがある。その際、ランニングロイヤルティに重きをおいてハイリスクハイリターンを狙うか、イニシャルフィーに重きを置いて足元のキャッシュフローを固めるか、という判断が必要になる。 > ランニングロイヤルティ :ライセンス対象製品の製造販売量が少なければライセンス料が少なくなるが、製造販売量が多ければライセンス料が多くなる。 > イニシャルフィー :ライセンス対象製品の製造販売量に関わらず、契約締結時点で一定のまとまった額が入ることとなる。 - 本件では独占的通常実施権を設定していないが、独占的通常実施権を設定する場合においては、他社へライセンスできないことに対する補償として、対象製品の製造販売の数量に関わらず、一定のライセンス料を最低額として(ミニマムギャランティとして)設定した上でランニングロイヤルティを設定することもありうる。 - ランニングロイヤルティは、年度ごとや、半期ごとの報告・支払いを義務付けるものが多いといえるが、四半期ごと、毎月というものも存在する。 - ランニングロイヤルティを規定する場合、その支払い金額を裏付ける報告義務を課すことが通常である。当該報告義務の対象は、ランニングロイヤルティを計算するに必要最小限の範囲を定めることが原則となる。 - 逆に言うと、「ライセンス料の計算基準=報告監査可能」という公式を満たすように、ライセンス料の計算基準を決めることがセオリーとなる。 ## 5条(監査) ``` 第5条 甲は、乙に対して、報告されたライセンス料に関連する製品の売掛台帳、決算書、その他の経理書類・帳簿類を開示すべきことを請求することができる。 2 甲は、乙に対して、報告されたライセンス料に関して、公認会計士その他中立な第三者による監査を請求することができる。 3 前項の費用は甲が負担する。ただし、監査の結果、乙の報告したライセンス料額が支払うべきライセンス料額よりも10%以上少なかった場合、甲は乙に対してその費用を求償することができる。 4 甲は、本契約の各条項が遵守されているか否かを調査するため、乙に対し、いつでも本商標を使用する乙の商品およびその包装、その商品に関する広告、カタログ等の提出を要求し、これを自ら検査することができる。 ``` ### <ポイント> - 第4条のライセンス料の計算が正しいことを確認するための監査の方法を定めた規定である。 ### <解説> - 監査の費用については、原則はライセンサー(実施許諾者)が負担することを原則としつつも、監査の結果、不正が発生した場合はライセンシー(実施権者)が負担することとしている。ただし、不正の定義で争いが生じることもあるため、ライセンス料の10%以内の誤差は除くものとしている。 - スタートアップがライセンサーの場合、監査費用の負担が困難なケースも少なくなく、監査請求が実質的な解決策にならない場合もある。そのため、報告されたライセンス料が正しいことについて、一定の手数料をスタートアップが負担することで、事業会社名義の意見書の提出を求めることができるようにする等、異なる監督手段を設けることも考えられる。 - ランニングロイヤリティの支払いが適正でなかった場合には、未払い分につき遅延損害金年利14.6%が発生することとなり(本モデル契約4条5項)、これが実質的なペナルティとなっている。 ## 6条(ライセンス料の不返還) ``` 第6条 乙は、本契約に基づき甲に対して支払ったライセンス料に関し、計算の過誤による過払いを除き、本特許権等の無効審決が確定した場合(出願中のものについては拒絶査定または拒絶審決が確定した場合)を含むいかなる事由による場合でも、返還その他一切の請求を行わないものとする。なお、錯誤による過払いを理由とする返還の請求は、支払後30日以内に書面により行うものとし、その後は理由の如何を問わず請求できない。 ``` ### <ポイント> - 支払われたライセンス料についての不返還を定めた条項である。 ### <解説> - 支払済みの対価の返還については、出願中の特許に拒絶査定が出て特許が成立しない、対象となる特許が無効審判により無効にされてしまった場合などに問題が生じやすい。 - 本条を認める代わりに、以下のオプション条項のとおり、特許登録前後でライセンス料率に差を設けるということも考えられる。オプション条項では出願中の特許が1つであることを前提としている。出願中の特許が複数ある場合は、そのうちの一部のみが特許として登録される可能性がある点に留意されたい。 #### 【第4条1項変更オプション – 未登録特許のロイヤルティ】 ``` 第4条 乙は、甲に対し、本特許権および本バックグラウンド特許権に係る発明の実施許諾の対価(以下「ライセンス料」という。)として、以下の支払いを行う。  ① 本契約締結日から1ヶ月以内に金●円(外税)  ② 本契約の期間中に乙の販売するすべての本製品2の正味販売価格について以下の料率(以下「ランニングロイヤルティ」という。) - \[出願中の特許\]が特許として登録されるまでに乙が販売した本製品2については、本製品2の正味販売価格の●% - \[出願中の特許\]の特許登録後に乙が販売した本製品2については、本製品2の正味販売価格の●% ``` ## 7条(改良技術) ``` 第7条 甲は乙に対し、自己の裁量で、本契約期間中に、本特許権または本バックグラウンド特許権にかかる発明に改良、改善等をした場合(本製品に関する改良技術を開発した場合を含むが、これに限られないものとする)、その事実を通知し、さらに、乙の書面による要請があるときは、当該改良技術を乙に開示する。乙は、本契約第2条に規定される条件に準じて、本地域において、かかる改良技術に基づき本製品を製造、販売する非独占的権利を有する。 2 甲が当該改良技術につき特許を取得した場合、乙は、本契約に規定される 条件に従い、本地域において、当該特許にかかる発明を無償で実施する非独占的権利を有する。 3 乙は、本契約期間中に乙により開発されたすべての改良技術を、開発後直ちに甲に開示し、当該改良技術につき、当該改良技術に基づき本製品を製造、使用および販売する無期限、地域無限定、無償かつ非独占的な実施権を、再許諾可能な権利と共に、甲に許諾する。 4 乙が、いずれかの国において当該改良技術の特許出願または実用新案出願を申請することを希望する場合、乙は甲に対し、かかる出願前に出願内容の詳細を開示するものとする。 ``` ### <ポイント> - 当事者が、ライセンス対象の特許を基本特許として、応用・改良技術を開発した場合の取り扱いを定めた規定である。これを整理したのが以下の表である。
ライセンサー(スタートアップ)による改良
  • 通知義務なし、事業会社が要求した場合は開示義務あり
  • 事業会社に非独占的権利を許諾、無償
ライセンシー(事業会社)による改良
  • 通知義務あり、開示義務あり
  • スタートアップに非独占的権利を許諾、無償
外国出願の取り扱い
  • ライセンシー(事業会社)が特定の国への出願を希望した場合、ライセンサー(スタートアップ)に対し、事前に出願内容を開示
- このように例えば、ライセンシーによる改良技術の取り扱いについて定めていなかった場合、数年後、ライセンシーが基本特許の周辺に100件を超える応用・改良特許を出願し、これら改良特許のライセンスとのクロスライセンスを提案してくるということもあるため、改良技術の取り扱いを定めておくことは重要である。 - 共同研究開発契約7条12項でも改良技術の取り決めがなされているが、同条項のみでは、共同研究開発契約の契約期間満了後に改良結果が生じた場合に対応できなくなるため、ライセンス契約において改めて改良技術が生じた場合の取り決めを定めておく必要がある。 ### <解説> ライセンサーの改良技術 - 1項および2項は、ライセンサー(スタートアップ)が改良技術を開発した場合の規定である。本項では、ライセンサーに改良技術の通知の裁量を与えつつ、ライセンシー(事業会社)が要請した場合には、本製品の製造販売についての非独占的権利が許諾されるとしている。 - 2項では、改良技術のライセンスについて特段追加のライセンス料を必要としないこととしているが、追加のライセンス料その他の条件の見直しについて定めることも考えられる。 - なお、改良発明に関する事業会社による国外での出願について、スタートアップに対し、当該出願(または登録後の権利)の買取の優先交渉権を与えることも考えられる。 #### 【追加オプション条項 ― ライセンス料等の見直し】 ``` 3 前2項の場合、甲乙は第4条に定めるライセンス料その他の条件の変更について協議を行うものとする。 ``` ### <ポイント> - 本オプション条項を追加する場合、第2項の次に配置することになる。 ライセンシーの改良技術 - 3項以下は、ライセンシー(事業会社)が改良技術を開発した場合の規定である。 - ライセンシーには、改良技術の通知義務を課すとともに、ライセンサーに対し、非独占的権利を無償で許諾することとしている。また、ライセンシーの改良技術の特許出願については、事前にライセンサーに対し出願内容の詳細を開示するとともに、当該特許の買い取りに関する優先交渉権を与えることとしている。 ## 8条(本商標) ``` 第8条 乙は、第2条第5項の規定に基づき本商標を使用する場合、商標法その他関連法規の規定を遵守するとともに、本商標の機能を損ない、権利の喪失を招くことのないように努めなければならない。 2 乙は、甲の事前の同意なしに、以下の各号に定める行為を行ってはならない。ただし、甲乙間で協議の上、本契約に基づき使用可能な本商標に類する商標を定めた場合は、当該商標を本製品に使用することができるものとする。 (1)本商標を本製品に類似する商品に使用する行為 (2)本商標に類似する商標を本製品に使用する行為 (3)本商標に類似する商標を本製品に類似する商品に使用する行為 3 乙は、本商標の使用に際し、その商品の品質の低下等により、本商標にすでに化体されている業務上の信用を失墜させるような行為をしてはならない。 ``` ### <ポイント> - ライセンサーが保有技術についての商標を有する場合に、この商標の使用方法について定めた規定である。 - 商標法53条は、「専用使用権者または通常使用権者が指定商品もしくは指定役務またはこれらに類似する商品もしくは役務についての登録商標またはこれに類似する商標の使用であって商品の品質もしくは役務の質の誤認または他人の業務に係る商品もしくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と定めているため、本商標の登録の取消事由が発生することを防止するべく、2項の規定が設けられている。 - また、本商標のブランド価値の棄損を防止するべく、3項では、商標の信用失墜行為を禁止している。 ## 9条(第三者の権利侵害に関する担保責任) 第9条 甲は、乙に対し、本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売が第三者の特許権、実用新案権、意匠権等の権利を侵害しないことを保証しない。 2 本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売に関し、乙が第三者から前項に定める権利侵害を理由としてクレームがなされた場合(訴訟を提起された場合を含むが、これに限らない。)には、乙は、甲に対し、当該事実を通知するものとし、甲は、乙の要求に応じて当該訴訟の防禦活動に必要な情報を提供するよう努めるものとする。 3 乙は、本特許権等が第三者に侵害されていることを発見した場合、当該侵害の事実を甲に対して通知するものとする。 ### <ポイント> - ライセンス対象となる特許権等の非保証を定めた規定である。 - 1項の特許非保証を前提として、2項は、ライセンシーが第三者から訴訟提起された場合のライセンサーの協力義務を定めたものである。 ### <解説> - ライセンスの対象となる特許等については、第三者の権利侵害がないことを保証する(いわゆる「特許保証」)のが当然だという考え方になりがちである。 - しかし、特許保証を行うことは、下記コラムに記載のとおり、ライセンサーのリスクが非常に高い。スタートアップと事業会社の間の適切なリスク分配という観点からは、特許保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。仮に、特許保証をするにしても、「甲が知る限り権利侵害はない」「甲は権利侵害の通知をこれまで受けたことはない」ことの表明にとどめるべきである。 ### 【コラム】 特許保証をするとライセンサー(特許権者)のリスクが高い理由 - 特許紛争が生じた場合、特許保証を前提とすると、理屈上、ライセンサーは必ず損をする(少なくとも得はしない)。 - 今、スタートアップが事業会社に対して特許ライセンスをして、事業会社が本製品を1億円売り上げたとする。この場合、スタートアップが得るロイヤルティは、ライセンス料率3%とすると300万円である。他方、事業会社に対して、第三者がその保有する特許に基づいて特許侵害を主張した場合、当該1億円の売り上げに対する損害額は、 1. ライセンス料相当額(特許法102条3項参照)で計算して300万円、 2. 得べかりし利益(同2項)で計算して限界利益率を10%と仮定すると1000万円、ということになる。 - 特許保証とは、これらの損害額についてライセンサーが保証すべきというものなので、ライセンサーはライセンス料として300万円獲得し、特許保証で300万円または1000万円を支払うという計算になるから、理屈上得はしない。 ## 10条(秘密情報、データおよび素材等の取扱い) ``` 第10条 甲および乙は、本契約の遂行のため、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示および提供(以下「開示等」という。)の方法ならびに媒体を問わず、また、本契約の締結前後に関わらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報およびデータならびに素材、機器およびその他有体物、(別紙●●列挙のものおよびバックグラウンド情報を含む。以下「秘密情報等」という。)を秘密として保持し、秘密情報等を開示等した者(以下「開示者」という。)の事前の書面による承諾を得ずに、第三者に開示等または漏えいしてはならないものとする。 2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。 1.  開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの 2.  開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの 3.  正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等提供されたもの 4.  開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの 5.  開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、又は創出したもの 3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本契約の遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本契約遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。 4 受領者は、秘密情報等について、開示者の事前の書面による同意なく、秘密情報等の組成または構造を特定するための分析を行ってはならない。 5 受領者は、秘密情報等を、本契約の遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。 6 本条第1項および同条第3項ないし第5項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができるものとする。 ① 法令の定めに基づき開示等すべき場合 ② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに従った開示等の要求がある場合 ③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合 7 本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。 8 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。 9 本条は、本条の主題に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面または口頭による提案、およびその他の連絡事項の全てに取って代わる。 10 本条の規定は、本契約が終了した日よりさらに5年間有効に存続するものとする。 ``` ## <ポイント> - 相手から提供を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。 ## <解説> 従前に締結した秘密保持条項との関係整理 - 秘密保持契約、PoC契約や共同研究開発契約に引き続いてライセンス契約を締結する場合、ライセンス契約よりも前に締結した契約における秘密保持条項とライセンス契約における秘密保持条項の関係が問題となる。 - ライセンス契約において秘密保持条項を設けずに前者が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においてはライセンス契約内の秘密保持条項が、すでに締結されている秘密保持条項を上書きすることを9項で明記している。 - なお、既存の秘密保持条項およびライセンス契約の秘密保持条項の内容次第では、既存の秘密保持条項よりも、ライセンス契約の秘密保持レベルが落ちる可能性があるため、その点に留意した上で優先関係を定めることが望ましいであろう。 秘密情報の定義(秘密である旨の特定の要否) - 秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、技術情報提供のために各種の情報、データ、素材等がやりとりされることがあるライセンス段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクを避けるため、前者を採用している。 - 他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、「秘密を指定」する条文を採用すればよい。 - なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、「秘密保持契約」のモデル契約書に詳細に解説しているため、そちらも参考にされたい。 ## 11条(期間) ``` 第11条 本契約の有効期限は本契約締結日から●年間とする。本契約は、当初期間や更新期間の満了する60日前までに、いずれかの当事者が合理的な理由に基づき更新しない旨を書面で通知しない限り、1年間の更新期間(以下、それぞれ「更新期間」という。)で、同条件で自動的に更新されるものとする。 ``` ### <ポイント> - 契約の有効期間を定めた一般的条項である。 ### <解説> - ライセンシーの場合は、契約期間を「対象となる全ての特許が満了等により消滅するまで」と規定し、更新時の再交渉を避けるというのがセオリーである。 - もっとも、ライセンシーは特許権に係る発明を実施するために相当程度の額をかけて設備投資をすることとなるため、合理的な理由なくして一定期間(●年間)でライセンスを含めた本モデル契約の有効期間が満了してしまうことは大きなリスクとなる。そこで、本条においては、契約期間を●年としつつ、更新拒絶がない限り自動更新することとし、合理的な理由なくして更新拒絶できないこととした。 ## 12条(解除) ``` 第12条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。 1.  本契約の条項について重大な違反を犯した場合 2.  支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合 3.  手形交換所の取引停止処分を受けた場合 4.  本特許権または本バックグラウンド特許権の有効性を争った場合 5.  その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合 2 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。 ``` ### <ポイント> - 契約解除に関する一般的規定である。 - 4号においては、ライセンス対象となっている本特許権および本バックグラウンド特許権の有効性を争った場合には、契約を解除できることとしている(いわゆる不争条項)。 ### <解説> - 以下のように、いわゆるチェンジオブコントロール(COC)が解除事由として定められることがある。しかし、そうすると、M&Aが解除事由となりかねず、上場審査やデューデリジェンスにおいてリスクと評価され得る。 - したがって、スタートアップとしては、解除事由にCOCが含まれている場合、それによる支障を説明し、削除を求めることを検討すべきである。 #### 【解除事由としてのCOC条項の例】 ``` 他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合 ``` ## 13条(契約終了後の措置) ``` 第13条 乙は、本契約が前条に基づく甲の解除により終了した場合は直ちに、期間満了または合意解除により終了した場合はその終了後3か月以降、以下の義務を負う。 ① 本製品を販売し、またはその注文を受けてはならない。 ② 甲の指示により、本製品の在庫、見本・カタログを含む広告・宣伝材料等を甲に引き渡し、または破棄する。 ``` ### <ポイント> - 本条は、契約終了時のライセンシーの義務を定めたものである。 ### <解説> - 本条では、製品の販売等の禁止とともに、製品在庫その他の商材の引き渡し、破棄義務を定めている。 ## 14条(損害賠償) ``` 第14条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方が契約上の義務に違反しまたは違反するおそれがある場合、相手方に対し、当該違反行為の停止または予防および原状回復の請求とともに損害賠償を請求することができる。 ``` ### <ポイント>  契約違反が生じた場合に違反行為の停止等および損害賠償請求ができることを規定している条項である。 ### <解説> - 損害賠償責任の範囲・金額・請求期間は、ライセンスの内容やコストの負担、ライセンス料の額等を考慮して当事者間の合意により決められる。 - 本モデル契約は、迅速な被害回復が必要とされる知的財産権に関する契約であることから、本条では、損害賠償だけでなく違反行為の停止または予防および原状回復の請求が行えることとしている。具体的には、特定の行為を求める仮処分や訴訟手続きなどを行うこととなる。 ## 15条(存続条項) ``` 第15条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても第6条(ライセンス料の不返還)、第9条(第三者の権利侵害に関する担保責任)、第10条(秘密保持、データおよび素材等の取扱い)、第13条(契約終了後の措置)ないし第17条(協議解決)の定めは有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。 ## 16条(準拠法および紛争解決手続き) ``` 第16条 本契約に関する紛争については、日本国法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <ポイント> - 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。 ### <解説> - クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。 - 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。 ### 【変更オプション1 ― 知財調停】 ``` 第16条 本契約に関する知的財産権についての紛争については、日本国法を準拠法とし、まず[東京・大阪]地方裁判所における知財調停の申立てをしなければならない。 2 前項に定める知財調停が不成立となった場合、前項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 3 第1項に定める紛争を除く本契約に関する紛争(裁判所の知財調停手続きを含む)については、日本国法を準拠法とし、第1項に定める地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <解説> - 紛争解決手段について、どの裁判管轄ないし紛争解決手段が適切かは一概には決められず、当事者の話し合いで決定するのが望ましい。話し合いによる解決を目指す場合、東京地方裁判所および大阪地方裁判所において創設された知財調停を利用することが考えられる。 - 「知財調停」は、ビジネスの過程で生じた知的財産権をめぐる紛争を取り扱う制度であり、仲裁手続き同様、非公開・迅速などのメリットがあるだけでなく、専門的知見を有する調停委員会の助言や見解に基づく解決を行うことができ、当事者間の交渉の進展・円滑化を図ることができるというメリットがある。 - 運用面では、原則として、3回程度の期日内で調停委員会の見解を口頭で開示することにより、迅速な紛争解決の実現を目指すとされており、迅速に解決でき、コストや負担を軽減できる可能性がある。 - 知財調停を利用するためには、東京地方裁判所または大阪地方裁判所いずれかを,合意により調停事件の管轄裁判所とする必要がある。 - 知財調停は、当事者双方が話合いによる解決を図る制度であるため、当事者が合意できず調停不成立となった場合は、訴訟等の手続きにより別途紛争解決が図られることとなる。 - また、仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて下記のような仲裁条項に変えるという選択肢もある。 #### 【変更オプション2 - 仲裁条項例】 ``` 本契約に関する一切の紛争については、日本国法を準拠法とし、(仲裁機関名)の仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により終局的に解決されるものとする。 ``` ### <ポイント> - 紛争解決手続きとして仲裁を指定する条項である。 ### <解説> - 仲裁手続きは、裁判と比べて非公開・迅速などのメリットもあることから、スタートアップのような事案では、本条に変えて仲裁条項に変えるという選択肢もある。 ## 17条(協議解決) ``` 第17条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、甲乙誠実に協議の上解決する。 ``` ### <ポイント> - 紛争発生時の一般的な協議解決の条項である。 別紙製品目録1 別紙製品目録2 別紙 知的財産権目録 1 特許権 | 番号 | 出願番号 | 公開番号 | 登録番号 | 発明(考案)名称 | 存続期間満了日 | | ---- | -------- | -------- | -------- | ---------------- | -------------- | | | | | | | | | | | | | | | 2 商標権 ① 国内商標権 | 番号 | 登録番号 | 商標 | 商標の区分 | 存続期間満了日 | | ---- | -------- | ---- | ---------- | -------------- | | | | | | | | | | | | | ② 外国商標権 | 番号 | 登録番号 | 商標 | 商標の区分 | 存続期間満了日 | | ---- | -------- | ---- | ---------- | -------------- | | | | | | | | | | | | | ## その他のオプション条項 ### 本技術情報 ``` 第●条 甲は、本契約締結後●日以内に、本技術情報を文書または電子媒体にて乙に開示するものとする。 2 乙は、本技術情報を受領したときは、速やかにその内容を確認しなければならない。乙が受領後●日以内に異議を述べない場合は、甲の本技術情報提供義務は履行されたものとみなす。 3 乙が、甲に対して、本製品の製造方法の助言と指導を書面により要請した場合は、甲乙は有償による当該技術指導に関する契約の締結について協議する。 4 乙は、甲から乙に対する本技術情報の開示が、現状有姿のものであることに合意し、甲は乙が本技術情報を実施することから生じたいかなる責任または損害(第三者の財産・身体・生命その他の権利の侵害、または、乙による得べかりし利益の補填も含む。)についてこれを負担せず、乙はこれらの責任、損害について甲を免責することに同意する。 5 前項の免責規定については、乙が本技術情報を実施することによって、第三者の知的財産権を侵害した場合、および、そこから生じる損害についても同様とする。 ``` ### <ポイント> - 特許のライセンスにおいては、ライセンサーからライセンシーに対して技術ノウハウの提供も行うことがある。本条は、かかる技術ノウハウの提供に関して定めた条項となる。 ### <解説> - 技術情報の範囲については、本条では1条⑪号所定の「本技術情報」としつつ、一定期間以内に異議を述べない場合、提供義務は履行されたものとみなすとしている。 - これに対し、本技術情報の範囲に争いがでないように、1条⑪号の定義を修正し別紙記載のものとして特定するという方法もある。 - また、技術情報の提供方式は、「文書または電子媒体」とし、技術指導は含まれていない。技術指導が必要な場合は以下のような条項を追加することが考えられる。 - 本条4項および5項は、ライセンサーの技術情報についての免責規定である。 - これに対し、ライセンサーの技術ノウハウについては、第三者の権利侵害がないことを保証するのが当然だという考え方がある。しかし、9条の解説で述べたのと同様に、特許や技術ノウハウについて権利非侵害の保証を行うことは、ライセンサー側のリスクが非常に高く、オープンイノベーションの阻害要因となりかねない。スタートアップと事業会社の間の適切なリスク分配という観点からは、かかる保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。 ### 【追加オプション – 技術指導】 ``` 第●条 甲もしくはその従業員は、乙の指定する場所に出向いて、本技術情報について指導を行う。当該指導は、甲がその所属する●名程度の技術者を●日程度派遣することにより行い、乙は、それに要する交通費、宿泊費、および、別途定める日当を支払うものとする。 ``` - 技術情報の提供後も、ライセンシーとしてはライセンサーからの助言や指導が必要なことも多い。その場合、技術情報の提供とは別に技術コンサルティング契約を締結する場合がある。本条3項はこの点について定めている。 ================================================ FILE: 5_モデル契約書v1_0_秘密保持契約書(AI編)_逐条解説あり.md ================================================ # モデル契約書 ver1.0 秘密保持契約書(AI) ## 想定シーン 1. スタートアップX社 動画・静止画から人物の姿勢をマーカーレスで推定する高度なAI技術(マーカーを用いず複数の動画・静止画データを基に人物の身体形状および関節点を独自のAIアルゴリズムにより推定する技術)を持つスタートアップX社は、人体の姿勢推定機能を有する独自開発の学習済みモデル(ベースモデル)を保有している。X社は、スポーツ領域、工場における生産性向上領域などにおける姿勢推定で非常に優れた評価を受け知名度を上げた後、同技術を様々な領域へ応用してきた。 1. 介護施設向けリハビリ機器の製造販売メーカーY社 介護施設向けリハビリ機器を製造販売する機器メーカーY社は、介護施設における被介護者の見守り用に高度な機器を有するカメラシステム(見守りカメラシステム)の製造販売を検討している。Y社は、X社の「人体の姿勢推定AI技術」の評判を聞き、当該技術を見守りカメラシステムに組み込むことで、被介護者の転倒・徘徊等の予防に活用できないかと考えた。 1. 導入可能性の検討 Y社から問い合わせを受けたX社は、Y社から、Y社が既に保有している高齢者の居室内の動画データのうち少量をサンプルデータとして受領し、X社の保有するベースモデル(X社が保有する既存の学習済みモデル)がY社の介護事業における見守り業務へ導入可能であるかどうかについて検討することとなった。 ここで行われる検討は、あくまでX社のベースモデルにY社が保有するデータを入力することによって得られた出力結果をアセスメントするのみで、X社のベースモデルの学習を行うことを目的とするものではない。 1. X社の意向 X社として、Y社との取引で目指していることは以下のとおり。 1. 検証の結果、X社が保有するベースモデルがY社の介護事業における見守り業務に応用可能であることが判明した場合、次にX社が保有するベースモデルをカスタマイズしY社の見守りカメラシステムに導入できるかどうかの検証(PoC)を行う必要がある。できれば早期(秘密保持契約締結後2か月以内)にPoCに進みたい。 1. PoCの結果、Y社の見守りカメラシステムに導入できることが判明した場合には、Y社との共同開発に進みたい。共同開発の際に新たに生成されたカスタマイズモデルは、保育施設、障害者施設などにも展開可能である可能性が高いため、Y社との間で、見守りカメラシステムに搭載するカスタマイズモデルを共同研究により開発する場合であっても、今後の展開可能性を失わないようにしたい。 1. 共同開発フェーズへ進んだ際には当該事実を公表して自社の保有するAI技術をPRする材料にしたい。 1. X社の現状 1. 専任の法務・知財担当はなく、また知見も乏しい(外部の弁護士、弁理士任せ)。 2. 現在の主たる協業先であるスポーツ業界、フィットネス業界ともに、成果物であるカスタマイズモデルを直接納品することなくSaaS方式により提供している。そのため、姿勢推定に関するコア技術は秘匿化可能である。 ## 内容 - [はじめに](#はじめに) - [前文](#前文) - [1条(秘密情報の定義)](#1条(秘密情報の定義)) - [2条(秘密保持)](#2条(秘密保持)) - [3条(目的外使用の禁止)](#3条(目的外使用の禁止)) - [4条(秘密情報の複製の取り扱い)](#4条(秘密情報の複製の取り扱い)) - [5条(個人情報の提供)](#5条(個人情報の提供)) - [6条(秘密情報の破棄または返還)](#6条(秘密情報の破棄または返還)) - [7条(PoC契約および共同研究開発契約の締結)](#7条(PoC契約および共同研究開発契約の締結)) - [8条(損害賠償)](#8条(損害賠償)) - [9条(差止め)](#9条(差止め)) - [10条(期間)](#10条(期間)) - [11条(準拠法および裁判管轄)](#11条(準拠法および裁判管轄)) - [12条(協議事項)](#12条(協議事項)) - [その他の追加オプション条項](#その他の追加オプション条項) ## はじめに  AI開発に際しては、想定シーン記載のとおり、本開発に先立ち、事業会社の課題の把握およびスタートアップの技術の事業会社への導入可能性の検討が行われる。このようなスタートアップの技術の事業会社への導入可能性の検討を行うフェーズを、経済産業省が2018年に公開した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」において「アセスメント」と呼んでいることから、本モデル契約上もこれに倣う。  具体的には、スタートアップは、アセスメント段階において事業会社から限定的なサンプルデータの提供を受けて、スタートアップの保有するAI技術の事業会社への導入可能性を検証する。AIに関する専門的知識を持ち合わせていないことが多い事業会社とスタートアップがアライアンスを組み、共同開発やその後のサービス提供を行っていく場合には、このようなアセスメント段階を経ることで、早い段階で事業会社・スタートアップ間の認識のすり合わせを行うことは重要といえよう。  なお、事業会社の状況によっては、事業会社における課題の掘り起こしのためのコンサルティングをスタートアップが依頼されることもある。その場合、アセスメント段階の契約は以下の秘密保持契約書ではなく業務委託契約書に近い内容になろう。 ## 前文 ```  X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)とは、甲が保有するAI技術を、乙の介護事業における見守り業務に導入するに当たり、乙が甲に対して提供するデータを甲が保有する学習済みモデルに入力して得られた出力結果を評価し(ただし、甲が保有する学習済みモデルの学習は行わない。)、甲が保有するAI技術の乙の介護事業における見守り業務への導入可能性を甲乙共同で検討する目的(以下「本目的」という。)で、甲または乙が相手方に開示等する秘密情報の取扱いについて、以下のとおりの秘密保持契約(以下「本契約」という。)を締結する。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約の目的について規定している。 - 秘密保持契約においては、秘密情報は定義された目的の範囲でのみ使用等が認められる。したがって、まず、形式的な留意点としては、(i)必ず目的を定め、(ii)上例のように「以下「本目的」という。」と定義することが必須である。 ### <解説> - 一般的な解説は、「モデル契約書_秘密保持契約書(新素材)」3頁の解説のとおりである。同解説のとおり、秘密保持契約は、秘密情報の開示者と受領者で利害関係が大きく異なるという特徴を有している。そのため、秘密保持契約を締結するにあたっては、自己が主として情報の開示者側に立つのか、あるいは主として情報の受領者側に立つのかということを毎回検討する必要がある。 - 「モデル契約書_秘密保持契約書(新素材)」における想定シーンでは、スタートアップXが、自動車メーカーYに、開発した新素材の技術情報を提供するという場面であった。そのため、主としてスタートアップが開示者に立つ場面を想定していた。 - 他方、本モデル契約においては「はじめに」に記載したとおり、AI開発のアセスメント段階で事業会社がスタートアップに対して限定的なサンプルデータを提供し、スタートアップはサンプルデータを基に自身が保有するAI技術の事業会社への導入可能性について検証を行う。すなわち、アセスメント段階においては、主として事業会社が情報の開示者側に、スタートアップが情報の受領者側に立つことが一般的である。 ## 1条(秘密情報の定義) ``` 第1条 本契約において「秘密情報」とは、一方当事者(以下「開示者」という。)が相手方(以下「受領者」という。)に対して本目的のために開示した情報および開示のために提供した記録媒体、素材と機器その他の有体物に含まれる情報であって、文書等の有体物や電子メール等の電子的手段によって開示される情報にあっては秘密であることが明記されたもの、口頭その他無形の方法によって開示される情報にあっては14日以内に文書等により当該情報の概要、開示者、開示日時を特定した上で秘密である旨通知して開示されたものをいう。なお、本契約に基づき乙が甲に対して提供する別紙「対象データ」記載の各データ(以下「対象データ」という。)は「秘密情報」に含まれるものとする。 2 前項の定めにかかわらず、以下の情報は秘密情報の対象外とするものとする。 ① 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの ② 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの ③ 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの ④ 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの ⑤ 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、または創出したもの ``` ### <ポイント> - 秘密保持契約により保護される秘密情報の定義に関する条項である。 - 情報開示側(本件における事業会社)としては、自身が開示する情報を十分に保護すべく、秘密情報をできるだけ広く定義したいのに対し、情報受領者側(本件におけるスタートアップ)としては、特にリソースが不足しがちなスタートアップの場合、情報管理のコストと秘密保持義務違反のリスクを軽減するべく、秘密情報の範囲を可能な限り絞って明確にしておくことが望ましい。このように、秘密情報の定義は重要な交渉マターとなる。 ### <解説> #### 秘密情報の定義の考え方(第1項) - 一般的な解説は、「モデル契約書_秘密保持契約書(新素材)」4頁以下に記載する解説のとおりである。秘密保持契約により保護される秘密情報の定義を巡っては、秘密情報に含まれる情報の範囲の広狭が、開示者側に立つ当事者と受領者側に立つ当事者との間で問題となる。そこで、「モデル契約書_秘密保持契約書(新素材)」においては、秘密情報の範囲を無限定とする【オプション1】、開示時における秘密指定を要求する【オプション2】、開示時における秘密指定および口頭開示の情報にあっては事後的な指定まで要求する【オプション3】という3つのオプションを示していた。 - AI開発に先立って行われるアセスメント段階では、事業会社が情報の開示者側に、スタートアップが情報の受領者側に立つことが多いことから、あらゆる情報が秘密情報に該当するとなると情報管理コストが大きくなるため、情報受領者たるスタートアップの立場からは、可能な限りその外延を明確にすることが望ましい。 - とりわけ、AIビジネスにおいては、事業会社から開示を受けたデータを用いずにスタートアップが新たなAIモデルの開発を行っていた場合でも、秘密情報の範囲が不明確であることが原因で、事業会社から事業会社が提供したデータの目的外使用であるとの主張が行われる可能性がある。 - そのため、秘密情報の外延を明確にすべく、本モデル契約においては「モデル契約書_秘密保持契約書(新素材)」の3つのオプションのうち、開示時における秘密指定および口頭開示の情報にあっては事後的な指定まで要求する【オプション3】を採用した。 - なお、事業会社がスタートアップに提供する秘密情報については、提供方法次第であるが、性質上、データ上に「Confidential」や「秘」等の表示を行うことが困難な場合がある。そこで、別途、事業会社がスタートアップに提供する対象データについては、「Confidential」や「秘」等の表示がなくても秘密情報に該当することを明示的に記載した上で、対象データの細目を別紙にて限定列挙の上特定することが実務上行われている。これを踏まえ、本モデル契約においても、第1項の「なお」書きにおいて対象データが「Confidential」や「秘」等の表示がなくても秘密情報に該当することを明記した。 #### 秘密情報の例外(第2項) - 第2項においては、秘密情報の対象外とする情報を規定している。 - 特に重要なのは、契約締結前に既に自社が保有していた情報が「④開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの」であることを証明できるかという点である。その点について証明ができないと、契約締結後においてどの技術がどちらのものかについて争い(コンタミネーション)が発生するリスクがある。 - かかるリスクを回避するため、特許出願に馴染む技術であれば、契約締結以前に特許出願を済ませておく方法がある。もっとも、AI開発関連でスタートアップが事業会社から受領するのは、技術情報ではなく学習用のデータであるため、コンタミネーション防止のためには、必要に応じて、いつの時点でいかなるデータをスタートアップ自身で保有していたかを、タイムスタンプ[1]等により、立証できるようにしておくことが考えられる。 [1] 電子データに時刻情報を付与することにより、その時刻にそのデータが存在し(日付証明)、またその時刻から、検証した時刻までの間にその電子情報が変更・改ざんされていないこと(非改ざん証明)を証明するための民間のサービス。一般財団法人日本データ通信協会が認定する時刻配信業務認定事業者が時刻を配信し、この配信された時刻に基づいて、同協会が認定する時刻認証業務認定事業者がタイムスタンプの発行サービスを行っている。 ## 2条(秘密保持) ``` 第2条 受領者は、善良なる管理の注意義務をもって秘密情報を管理し、その秘密を保持するものとし、開示者の事前の書面等(書面および甲乙が書面に代わるものとして別途合意した電磁的な方法をいう。本契約において以下同じ。)による承諾なしに第三者に対して開示または漏洩してはならない。 2 前項の定めにかかわらず、受領者は、秘密情報を、本目的のために必要な範囲のみにおいて、受領者の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示できるものとする。 3 受領者は、前項に定める開示に際して、役員等に対し、秘密情報の漏洩、滅失、毀損の防止等の安全管理が図られるよう必要かつ適切な監督を行い、その在職中および退職後も本契約に定める秘密保持義務を負わせるものとする。役員等による秘密情報の開示、漏洩、本目的以外の目的での使用については、当該役員等が所属する受領者による秘密情報の開示、漏洩、本目的以外の目的での使用とみなす。 4 受領者は、次項に定める場合を除き、秘密情報を第三者に開示する場合には、書面等により開示者の事前承諾を得なければならない。この場合、受領者は、当該第三者に対して本契約書と同等の義務を負わせ、これを遵守させる義務を負うものとする。 5 前各項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、当該秘密情報を開示することができるものとする。(ただし、1号または2号に該当する場合には可能な限り事前に開示者に通知するものとする。)また、受領者は、かかる開示を行った場合には、その旨を遅滞なく開示者に対して通知するものとする。 ① 法令の定めに基づき開示すべき場合 ② 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに従った要求がある場合 ③ 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合 6 本条第1項ないし第3項の定めにかかわらず、甲および乙は、相手方の事前の承諾なく、以下の事実を第三者に公表することができるものとする。  甲乙間で、甲が保有するAI技術を、乙の介護事業における見守り業務に導入するための導入可能性の検討を開始した事実 ``` ### <ポイント> - 開示者から提供を受けた秘密情報の管理方法と開示できる対象に関する条項である。 ### <解説> #### Need to know原則 - 本条において実現しようとしている重要な点の1つは、いわゆるNeed to know原則である。 - 秘密保持契約においては、(i)開示者が特定された目的のために秘密情報を開示等し(前文および第1条)、(ii)受領者は当該目的遂行のために必要な範囲でのみ当該秘密情報を社内関係者に共有し(本条第2項)、(iii)受領者は当該目的以外には秘密情報を利用しない(第3条)、という点が重要となる。Need to know原則は、このうち、(ii)に関するものである。 - このNeed to know原則が契約文言に反映されていないと、不必要に情報が受領者たる会社内に広まり、受領者の会社の規模が大きくなればなるほど、情報の目的外利用や流出のリスクが高まることとなる。契約交渉の過程でこのNeed to know原則を反映する文言が削除されていないかは、慎重に確認する必要がある。 - なお、秘密保持義務を課したとしても、受領者が当該義務に違反して秘密情報を第三者に開示等したり目的外使用したりしても、当該義務違反を立証することは非常に難しいケースが多い。 #### 共同開発を検討開始した事実の公表 - スタートアップにとって重要な条項となるのが本条第6項である。スタートアップにとって、事業会社とのアライアンスの検討開始の事実は、投資家等に対する効果的なPR材料になる場合が多く、スタートアップがかかる事実の公表を望むケースが多い。 - しかし、本条第6項のような規定が入っていない場合、秘密情報の定義の内容によっては、かかる事実の第三者への公表が守秘義務違反となるか否かが曖昧なケースも存在し、スタートアップが公表に踏み切れないケースや、事業会社に事前に許可を求め、社内決裁等の関係で発表すべきタイミングに発表できないケースも散見される。 - 本モデル契約では、スタートアップが有するAI技術の導入可能性の検討開始の事実は公表しても問題ないと合意できたと想定し、公表を積極的に許可する規定を設け、かかる弊害を回避している。 ## 3条(目的外使用の禁止) ``` 第3条 受領者は、開示者から開示された秘密情報を、本目的以外のために使用してはならないものとする。 ``` ### <ポイント> - 秘密情報の使用範囲を前文に定めた目的に限定する条項で、秘密保持契約には絶対に欠くことのできない主要な条文のひとつである。 ### <解説> - 前条(秘密保持義務)においては、秘密情報の管理義務を定めた上で秘密情報を第三者に対して開示・漏洩することを禁止するとともに(第1項)、受領者内部における開示範囲(第2項)を定めた。 - しかしながら、これらの第三者開示禁止および受領者内部における開示範囲に関する定めだけでは、秘密情報の受領者内部での他目的への流用行為を禁止することはできない。そこで、開示者は本条のような規定を設け、受領者内部における目的外使用を禁止する必要がある。 - AI開発に先立って行われるアセスメント段階においては、事業会社がスタートアップに対してアセスメント目的で提供するデータを、スタートアップが事業会社に無断でスタートアップが保有するベースモデルの学習に用いるなど、アセスメント以外の目的で使用することを禁止する意義を有する。 ## 4条(秘密情報の複製の取り扱い) ``` 第4条 受領者が、本目的のために必要な範囲において秘密情報を複製(文書、電磁的記録媒体、光学記録媒体およびフィルムその他一切の記録媒体への記録を含む。)する場合には、複製により生じた情報も秘密情報に含まれるものとする。 ``` ### <ポイント> - 秘密情報が複製された場合、当該複製物たる情報も当然秘密情報に該当する。そこで、秘密情報が複製されることも想定し、その複製された情報も秘密情報の対象とすることを確認した条文である。 ## 5条(個人情報の提供) ``` 第5条 乙が、個人情報の保護に関する法律(本条において、以下「法」という。)に定める個人情報または匿名加工情報(以下総称して「個人情報等」という。)を含んだ対象データを甲に提供する場合には、法に定められている手続を履践していることを保証するものとする。 2 乙は、本共同開発の遂行に際して、個人情報等を含んだ対象データを甲に提供する場合には、事前にその旨を明示する。 3 甲は、第1項にしたがって個人情報等が提供される場合には、個人情報保護法を遵守し、個人情報等の管理に必要な措置を講ずるものとする。 ``` ### <ポイント> - 事業会社がスタートアップに提供する対象データその他の秘密情報に個人情報や匿名加工情報が含まれている場合に関する条項である。 ### <解説> - アセスメントにおいては、事業会社からスタートアップに対してサンプルデータが提供されるが、そのデータの中に個人情報が含まれていることがある。その場合、スタートアップにおいては、データ提供者である事業会社が、当該データの取得・利用・提供等の各フェーズにおいて個人情報保護法に則った手続きを行っているかどうか知ることができない。そこで、第1項において個人情報保護法に則った手続きが履践されていることについての事業会社の保証を定めている。 - また、第2項では、サンプルデータに個人情報等を含める場合には、スタートアップにおいて不意打ちとならないよう、事業会社に明示することを義務付けている。 - 他方、事業会社から提供する情報の中に個人情報が含まれている場合、スタートアップも個人情報保護法に基づき、当該情報を適切に管理等する義務が生じることを第3項において規定した。もっとも、スタートアップが個人情報保護の体制を十分に整えられない状況の場合は、形式的にスタートアップに適切に個人情報を取り扱う義務を課すだけでは、個人情報が流出し、状況によっては事業会社もその責任を問われかねず、事業会社にとって実質的なリスクヘッジにならない場合もあろう。そのため、スタートアップの管理体制を踏まえて、スタートアップに管理義務を課しつつも、事業会社から体制構築に向けたアドバイス提供等、相互に協力することも考えられる。 ## 6条(秘密情報の破棄または返還) ``` 第6条 受領者は、本契約が終了した場合または開示者からの書面等による請求があった場合には、自らの選択および費用負担により、開示者から開示を受けた秘密情報(複製物および同一性を有する改変物を含む。以下本条において同じ。)を速やかに破棄または返還するものとする。 ``` 2 受領者は、開示者が秘密情報の廃棄を要請した場合には、速やかに秘密情報が化体した媒体を廃棄し、当該廃棄にかかる受領者の義務が履行されたことを証明する文書の提出を開示者に対して提出するものとする。 3 前2項の規定にかかわらず、甲は、乙から開示を受けた秘密情報のうち対象データについては、次条(PoC契約および共同研究開発契約の締結)に基づきPoC契約または共同研究開発契約が締結された場合に限り、同契約上に定められた、対象データの利用条件のもとで利用することができる。 ### <ポイント> - 受領した秘密情報の返還義務等を定めた条項である。 ### <解説> - 繰り返しとなるが、アセスメント段階では、スタートアップの保有するAI技術が事業会社に導入可能であるかどうかを検証し、次のフェーズであるPoCおよび共同研究開発に移行するかどうかの検討を行う。 - 事業会社がアセスメント目的でスタートアップに提供する対象データは、第1条(秘密情報の定義)に定められているとおり、秘密情報に該当する。 - しかし、スタートアップおよび事業会社が次のフェーズに移行することを合意している場合においても、スタートアップから事業会社に対し対象データを一度返還等しなければならないのは煩瑣である。そこで、第3項を設け、対象データについては、PoC契約または共同研究開発契約が締結された場合に限り、同契約上の対象データの利用条件に従い利用できるものとした。 ## 7条(PoC契約および共同研究開発契約の締結) ``` 第7条 甲および乙は、本契約締結後、PoC(技術検証)または共同研究開発段階への移行およびPoC契約または共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、本契約締結日から2か月(以下「通知期限」という。)を目途に、甲に対して、PoC契約または共同研究開発契約を締結するか否かを通知するものとする。ただし、正当な理由がある場合には、甲乙協議の上、通知期限を延長することができるものとする。 ``` ### <ポイント> - PoCまたは共同研究開発契約への移行についての規定である。 ### <解説> - 秘密保持契約を締結したものの、その後音沙汰がなく、スタートアップが他の競合企業とのアライアンスを検討する機会を逸してしまう場面も少なくないが、次回資金調達までの短期間の中で実績作りや資金繰りを成し遂げなければいけないスタートアップとしては致命傷になりかねない。 - そこで、当事者にPoC契約または共同研究開発契約締結の努力義務を課すとともに、次のステップに進むかどうか未確定なままで時間が経過することを避けるため、事業会社に対し一定期間内にPoC契約または共同研究開発契約を締結するか否かの通知義務を課している。 - ただし、検討に要する時間は案件や状況に応じて異なり、適切な期間を契約締結時に定めることは困難であることもあるため、通知期限は目安とした上で、正当な理由があれば協議の上同期限の延長を可能とした。 ## 8条(損害賠償) ``` 第8条 本契約に違反した当事者は、相手方に対し、損害賠償を請求することができる。 ``` ### <ポイント> - 本条は、本モデル契約の履行に関しての損害賠償責任について規定している。 ### <解説> - 第1条の解説で触れたとおり、アセスメントに際しての秘密保持契約においては、スタートアップは主として秘密情報を受領する立場にある。そのため、とりわけ、資金力の乏しいスタートアップにおいては、損害賠償の範囲を無制限とはせず、通常損害に限定する、逸失利益を明示的に除外するなどのリスクヘッジが必要になることがある。 - これに対し、主としてデータを開示する立場にある事業会社側においては、提供者側の視点からの主張を行うことになる。 ## 9条(差止め) ``` 第9条 契約当事者は、相手方が、本契約に違反し、または違反するおそれがある場合には、その差止め、またはその差止めに係る仮の地位を定める仮処分を申し立てることができるものとする。 ``` ## 10条(期間) ``` 第10条 本契約の有効期限は本契約の締結日より1年間とする。ただし、本契約の終了後においても、本契約の有効期間中に開示等された秘密情報については、本契約の終了日から1年間、本契約の規定(本条を除く。)が有効に適用されるものとする。 ``` ### <ポイント> - 契約の有効期間を定めた一般的条項である。 ### <解説> - 契約期間のみならず、契約期間終了後に、どの程度の期間秘密保持義務を負担するかについても注意が必要である。契約期間が3か月など短く設定されていても、残存条項により10年など契約終了後も長期間に亘って秘密保持義務を負うケースもある。 - 残存条項の期間は厳しい交渉が行われる項目のひとつである。期間は2~3年とすることが多いが、ビジネスおよび開示等される情報の性質(対象となる秘密情報等が陳腐化する期間はどの程度かなど)により調整が必要である。本秘密保持契約においては、PoC段階や共同研究開発段階と比較して、提供される動画データの事業上の機密性や分量が高いものではないことから、残存期間を1年間としている。 ## 11条(準拠法および裁判管轄) ``` 第11条 本契約に関する一切の紛争については、日本法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <ポイント> - 準拠法および紛争解決手続きに関して裁判管轄を定める条項である。 ### <解説> - クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。 - 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。 ## 12条(協議事項) ``` 第12条 本契約に定めのない事項または本契約について疑義が生じた場合については、協議の上解決する。 ``` ### <ポイント> - 紛争発生時の一般的な協議解決の条項である。 ``` 本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自1通を保有する。 ```     年  月  日 甲 乙 ## その他の追加オプション条項 ## 立入検査条項 ``` 甲および乙は、相手方が本契約に従って秘密情報等を管理していることを確認するため、相手方に対し、検査内容および日程を書面等により事前に通知の上、合理的な範囲において相当な方法により対象となる施設に立入り、検査を行うことができるものとし、相手方はこれに合理的な範囲内で協力するものとする。 ``` ### <ポイント> - 秘密管理状況を確認するため、立入条項を設ける場合もある。 #### 知的財産権の帰属条項 ``` 秘密情報等に関連して生じた特許権、実用新案権、回路配置利用権、意匠権、著作権、商標権等の知的財産権(以下総称して「本知的財産権」という。)は、すべて甲に帰属するものとする。 ``` ### <ポイント> - 秘密保持契約の段階で知的財産権の帰属条項を入れるかどうかについてはケースによって判断が分かれるところである。 - 今後、どのような協業を行うことができそうかまずは相談をしたい、といった軽い目的で秘密保持契約が締結される場合、知的財産権の帰属条項を入れないことで余計な交渉を減らし、スピードを重視するという考え方もある。 - 他方、そのような目的であったとしても、極めてコアな情報の開示等が要求されることが想定される場合は、知的財産権を保全・確保する目的で、上記のような条項を入れることも考えられよう。 - なお、秘密保持契約しか締結していない時点(検討段階)で新たな知的財産権が生じるケースは少なく、また、PoCや共同研究開発に移行した際にいかなる知的財産権が生じうるのか、また、知的財産権の帰属を含む諸条件をいかに定めるのが妥当かの見通しを立てることが困難なケースも多いため、秘密保持契約において、知的財産権の帰属について契約上の条項として定めるケースは多くはない。 ### 【別紙】「対象データ」 1. データの概要 (例)介護施設に乙がカメラを設置したうえで撮影した動画データ。当該動画データについては、乙において個人情報が含まれない形に匿名加工を行うか、あるいは撮影対象である被介護者本人から第三者提供に関する同意を取得するなど個人情報保護法上に定められている手続を履践するものとする。 1. データの項目 1. データの量 1. データの提供形式 ================================================ FILE: 6_モデル契約書v1_0_技術検証(PoC)契約書(AI編)_逐条解説あり.md ================================================ # モデル契約書ver1.0 技術検証(PoC)契約書(AI) ## 想定シーン 1. X社は、人体の姿勢推定機能を有する独自開発の学習済みモデル(ベースモデル)を保有しているAIスタートアップであり、Y社は、介護施設向けリハビリ機器の製造販売メーカーである。 2. X社は、秘密保持契約を締結後にY社から受領したサンプルデータを用いて検討をしたところ、自社の保有するベースモデルがY社の介護事業における見守りシステムに導入可能であるとの結論に達したので、Y社に対してその旨を根拠と共に説明した。 3. Y社の開発担当者は、X社のベースモデルを用いた製品開発を進めたい意向ではあるものの、今期の予算が限られていること、来期の開発予算獲得のために社内の説明資料が必要であることから、まずは技術検証(以下「PoC」という。)を行いたいとX社に伝えた。 4. X社とY社は、協議の結果、PoCを以下のとおり進めることを合意した。 1. Y社は、X社に対し、さらなる学習用データを提供する。 2. X社は、自社のベースモデルに同データを用いた学習を行うことで、より高い精度の姿勢推定を行うことができる学習済みモデル(カスタマイズモデル)のプロトタイプの生成作業や同カスタマイズモデルによる推定の精度の検証作業を実施し、検証結果を報告書にまとめて、契約締結から一定期間内にY社に提供する。 3. Y社は、X社に対し、上記作業の対価として●万円を支払う。 4. Y社は、X社との共同研究開発に移行するかを上記報告書の受領日から2ヶ月以内に決定する。 ## 目次 - [前文](#前文) - [第1条(目的)](#第1条目的) - [第2条(定義)](#第2条定義) - [第3条(本検証)](#第3条本検証) - [第4条(委託料および費用)](#第4条委託料および費用) - [第5条(甲の義務)](#第5条甲の義務) - [第6条(共同研究開発契約の締結)](#第6条共同研究開発契約の締結) - [第7条(乙が甲に提供する資料等)](#第7条乙が甲に提供する資料等) - [第8条(対象データの管理)](#第8条対象データの管理) - [第9条(秘密情報)](#第9条秘密情報) - [第10条(個人情報の取り扱い)](#第10条個人情報の取り扱い) - [第11条(本報告書等の知的財産権)](#第11条本報告書等の知的財産権) - [第12条(損害賠償)](#第12条損害賠償) - [第13条(解除)](#第13条解除) - [第14条(期間)](#第14条期間) - [第15条(存続条項)](#第15条存続条項) - [第16条(準拠法および管轄裁判所)](#第16条準拠法および管轄裁判所) - [第17条(協議解決)](#第17条協議解決) - [その他の追加オプション条項](#その他の追加オプション条項) ## 前文  X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)は、甲が保有するAI技術の、乙の介護事業における見守り業務への導入可能性に関する検証(以下「本検証」という。)に関して、本契約を締結する。 ### <ポイント> - 技術検証(PoC)契約は、共同研究開発段階に移行するか否かを検討する前提として、スタートアップの保有している技術の開発可能性・導入可能性などを検証するための契約である。 - 前文では、本モデル契約における検証の対象が、スタートアップが保有するAI技術のスタートアップおよび事業会社が開発対象とする製品またはサービスへの導入可能性であることを明確にしている。 ### <解説> - PoC契約を締結するに当たっては、両当事者が以下に挙げる点を十分に理解することが重要である。 1. PoC契約が将来的な共同研究開発契約の締結を目指したものであること 2. 既に秘密保持契約を締結し、相互の情報を開示等し合った上での検証段階であること 3. 検証においては、検証の目的を共有することが重要であり、未だ検証の目的が固まっていない場合は、まずその点を確定してからPoC契約を締結すること ### 【コラム】PoC契約の意義 - PoCは、スタートアップにとって、その技術や製品を他社に採用してもらう可能性を検討するための重要なステップである。 - もっとも、本開発への移行をちらつかされながら、次から次へと無償でPoCを依頼され、にもかかわらず本開発に移行せず、その結果、スタートアップがPoCにかかるコストを回収できないケース(いわゆる「PoC貧乏」)も散見される。「PoC貧乏」のために資金が尽きてしまうこともある。 - また、PoCの過程で得られた知見について、相手方に対して譲渡を強要されたり、無断で出願されてしまったりするなどの紛争が生じるケースもある。 - これらのことを未然に防止するための契約がPoC契約であり、AI開発の過程においては必須ともいえる契約である。 ## 1条(目的) ``` 第1条 本契約は、甲と乙が将来的に共同研究開発契約を締結することを視野に入れつつ、以下に定める対象技術を対象用途に対して導入・適用することの可否を判断するため(以下「本検証遂行の目的」という。)に行われる技術検証における甲と乙の権利・義務関係を定めるものである。 対象技術:甲が保有する「人体の姿勢推定AI技術」(動画・静止画から人物の姿勢をマーカーレスで推定するAI技術) 対象用途:介護施設における被介護者の見守用高機能カメラシステム(見守りカメラシステム)に利用する学習済みモデルおよび連携システムの甲乙における共同研究開発 ``` ### <ポイント> - 本検証遂行の目的を定める条項である。 - 秘密情報や対象データ、スタートアップが提出するレポート(本報告書)はこの目的の範囲で利用が制限される(第8条第2項、第9条第3項)。想定外の利用を防ぐために、この目的を限定的に定める必要がある。 ### <解説> - 対象技術のみで「本検証遂行の目的」を特定した場合、想定している用途以外の用途への技術転用を制限できないことから、対象技術と合わせて対象用途とともに、「本検証遂行の目的」を特定する必要がある。また、対象用途の記載について、例えば、「見守りカメラシステムの開発」とだけ記載した場合、事業会社は、受領した秘密情報等を、自社独自で、あるいは他のAIスタートアップと共同して行う「見守りカメラシステムの開発」に用いることも契約上は「目的内」となるため、スタートアップは事業会社にかかる行為を禁止することはできないこととなる。そのため、対象用途においては「甲乙における共同研究開発」という限定を付すべきである。 - 事業に必須のコア技術が特許等により保護されていない限り、秘密保持契約およびPoC契約が自社の技術・ノウハウを保護する数少ない手段となる。 ## 2条(定義) ``` 第2条 本契約において使用される次に掲げる用語は、各々次に定義する意味を有する。 1 本検証  第1条に定める甲の技術の導入・適用に関する技術検証をいい、具体的な作業内容は別紙1で定める。 2 対象データ 本検証に用いられる別紙2記載のデータをいう。 3 本報告書  甲が乙に提供する、本検証に関する報告書をいう。 4 知的財産  発明、考案、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見または解明がされた自然の法則または現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)および営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報をいう。 5 知的財産権  特許権、実用新案権、意匠権、著作権その他の知的財産に関して法令により定められた権利(特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権利を含む。)をいう。 6 個人情報等  個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)(以下「個人情報保護法」という。)に定める個人情報(同法2条1項)、個人データ(同法2条6項)および匿名加工情報(同法2条9項)をいう。 7 書面等  書面および甲乙が書面に代わるものとして別途合意した電磁的な方法をいう。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約で使用する各用語の定義を定める条項である。 - 本検証および対象データの具体的な内容については、別紙により特定することとした。 ### <解説> - 「本報告書」は、本検証の成果物であり、具体的には検証結果を記載したレポートを想定している。 - 本モデル契約のタイトルは「技術検証(PoC)契約[書]」となっているが、その実質は別紙に特定された本検証を行い、本報告書を作成することを業務とする業務委託契約(準委任契約)である。従って、本検証および本報告書の内容を一定程度詳細に特定しておかないと、後々トラブル(いつまで経っても検証がまだ終わっていないとして追加の作業や報告が発生するなど)が生じる可能性がある。そのため、別紙において、検証の作業体制・作業内容・スケジュールを含め、ある程度の詳細事項を特定する必要がある。たとえば、対象データのアノテーション作業は通常はスタートアップが行うことになるため、その点についても別紙に記載したうえでスタートアップの工数として委託料を算定することが望ましい。 - また、その前提として、事業会社がスタートアップに提供する「対象データ」の内容(データ提供者、データの項目・量、提供形式)についても、別紙にて具体的に特定しておく必要がある。 - さらに、対象データの質や量はPoCの精度に大きな影響を及ぼす。対象データは、もっぱら事業会社が収集した生データであり、その内容・量・形式については千差万別である。秘密保持契約段階で少量の対象データについてはスタートアップにおいて確認済みであろうが、PoC段階になって相当量の対象データとの提供を受けてみたところ、使い物になる質・量のデータがないということも十分にありえる。したがって、まずスタートアップとしては対象データの質がPoCの精度に大きな影響を与えることを十分に事業会社に説明をしておく必要があろう。また契約上の手当として、第3条第9項において、対象データの内容に誤り(別紙2所定のデータの項目や量を充足しない場合を含む。)があったり、提供が遅延したために、本検証の遅延や本報告書に不適合等が生じた場合にスタートアップが責任を負わない旨を定めている。 - 上記条項案では、「知的財産権」の定義として、「営業秘密およびノウハウを利用する権利」を含めていない。これは、AIの場合には特許化してそのアルゴリズムをオープンにするのではなくノウハウとして秘匿することが多いところ、 PoC後に締結する共同研究開発契約において、「知的財産権」について本モデル契約(PoC契約)と同じ定義を用いた上で、同「知的財産権」について事業会社に移転する旨の条項が入ると、スタートアップのノウハウおよび営業秘密を利用する権利までもが事業会社に移転すると解釈されるおそれがあるためである。 - 本モデル契約書上、重要な通知等は書面等の記録に残る形で行うことを要求している(例えば、第3条第4項所定の本報告書に対する異議など)。しかし、契約締結自体をも電子的に行われつつある今般、重要な通知等といえども、それに厳格な書面性を要求することは必ずしも適当でない。そこで、かかる通知等は書面の他、当事者間で別途合意した電子的な方法で行うことも可能としている。具体的には電子メール等を想定している。 ## 3条(本検証) ``` 第3条 乙は、甲に対し、本検証の実施を依頼し、甲はこれを引き受ける。 2 乙は、甲に対し、対象データを本契約締結後●日以内に提供する。甲は、受領したデータを確認した上で、乙に対しその旨を速やかに通知する。 3 甲は、前項の通知が乙に到達した後●日以内に、乙に対し、本報告書を提供する。 4 本報告書の提出後、乙が、甲に対し、本報告書を確認した旨を通知した時または乙が具体的な理由を明示して書面等で異議を述べることなく1週間が経過した時に、乙による本報告書の確認が完了したものみなす。本報告書の確認が完了した時点をもって、甲による本検証にかかる義務の履行は完了する。 5 乙は、甲に対し、本報告書提出後1週間が経過するまでの間に前項の異議を述べた場合に限り、本報告書の修正を求めることができる。 6 前項に基づき、乙が本報告書の修正を求めた場合、甲は、速やかにこれを修正した本報告書を改めて提出し、乙は、再度それを確認する。再確認については、本条第4項および第5項を準用する。 7 乙は、甲に対し、対象データを甲に提供することについて、正当な権限があることおよびかかる提供が法令に違反するものではないことを保証する。 8 乙は、対象データの正確性、完全性、有効性、有用性および安全性等について保証しない。ただし、本契約に別段の定めがある場合はその限りでない。 9 乙が甲に対し提供を行った対象データの内容に誤り(別紙2所定のデータの項目や量を充足しない場合を含む。以下同じ。)があった場合またはかかる提供を遅延した場合、甲は、これらの誤りまたは遅延によって生じた本検証の遅延または本報告書の不適合等の結果について責任を負わない。 10 甲は、対象データの正確性、完全性、有効性、有用性および安全性等について、確認・検証の義務その他の責任を負うものではない。 ``` ### <ポイント> - スタートアップが担当する業務が本検証であることを定めている。 - 本モデル契約で想定している検証(本検証)は、事業会社が提供するデータを用いて対象技術の導入・適用による開発の可否や妥当性の評価を行うことである。 - 本検証は、一定の成果物の完成を目的としたもの(請負型)ではなく、検証のための業務の実施を目的としたもの(準委任型)である。 ### <解説> - 事業会社から対象データの提供を受けない限り、当然、スタートアップにおいて検証業務を開始することはできない。しかし、実際にPoCを推進するにあたっては、事業会社においてデータ提供の準備が整っていないことも多く、その結果、スタートアップが事業会社からデータの提供を受けられず検証作業に着手できないということが度々発生する。そこで、本モデル契約では、事業会社からのデータ提供期限を第2項において明記するとともに、第3項において、事業会社のデータ提供期限とスタートアップの報告書の提出期限をリンクさせている。 - また、本報告書の提供後、いつまでも本検証の追加作業を依頼されるというトラブルを防ぐために報告書の確認(本検証の完了)の期限を定める規定(第4項)を設けることがポイントとなる。 - 確認の期限は、本報告書の内容が必要な内容を満たしているかを確認するための期間である。適切な期間は本検証の内容によっても異なるが、通常は1週間程度が妥当と考えられる(第5項)。 - 事業会社が提供する対象データの内容をスタートアップは契約締結時には把握していないため、前述のように、検証が始まって実際に対象データの提供を受けてみたところ、検証に利用できるだけの質・量のデータが存在しなかったということがある。また、対象データが事業会社において迅速にスタートアップに提供できる体制で管理されていないため、対象データの提供が大幅に遅延することも時にみられる。そのような場合に、検証が遅延し、あるいは検証内容に不備が生じたとしてもスタートアップにその責任を負わせるのは不合理である。そこで、本条では、対象データの内容に誤り(別紙2所定のデータの項目や量を充足しない場合を含む。)があったり、提供が遅延したために、本検証の遅延や本報告書に不適合等が生じた場合にスタートアップが責任を負わない旨を定めている(第9項)。 - なお、PoC段階であるにもかかわらず、事業会社での検証のために必要である等の理由でPoCにおいてスタートアップが生成した学習済みモデルのプロトタイプのソースコードの引き渡しを事業会社が要請することがある。しかし、前文の解説にも記載したとおり、PoCの目的は、共同研究開発段階に移行するか否かを判断する前提として、スタートアップの保有している技術の開発可能性・導入可能性などを検証することにある。したがって、PoC契約において、学習済みモデルのソースコードを、仮に検証目的だとしても引き渡し対象とすることはPoC契約の目的を超えるものであり不合理である。次段階への移行の可否については、検証結果の報告書のみで判断可能なのであって、仮に報告書だけでは判断できないのであれば、それは報告書に盛り込むべき項目に不足があったということを意味しているに過ぎない。さらに、PoC段階においてソースコードを引き渡すということは、当該ソースコードの流出や他目的での利用等、スタートアップにとって致命的な事態を招くリスクが大きい。したがって、スタートアップとしては、PoC段階において学習済モデルのソースコードを引き渡すことは名目の如何を問わず避けることが望ましい。 ## 4条(委託料および費用) ``` 第4条 本検証の委託料は●万円(税別)とし、以下のとおり分割し、甲が指定する金融機関の口座に振込送金する方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。 ① 本契約締結後10日以内   ●万円(税別) ② 本報告書の乙による確認の完了日から1ヶ月以内   ●万円(税別) ``` ### <ポイント> - 本モデル契約における業務の対価としての委託料の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。 - 委託料については、本条のように固定金額とする他に、人月単位または工数単位に基づく算定方法のみ規定し、毎月の委託料を算定する方法とすること等が考えられる。 ### <解説> - 委託料の支払方法としては、①一定の時期に一括して支払う方式、②着手時および本報告書の確認完了時等に分割して支払う方式、③一定の業務時間に達するごとに当該業務時間分の対価を支払う方式等様々な方式がある。 - 本モデル契約では②の方式を採用している。 ### 【4条:変更オプション - 共同研究開発契約を締結した場合に委託料を一部免除】 ``` 第4条 本検証の委託料は●万円(税別)とし、以下のとおり分割し、甲が指定する金融機関の口座に振込送金する方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。但し、③については、本報告書の乙による確認の完了日から4か月以内に共同研究開発契約が締結された場合は免除されるものとする。 ① 本契約締結後10日以内   ●万円(税別) ② 本報告書の乙による確認の完了日から1ヶ月以内   ●万円(税別) ③ 本報告書の乙による確認の完了日から5ヶ月以内   ●万円(税別) ``` #### <解説> - 事業会社としては、PoC段階をあくまで共同研究開発段階の前段階と認識しているため、委託料を低額に抑えるという判断になることも多い。 - スタートアップとしては、共同研究開発に進めるのであれば、PoC段階では低額な委託料に甘んじるという方針もあり得る。 - そこで、これらの思惑の調整規定として、共同研究開発契約が締結された場合とされなかった場合で支払われるべきPoC費用に差を設けることが考えられる。同契約が締結された場合には費用を一部免除するという構成と、同契約が締結されなかった場合に限り追加の費用を支払うという構成が考えられるところ、本変更オプションは前者を採用したものである。 - 本モデル契約第6条第2項では、事業会社は、本報告書の確認の完了日から2ヶ月以内に、スタートアップに対して共同研究開発に進むか否かの検討結果を通知することとしている。本変更オプションでは、当該通知がなされてから実際に共同研究開発契約が締結されるまでの時間(契約交渉の時間)を2ヶ月と想定し、本報告書の事業会社による確認の完了日から4ヶ月(2ヶ月+2ヶ月)以内に同契約が締結された場合に費用の一部(③の費用)を免除することとしている。 ## 5条(甲の義務) ``` 第5条 甲は、善良なる管理者の注意をもって本検証を遂行する義務を負う。ただし、前条第1号に定める委託料の支払を受けるまでは、甲は本検証に着手する義務を負わず、また本契約を遂行しなかったことによる責めを負わない。 2 甲は、本検証に基づく何らかの成果の達成や特定の結果等を保証するものではない。 ``` ### <ポイント> - 本検証を履行するに際してのスタートアップの法的義務および結果に対する非保証を定めた条項である。 ### <解説> - PoC契約の法的性質は準委任契約であることから、スタートアップが善管注意義務を負うことを確認するとともに(第1項)、スタートアップが何らかの成果の達成義務を負うものではないことも明確にしている(第3項)。 - また、AI技術の性質上、目指している結果が出ない場合、その原因が提供されたデータにあるのか、AI技術のアルゴリズムや学習方法等にあるのか不明確なことも多いことに鑑み、スタートアップの義務として特定の結果の保証も行わないことも明確にしている。 ## 6条(共同研究開発契約の締結) ``` 第6条 甲および乙は、本検証が対象技術を対象用途に対して導入・適用することの可否の判断を目的とするものであることに鑑み、その実効性が確認された場合には、共同研究開発への移行の決定に向けて速やかに協議を開始する。 2 乙は、本報告書の確認の完了日から2ヶ月以内に、甲に対して共同研究開発に進むか否かの検討結果を通知する。 ``` ### <ポイント> - 共同研究開発契約への移行についての規定である。 ### <解説> - PoCは、共同研究開発への移行のための実証段階という性質を有していることから、当事者に共同研究開発契約締結に向けた協議義務(努力義務)を課している。 - また、PoC後に次のステップに進むかどうか未確定なままで時間が経過することを避けるため、事業会社に対し一定期間内に共同研究開発契約を締結するか否かの通知義務を課している。 ## 7条(乙が甲に提供する資料等) ``` 第7条 乙は、甲に対し、本検証に合理的に必要なものとして甲が要求し、乙が合意した資料、機器および設備等(以下「資料等」という。)の提供、開示および貸与等(以下「提供等」という。)を行う。 2 第3条第7項ないし第10項の規定を、乙が甲に対し資料等を提供等することについて準用する。 ``` ### <ポイント> - 本検証に際して、事業会社による資料等の提供および提供された資料等に起因する責任について取り決めた規定である。対象データの提供にかかる規定と同様の規定となることから、該当する条項を準用している。 ## 8条(対象データの管理) ``` 第8条 甲は、対象データを、善良な管理者の注意をもって管理、保管し、乙の事前の書面等による承諾を得ずに、第三者に開示、提供または漏えいしてはならない。 2 甲は、対象データについて、事前に乙から書面等による承諾を得ずに、本検証遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本検証遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できる。 3 甲は、対象データを、本検証遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき甲が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員および従業員に退職後も含め課さなければならない。 4 甲は、対象データのうち、法令の定めに基づき開示等すべき情報を、可能な限り事前に乙に通知した上で、当該法令の定めに基づく開示先に対し開示等することができる。 5 本検証の完了後、乙が甲に対し、第6条に基づき、共同研究開発契約を締結しない旨を通知した場合または乙の指示があった場合、甲は、乙の指示に従って、対象データ(複製物および同一性を有する改変物を含む。)が記録された媒体を破棄もしくは乙に返還し、かつ、甲が管理する一切の電磁的記録媒体から削除する。なお、乙は甲に対し、対象データの破棄または削除について証明する文書の提出を求めることができる。 6 甲は、本契約に別段の定めがある場合を除き、乙による対象データの提供は、乙の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。 7 本条の規定は、前項を除き、本契約が終了した日より3年間有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 本検証に際して、事業会社がスタートアップに提供した対象データの管理等について定めた規定である。 ### <解説> - 本検証のために事業会社からスタートアップに提供された対象データについては、一般的な秘密情報とは異なる別途の考慮が必要となる場合が多いと考えられるため、一般的な秘密情報に関する規定(第9条)と異なる規定を本条で設けている。 - 本条の対象は「対象データおよび資料等」ではなく「対象データ」のみであり、対象データに含まれない「資料等」については、秘密情報の取扱いを定める第9条での保護対象となる。 - 本モデル契約が想定するPoC段階では、検証目的で一定の対象データを受領する場合を前提としているため、利用契約と異なり対象データの目的外利用を認める規定は設けていない。本条は、存続条項があるため(第7項)、本モデル契約の終了後も3年間効力を有する。ただし、第7項に、「前項を除き」と規定されていることから、第6項の規定については、原則(第15条)に戻り、期間の定めなく効力を有することになる。 ## 9条(秘密情報) ``` 第9条 甲および乙は、本検証遂行の目的のため、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示等の方法ならびに媒体を問わず、また、本契約の締結前後にかかわらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報(本報告書に記載された情報を含み、対象データを除く。以下「秘密情報」という。)を秘密として保持し、秘密情報を開示等した者(以下「開示者」という。)の事前の書面等による承諾を得ずに、第三者に開示または漏洩してはならない。 2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。 1. 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの 2. 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの 3. 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの 4. 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの 5. 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得または創出したもの 3 受領者は、秘密情報について、事前に開示者から書面等による承諾を得ずに、本検証遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本検証遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できる。 4 受領者は、秘密情報を、本検証遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課す。 5 本条第1項、同条第3項および第4項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報を開示等することができる。 1. 法令の定めに基づき開示等すべき場合 2. 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに基づく開示等の要求がある場合 3. 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合 6 本条第1項、同条第3項および第4項の定めにかかわらず、甲および乙は、相手方の事前の承諾なく、以下の事実を第三者に公表することができる。   甲乙間で、本検証が開始された事実 7 本検証が完了した場合、本契約が終了した場合または開示者の指示があった場合のいずれかに該当する場合、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報(その複製物および同一性を有する改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他有体物を破棄もしくは開示者に返還し、かつ、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除する。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報の破棄または削除について証明する文書の提出を求めることができる。 8 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報により、開示者の知的財産権を譲渡、移転または利用許諾するものでないことを確認する。 9 本条は、秘密情報に関する甲乙間の合意の完全なる唯一の表明であり、秘密情報に関する甲乙間の書面等または口頭による提案およびその他の連絡事項の全てに取って代わる。 10 本条の規定は、第8項を除き、本契約が終了した日より3年間有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 相手から提供を受けた秘密情報の管理方法に関する条項である。 ### <解説> 秘密情報の定義 - 秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、簡易迅速に行うことが多いPoC段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクを避けるため、秘密保持契約における秘密情報の定義と異なり前者の規定を原則とした。なお、対象データについてはその管理方法について第8条で定めているため秘密情報の定義から除外している。 - 他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、秘密を指定する条文を採用すればよい。 - なお、秘密を指定する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、モデル契約(新素材)の「秘密保持契約」に詳細に解説しているため、そちらを参考にされたい。 ### 【コラム】秘密情報管理の詳細については以下も参照されたい - 秘密情報の保護ハンドブックの手引き - - 秘密情報の保護ハンドブック - - 知財を使った企業連携4つのポイント - 技術検証が開始された事実の公表 - スタートアップにとって重要な条項となるのが本条第6項である。スタートアップにとって、自社技術が事業会社への導入の技術検証(PoC)の段階まで進んだとの事実は、投資家やユーザーに対する効果的なPR材料になる場合が多く、スタートアップがかかる事実の公表を望むケースが多い。 - しかし、本条第6項のような規定が入っていない場合、秘密情報の定義の内容によっては、かかる事実の第三者への公表が秘密保持義務違反を構成するか否かが曖昧なケースも存在し、スタートアップが公表に踏み切れないケースや、事業会社に事前に許可を求めるも社内決裁を得るのに時間がかかり発表すべきタイミングに発表できないケースも散見される。 - そこで、本モデル契約においては、スタートアップ-事業会社間で本検証が開始された事実は公表しても問題ないと合意できたと想定し、公表を積極的に許可する規定を設けることで、かかる弊害を回避することとした。 秘密保持契約とPoC契約内の秘密保持条項の関係 - 秘密保持契約に引き続いてPoC契約を締結する場合、秘密保持契約とPoC契約内の秘密保持条項の関係が問題となる。 - PoC契約において秘密保持条項を設けず、前者が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては、秘密保持契約の締結時点よりも、秘密情報の対象について具体的な情報整理が進んでいると想定し、本モデル契約内の秘密保持条項が、すでに締結されている秘密保持契約を上書きすることを第9項で明記している。 > この点について、すでに締結した秘密保持契約の内容を本モデル契約で上書きすることで齟齬が生じないか、十分に注意して規定する必要がある。 PoC段階における秘密保持条項の必要性 - PoC段階など、相手方から提供を受けた秘密情報と並んで、検証結果などの成果物情報が存在する場合、これらの成果物情報(いわゆるフォアグラウンド情報)も秘密保持の対象とする必要がある。すでに秘密保持契約を締結している場合も多いと思われるが、秘密保持契約のみでは秘密情報の定義上、フォアグラウンド情報が含まれるかどうかが曖昧なケースが多いため、別途PoC契約で秘密保持契約条項を設ける必要がある。 ## 10条(個人情報の取り扱い) ``` 第10条 本検証遂行に際して、乙が個人情報等を含んだ対象データを甲に提供する場合には、個人情報保護法に定められている手続を履践していることを保証するものとする。 2 乙は、本共同開発の遂行に際して、個人情報等を含んだ対象データを甲に提供する場合には、事前にその旨を明示する。 3 甲は、第 1 項に従って個人情報等が提供される場合には、個人情報保護法を遵守し、個人情報等の管理に必要な措置を講ずるものとする。 ``` ### <ポイント> - 対象データおよび資料等に個人情報等が含まれる場合に関する規定である。 ### <解説> - システムの構想段階から個人情報保護のための方策を作り込むことを、プライバシー・バイ・デザイン(Privacy by Design:PbD)といい、事後のプライバシー侵害のリスクを低減する効果的な手段とされる。この考え方に従い、PoCを設計する時点で、どのようなデータが提供され得るのかを検討し、それに応じた法令上の具体的な義務を履践すべきことを条項化して義務付けることが望ましい。 ### 11条(本報告書等の知的財産権) ``` 第11条 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権(著作権法27条および28条の権利を含む。)は、乙または第三者が従前から保有しているものを除き、甲に帰属するものとする。 2 甲は、乙に対し、本検証遂行の目的に必要な範囲に限り、乙自身が本報告書を使用、複製および改変することを許諾する。 3 乙は、自らの負担と責任により、本報告書の使用、複製および改変、ならびに当該複製等により作成された複製物等の使用等を行う。甲は、乙に対し、本契約で別段の定めがある場合または甲の責に帰すべき事由がある場合を除いて、乙による本報告書の使用等により乙に生じた損害を賠償する責任を負わない。 4 甲は、乙に対し、本契約に従った本報告書の利用について、著作者人格権を行使しない。 ``` ### <ポイント> - 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の取扱いおよび利用条件について取り決めている。 ### <解説> 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の帰属 - 本報告書であるレポートや、その他本検証の過程で生じる知的財産権の取扱いについては、スタートアップ・事業会社間で争いが生じることがあるので、契約において規定しておくことが重要である。 - 本モデル契約では本検証の作業主体がスタートアップであること、検証段階においては、報告書を利用できれば導入可否の検討という目的を達成できると考えられることから、本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権はすべてスタートアップに帰属することと規定している。 - なお、報告書の著作権について、スタートアップから事業会社に移転するよう求める事業会社が散見されるが、そのような要求をされるとスタートアップとしては、報告書の記載内容をなるべく簡略化しようというインセンティブが発生することになり、事業会社にとってのデメリットが大きい。また報告書の著作権を移転させることは、同報告書の記載について著作権法上の利用行為(複製等)ができるということを意味するに過ぎないが、事業会社から見た場合、上記のような報告書内容の簡略化というデメリットを甘受してもなお、著作権の移転を受ける必要性があるか疑問がある。したがって、報告書の著作権については、むしろ事業会社の利益のためにも、スタートアップに留保する扱いとすべきである。 - 本報告書の利用が第三者の知的財産権を侵害しないことの保証を求められる場合もあるが、PoC段階では最終的に完成させるべき成果物が定まっていないため、第三者の知的財産権の侵害の有無を判断する前提となる事実関係が固まっておらず、侵害の有無の確認が困難であること等を踏まえ、本モデル契約では保証条項は設けないこととした。 技術検証段階におけるスタートアップと事業会社の関係性 - 事業会社としては、委託料を払っている以上、本報告書を含むすべての知的財産権は事業会社に帰属すべきと考えるかもしれない。しかしながら、PoC契約における委託料は、原則としてスタートアップの検証作業に対する対価であり、検証作業にて発生した知的財産権の譲渡を受けるためには、別途それに見合う対価をスタートアップに支払う必要がある。 - 事業会社は、オープンイノベーションを通じて自社の事業を加速させるという観点から、スタートアップとの間で適切な知的財産権の分配を行うことの重要性を意識した上で、PoC段階において最も重要なのは共同研究開発の実現に向けた報告書の内容であり、その知的財産権の帰属ではないことを認識されたい。 ### 【追加オプション - フィードバック規定】 ``` 本検証遂行の過程で、乙が甲に対し、本検証に関して何らかの提案や助言を行った場合、甲はそれを無償で、甲の今後のサービスの改善のために利用することができる。当該提案や助言が秘密情報に該当する場合、乙は甲による当該利用について、本契約の締結をもって本契約9条3項に定める承諾をおこなうものとする。 ``` #### <解説> - 本検証において、事業会社からスタートアップに対し提案や助言(フィードバック)が行われることも多いが、フィードバックの利用条件に関して後にトラブルが発生しないようにするため、これらの利用についてオプション条項のように規定しておくことも考えられる。 - オプション条項ではフィードバック規定の対象を「何らかの提案や助言」とし、それらを利用できる目的の範囲を「甲の今後のサービスの改善のため」と、いずれも広く定義しているが、いずれも、スタートアップと事業会社間の交渉により、対象をより詳細に、あるいは利用目的の範囲を狭く定義することも考えられる。 - なおフィードバック規定の対象である「何らかの提案や助言」が、第9条における「秘密情報」に該当することもあり得ると思われる。そのため、それらの提案や助言の、利用目的の範囲における利用が秘密情報の目的外利用の禁止(第9条第3項)における承諾対象であることを明記した。もっとも、承諾の対象となっているのは目的外利用の禁止(第9条第3項)のみであるため、第三者開示の禁止(第9条第1項)はそのまま適用され、仮に本オプション条項を締結したとしても、スタートアップは事業会社から提供された「何らかの提案や助言」を第三者に開示することはできない。 - また、「何らかの提案や助言」について事業会社が何らかの知的財産権(特許権等)を保有していることがありうる。その場合、当該提案や助言の利用は当該知的財産権の実施に該当することがありうるが、その点については、本オプション条項が第9条第8項に規定する「別段の定め」に該当することによって許容されることとなる。 ### 12条(損害賠償) ``` 第12条 乙は、甲の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、甲に対して損害賠償を請求することができる。ただし、甲が乙に対して本契約に関して負担する損害賠償責任の範囲は債務不履行責任、知的財産権の侵害、不当利得、不法行為責任、その他法律上の請求原因の如何を問わず、乙に現実に発生した直接かつ通常の損害に限られ、逸失利益を含む特別損害は、甲の予見または予見可能性の如何を問わず甲は責任を負わない。 2 前項に基づき甲が乙に対して損害賠償責任を負う場合であっても、本契約の委託料を上限とする。 3 前2項は、甲に故意または重大な過失がある場合は適用されない。 ``` ### <ポイント> - 契約の履行に関して契約違反が生じた場合の違反行為の停止等および損害賠償責任に関する条項である。 ### <解説> - 損害賠償責任の範囲・金額・請求期間については、本検証の内容やコストの負担、委託料の額等を考慮してスタートアップ・事業会社の合意によりあらかじめ定めるケースもあるが、本条では具体的な損害賠償額は定めず、その上限のみ定めた。 - 本モデル契約では、スタートアップの損害賠償責任の範囲について、何を請求原因とするのかにかかわらず、損害賠償額の上限は本モデル契約(本検証)の委託料を限度とすることを定めている。 - 但し、故意・重過失の場合には、上限規定は適用されないものとしている。損害発生の原因が故意による場合には、免責・責任制限に関する条項は無効になると解釈されるおそれがあり、故意に準ずる重過失の場合(例えば、重大な情報の漏洩等)にも同様に無効とするのが有力な考え方であることから、このような規定を設けた。 ### 13条(解除) ``` 第13条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。 1. 本契約の条項について重大な違反を犯した場合 2. 支払いの停止があった場合または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合 3. 手形交換所の取引停止処分を受けた場合 4. 本報告書および本検証遂行に伴い生じた知的財産権の有効性を争った場合 5. その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合 2 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。 ``` ### <ポイント> - 契約解除に関する一般的規定である。 ### <解説> - スタートアップとしては、以下のようないわゆるチェンジオブコントロール条項(COC条項)等により、M&Aが本モデル契約の解除事由として定められると、M&Aに先立つデューデリジェンスにおいてリスクとして評価されうる。 #### 【解除事由としてのCOC条項の例】 他の法人と合併、企業提携あるいは株主の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合 #### <解説> - かかる条項が解除事由に含まれている場合は、これらの支障を説明した上で削除を求めることも検討を要する。 - 事業会社より、スタートアップが競合企業に吸収合併されて秘密情報が競合にわたってしまうことを懸念してCOC条項の導入が求められる場合も考えられる。 - その場合には、当該懸念を解消するべく、解除事由となる経営権の移転先を競合会社(具体的に会社名を列挙することも考えられる。)に限定した上でCOC条項を導入することも考えられる。 ## 14条(期間) ``` 第14条 本契約は、本契約の締結日から6ヶ月または乙による本報告書の確認の完了日のいずれか早い日まで効力を有する。 ``` ### <ポイント> - 契約の有効期間を定めた一般的な条項である。 ### <解説> - 本モデル契約では、本報告書の確認の完了日(第3条第4項)を基準に有効期間を定めることとしつつも、事業会社が確認をしない限り、いつまでも契約が続いてしまうことが想定されることから、最長でも6ヶ月を超えないこととしている。 ## 15条(存続条項) ``` 第15条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても本契約第3条(本検証)第7項から第10項、第5条第2項(甲の義務)、第6条(共同研究開発契約の締結)、第7条(乙が甲に提供する資料等)第2項 、第8条(対象データの管理)から第12条(損害賠償)、本条、第16条(準拠法および管轄裁判所)ならびに第17条(協議解決)の定めは有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。 ## 16条(準拠法および管轄裁判所) ``` 第16条 本契約に関する一切の紛争については、日本法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <ポイント> - 準拠法および紛争解決手続きに関して裁判管轄を定める条項である。 ### <解説> - クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。 - 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、調停や仲裁によるとする場合もある。 ## 17条(協議解決) ``` 第17条 本契約に定めのない事項または本契約の解釈についての疑義が生じた場合、甲乙にて協議の上、解決する。 ``` ### <ポイント> - 紛争発生時の一般的な協議解決の条項である。 ## その他の追加オプション条項 ### 再委託 ``` 第●条 甲は、乙が書面等によって事前に承認した場合、本検証にかかる業務の一部を第三者(以下「委託先」という。)に再委託することができる。なお、乙が上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要する。 2 前項の定めに従い委託先に本検証にかかる業務の一部を委託する場合、甲は、本契約における自己の義務と同等の義務を、当該委託先に課す。 3 甲は、委託先による業務の遂行について、乙に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負う。ただし、乙の指定した委託先による業務の遂行については、甲に故意または重過失がある場合を除き、責任を負わない。 ``` #### <ポイント> - 本検証にかかる業務の再委託の可否および再委託がなされた場合のスタートアップの責任について定める条項である。 #### <解説> - 再委託の可否については、再委託について事業会社の事前承諾を要するパターンと再委託先の選定について原則としてスタートアップの裁量により行えるパターンが考えられる。 - 技術検証(PoC)においては、スタートアップ自身の技術力に着目して契約が締結されることや、事業会社が提供する資料等の取扱いについて事業会社のコントロールを及ぼすという観点から、本モデル契約では、再委託について事業会社の事前同意を必要としている。 ### 契約内容の変更 ``` 第●条 本検証の対象が想定外に拡大した等の事情により、検証期間、委託料等の契約条件の変更が必要となった場合、甲または乙は、相手方に当該変更の要否についての協議を書面等で申し出るものとし、当該申し出を受けた当事者は、速やかに当該協議に応じるものとする。 2 前項の協議に基づき、本契約の内容の一部変更をする場合、甲および乙は、当該変更内容が記載された変更契約を書面等で締結する。 ``` #### <ポイント> - 想定外の事態が生じた場合に、契約内容の変更について協議をすることおよび契約内容を変更することとなった場合の手続について定める条項である。 ### 権利義務の譲渡の禁止 ``` 第●条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面等による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせもしくは担保に供してはならない。 ``` #### <ポイント> - 契約上の地位については相手方の承諾なく譲渡できないとする一般的な規定である。 ``` 本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲、乙記名押印の上、各自1通を保有する。 ```     年  月  日 甲 乙 --- (別紙1:本検証) \(1\) 作業体制  ● \(2\) 作業内容および役割分担 【記載例】 ア 甲  ① 対象データにアノテーションを行うことによる学習用データセット作成  ② 甲が本契約締結前から保有する学習済みモデルに学習用データセットを用いた学習を行うことによる学習済モデルのプロトタイプの生成・精度向上  ③ ②で生成したプロトタイプを用いた姿勢推定精度の評価および当該評価を踏まえた本報告書の作成 イ 乙  ① 対象データの収集及び甲への提供  ② ア③の評価に対する協力 \(3\) 検証期間  ● --- (別紙2:対象データ) (1)データの概要 (例)介護施設に乙がカメラを設置したうえで撮影した動画データ。当該動画データについては、乙において個人情報が含まれない形に匿名加工を行うか、あるいは撮影対象である被介護者本人から第三者提供に関する同意を取得するなど個人情報保護法上に定められている手続を履践するものとする。 (2)データの項目 (3)データの量 (4)データの提供形式 ================================================ FILE: 7_モデル契約書v1_0_共同研究開発契約書(AI編)_逐条解説あり.md ================================================ # モデル契約書ver1.0 共同研究開発契約書(AI) ## 想定シーン 1. 当事者 - 動画・静止画から人体の姿勢をマーカーレスで推定するAI技術を保有するスタートアップX社は、介護施設向けリハビリ機器の製造メーカーY社から問い合わせを受け、X社が保有するAI技術の、Y社が製造販売を検討している介護施設における被介護者の見守り用のカメラシステム(見守りカメラシステム)への導入可能性を検討するため、アセスメントおよびPoCを実施してきた。 - なお、 データに関しては、Y社が動画データをX社に提供し、X社がアノテーションを付して学習向けに整形した学習用データセットを作成している。 1. 共同研究開発フェーズへの移行 - X社およびY社の間におけるアセスメント、PoCはそれぞれ滞りなく完了し、X社はY社に対し、X社がもともと保有していたAI技術(ベースモデル)を基礎とし、Y社のデータを用いて被介護者の姿勢推定用にカスタマイズしたモデル(カスタマイズモデル)のプロトタイプを開発し、見守りカメラシステムと連携した際の人体姿勢の推定結果・精度等についての報告書を交付した。 - Y社においては、報告書を受領した後、社内検討を行い、正式にX社との共同研究開発を行うことを決定した。 - そこで、X社とY社は、Y社が見守りカメラシステムと連携するカスタマイズモデルの開発ならびに開発後の販売およびサービス提供の方法を巡って、研究開発条件の交渉を開始した。 - なお、ハードデバイスである見守りカメラ機器は、Y社が単独で試作品の製造を開始しており、X社とY社が研究開発条件の交渉を開始する時点で、カスタマイズモデルとの連携の点や全体の点検作業を残し、概ね完成している。 1. 研究開発交渉 - X社とY社の研究開発交渉においては、双方の意向として、以下の点が挙げられた。 - ||X社の意向|Y社の意向| |:--|:--|:--| |**①開発対価**|共同研究開発開始時、およびY社による成果物確認の完了時点の2回に分けて支払いを受けたい。|差し支えない。| |**②成果物および成果物の提供方法**|X社は既存のクライアントであるスポーツ業界、フィットネス業界の各企業とのアライアンスにおいても、ベースモデルおよびカスタマイズモデルのコードを提供することなくAPI提供している。これにより、姿勢推定に関するコア技術を秘匿化することに成功していることから、この度の共同研究開発の成果物であるカスタマイズモデルについてもコードの提供を行わず、その処理結果のみをAPIを通じて提供する予定である。|カスタマイズモデルのコードそのものを提供するのではなく同モデルによる処理結果をAPI経由で提供するという点については同意する。
ただAPI提供を行うのであれば、Y社の販売する見守りカメラシステム(ハードデバイス)とX社のカスタマイズモデルとをAPI連携するために必要な連携システム(本連携システム)も、共同開発の成果物とすべきであり、最低限、本連携システムのソースコードおよび仕様書など本連携システムの利用に必要となるドキュメント類については提供して欲しい。| |**③Y社が提供するデータ**|Y社において、個人情報保護法その他の法律に遵守した形で提供いただきたい。|差し支えない。| |**④知的財産権の帰属**|**ア ベースモデルの知財**
ベースモデルの知的財産権は本契約締結以前よりX社が保有するX社のコア技術であるため、X社に帰属するものとしたい。
**イ カスタマイズモデル等の成果物や開発過程における知財**
(1)上場審査やM&Aに先立つデューデリジェンスにおいてマイナス評価を受けないために、また、(2)自由度を確保して多数の企業とのアライアンスを実施し市場を拡大して売上を増加させるために、成果物等の知的財産権(著作権および特許権等)についてはX社の単独帰属としたい。
仮にそれが難しければ、最低でも成果物等に関する著作権についてはX社の単独帰属としたい。
連携システムに関する著作権をY社に移転させることについては異存ない。|**ア ベースモデルの知財**
ベースモデルが共同開発の成果物ではないことは理解しているので、その知的財産権がX社に帰属しているということで問題ない。
**イ カスタマイズモデル等の成果物や開発過程における知財**
カスタマイズモデルはY社の知見およびデータを元に得られたものである以上、カスタマイズモデルに関する著作権や特許権はY社にも帰属するのではないかと考えている。
しかし、利用条件次第ではカスタマイズモデルの知的財産権のうち著作権に限ってはX社に単独帰属させることも検討可能である。
一方、本連携システムや関連するドキュメントに関する著作権については、今後Y社内でも保守等を行う可能性があることから、Y社に帰属させたい。| |**⑤知的財産権の利用**|カスタマイズモデルの利用条件は別途SaaS契約において定める。|カスタマイズモデルの利用条件を別途SaaS契約で定めることについては差し支えないが、カスタマイズモデルはY社の知見およびデータを元に生成されたものである以上、カスタマイズモデルの利用条件については、Y社におけるカスタマイズモデルの独占的利用や何らかの経済的なメリットの設定が必要である。
利用契約においてそのようなメリットが合意できるのであれば、カスタマイズモデルの知的財産権についてはX社に帰属させることも検討する。| |**⑥公表**|資金調達の観点からもY社との共同研究開発を開始した時点および一定の成果が出た時点で、それぞれ公表したい。|公表については、今後のサービス展開を踏まえるとY社にもメリットがあるため、X社の意向で差し支えない。ただし、公表のタイミングおよび公表内容については双方で合意した内容としたい。| 1. **共同研究開発契約の締結** - **数度にわたる協議の結果、X社およびY社は、次の内容にて合意し、これらの内容を踏まえた共同研究開発契約書を作成することとした。** - |**【交渉結果】**|| ----|---- |**①開発対価**|Y社は、X社に対し、開始時および成果物確認完了時の2回に分けて支払いを行う。| |**②成果物および成果物の提供方法**|**ア 成果物**
カスタマイズモデル、本連携システムおよび仕様書その他本連携システム利用に必要となるドキュメント類
**イ カスタマイズモデルの提供方法**
成果物の確認に必要な期間(確認期間)中、カスタマイズモデルによる処理結果をAPIを通じてX社が提供することでY社が確認を行う。
**ウ 本連携システムおよびドキュメント類の提供方法**
X社がカスタマイズモデルと併せて開発を行い、関連するドキュメント類(PDF形式)とともにそのソースコードをY社に提供する。| |**③Y社が提供するデータ**|Y社が、顧客である介護事業者から取得し、X社に提供するまでの間に、個人情報が含まれない形に匿名加工を行うか、あるいは撮影対象である被介護者本人から第三者提供に関する同意を取得するなど、Y社において個人情報保護法上の問題がクリアになったデータをX社に提供する。| |**④知的財産権の帰属**|**ア カスタマイズモデルを含む成果物および開発過程において発生した著作権**
本連携システムおよびドキュメントに関する著作権はYに帰属する。それ以外の成果物等に関する著作権はXに帰属する。
**イ カスタマイズモデルを含む成果物および開発過程における著作権以外の知的財産権**
発明者主義とする。

※ベースモデルの知的財産権の帰属
ベースモデルの知的財産権は、本共同開発前からX社が保有する知的財産権であるため、当然X社に帰属する。| |**⑤ 本件成果物等の利用条件**|別途SaaS契約において定める。ただし、カスタマイズモデルがY社の知見およびデータの提供により生成されたことを十分考慮して、その利用条件を設定する。| |**⑥公表**|双方が合意したタイミング(例:共同研究開発を開始した時点および一定の成果が出た時点等)で、双方で合意した内容を公表する。| - ***その他の条件はタームシート記載のとおりである。** ## タームシートや表を用いた契約書作成前の交渉 ここまで、研究開発交渉の過程を紹介する中で、X社の意向・Y社の意向をそれぞれ表形式で整理を行った。 こうした表形式での整理は、本モデル契約の紙面上の便宜のために行っているわけではなく、実際に、主に契約交渉の初期段階においては、契約の要点を定めた条件規定書(タームシート)を利用して契約交渉が行われることが少なくない。 通常の契約交渉は、いずれかの当事者から提出された契約書を他方がレビューして進められる。契約書の文言を、校閲ツールを用いて修正し、修正意図についてコメントを残すといった方法で、相手方当事者との間で双方が実を得られるような調整を行うことが一般的である。 しかし、事前に重要な契約条件について確認を行わずに契約書を作成すると、その後に双方がどうしても譲歩できないポイントが重複し、契約を締結することができなくなった場合、契約書作成の過程が全く無駄になってしまう。 また、複雑かつ大部な契約になると、交渉事項もその分多くなることから、専属の法務担当者を抱える場合であってもレビューに一定の時間を擁するものであり、人的資源を欠くスタートアップにおいては、よりその負担が顕著であろう。 加えて、こうした複雑な契約となると、どうしても交渉のポイントごとに契約書の文言を修正することに気を取られてしまい、交渉事項を総合的・全体的に検討することが難しくなる。このような、木を見て森を見ずの議論になり、双方が実を得られないというケースも散見される。 そこで、事前に交渉のポイントをピックアップしたうえでタームシートを作成し、整理した上で、整理した内容を契約書に落とし込むという方法が採用されることが多い。 後述するとおり、AIの開発においては、共同開発対象とされる学習済みモデルに加えて、事業会社が提供する生データやこれを加工して得られた学習用データセットなどの材料や中間成果物が存在する。したがって、AI分野においては交渉に先立ってタームシートを利用して整理を行うことが比較的多い。 なお、タームシートの形式にも決まった形式があるわけではない。別途公開される本モデル契約のタームシートのような詳細なものでなくとも、上記想定シーンの整理において用いたような表でも差し支えない。事業会社・スタートアップ双方にとって重要と考えるポイントを予め表形式で整理することで、双方にとってスムーズな交渉が行われることが望まれる。 ## 目次 - [モデル契約書ver1.0 共同研究開発契約書(AI)](#モデル契約書ver10-共同研究開発契約書ai) - [想定シーン](#想定シーン) - [タームシートや表を用いた契約書作成前の交渉](#タームシートや表を用いた契約書作成前の交渉) - [目次](#目次) - [はじめに](#はじめに) - [契約の内容(ソフトウェア開発委託契約か共同研究開発か)](#契約の内容ソフトウェア開発委託契約か共同研究開発か) - [前文](#前文) - [第1条(目的)](#第1条目的) - [<ポイント>](#ポイント) - [<解説>](#解説) - [第2条(定義)](#第2条定義) - [<ポイント>](#ポイント-1) - [<解説>](#解説-1) - [第3条(役割分担)](#第3条役割分担) - [<ポイント>](#ポイント-2) - [<解説>](#解説-2) - [第4条(委託料およびその支払時期・方法)](#第4条委託料およびその支払時期方法) - [<ポイント>](#ポイント-3) - [<解説>](#解説-3) - [第5条(作業期間)](#第5条作業期間) - [<ポイント>](#ポイント-4) - [<解説>](#解説-4) - [第6条(各自の義務)](#第6条各自の義務) - [<ポイント>](#ポイント-5) - [<解説>](#解説-5) - [第7条(責任者の選任および連絡協議会)](#第7条責任者の選任および連絡協議会) - [<ポイント>](#ポイント-6) - [<解説>](#解説-6) - [第8条(再委託)](#第8条再委託) - [<ポイント>](#ポイント-7) - [<解説>](#解説-7) - [第9条(本契約の変更)](#第9条本契約の変更) - [<ポイント>](#ポイント-8) - [第10条(本件成果物の提供および業務終了の確認)](#第10条本件成果物の提供および業務終了の確認) - [<ポイント>](#ポイント-9) - [<解説>](#解説-8) - [第11条(対象データ等)](#第11条対象データ等) - [<ポイント>](#ポイント-10) - [第12条(対象データの利用・管理)](#第12条対象データの利用管理) - [<ポイント>](#ポイント-11) - [<解説>](#解説-9) - [第13条(本学習用データセットの取扱い)](#第13条本学習用データセットの取扱い) - [<ポイント>](#ポイント-12) - [<解説>](#解説-10) - [【13条2項変更オプション - 学習用データセットの利用目的を限定しない場合】](#13条2項変更オプション---学習用データセットの利用目的を限定しない場合) - [<ポイント>](#ポイント-13) - [第14条(秘密情報の取扱い)](#第14条秘密情報の取扱い) - [<ポイント>](#ポイント-14) - [<解説>](#解説-11) - [第15条(成果の公表)](#第15条成果の公表) - [<ポイント>](#ポイント-15) - [<解説>](#解説-12) - [第16条(個人情報の取扱い)](#第16条個人情報の取扱い) - [<ポイント>](#ポイント-16) - [第17条(本件成果物等の著作権の帰属)](#第17条本件成果物等の著作権の帰属) - [<ポイント>](#ポイント-17) - [<解説>](#解説-13) - [第18条(本件成果物等の特許権等の帰属)](#第18条本件成果物等の特許権等の帰属) - [<ポイント>](#ポイント-18) - [<解説>](#解説-14) - [第19条(本件成果物等の利用条件)](#第19条本件成果物等の利用条件) - [<ポイント>](#ポイント-19) - [<解説>](#解説-15) - [第20条(禁止事項)](#第20条禁止事項) - [<ポイント>](#ポイント-20) - [<解説>](#解説-16) - [第21条(損害賠償)](#第21条損害賠償) - [<ポイント>](#ポイント-21) - [第22条(OSSの利用)](#第22条ossの利用) - [<ポイント>](#ポイント-22) - [第23条(権利義務譲渡の禁止)](#第23条権利義務譲渡の禁止) - [<ポイント>](#ポイント-23) - [第24条(解除)](#第24条解除) - [<ポイント>](#ポイント-24) - [<解説>](#解説-17) - [【解除事由としてのCOC条項の例】](#解除事由としてのcoc条項の例) - [第25条(有効期間)](#第25条有効期間) - [<ポイント>](#ポイント-25) - [<解説>](#解説-18) - [第26条(存続条項)](#第26条存続条項) - [<ポイント>](#ポイント-26) - [第27条(準拠法および管轄裁判所)](#第27条準拠法および管轄裁判所) - [<ポイント>](#ポイント-27) - [<解説>](#解説-19) - [第28条(協議)](#第28条協議) - [<ポイント>](#ポイント-28) - [締結の証](#締結の証) - [【別紙(1)】](#別紙1) - [【別紙(2)公表事項】](#別紙2公表事項) ## はじめに - スタートアップが事業会社からデータの提供を受け学習済みモデルを開発するという形態の契約を締結する際には、経済産業省が2018年6月に公開した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」の「開発段階のソフトウェア開発契約書(モデル契約書)」(以下「2018年モデル契約書」という。)が実務上参考にされることが多い。そこで、本モデル契約の解説においては、2018年モデル契約についても適宜言及することとする。 - [AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編) [PDF]](https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001-3.pdf) ## 契約の内容(ソフトウェア開発委託契約か共同研究開発か) - 2018年モデル契約書は、そのタイトルが「ソフトウェア開発契約書」とされているとおり開発委託契約であるが、本モデル契約は、そのタイトルが「共同研究開発契約書」とされているとおり、共同研究開発契約である。 - これは、本モデル契約における想定シーン記載のとおり、スタートアップが一方的に開発を受託するケースを想定しているのではなく、スタートアップと事業会社とのオープンイノベーションの一例として、事業会社も事業領域に関する知識・ノウハウやデータを提供しており、文字どおり、共同で研究開発を進める場面を想定しているためである。 - 共同研究開発契約の一般的な特徴として、研究開発の結果が得られるかについて、当事者が、研究開発の開始時には予想困難な不確実性があり、成果は共同研究開発の過程を通じて具体化する場合が多いことや、研究開発の目的の達成に至る道筋については、契約時には確定しておらず、手法について当事者に裁量が認められており、当事者の契約上の義務も抽象的に定めざるを得ないことが挙げられる。AI技術に関する共同研究開発においても、AI技術の特性もあって、このような共同研究開発契約の一般的な特徴が特に当てはまるといえよう。 - なお、一般に共同研究ないし共同研究開発においては、費用を双方負担とするのが原則とされている。しかし、新素材分野におけるモデル契約書(以下、「新素材モデル契約」という。)第5条の解説において記載されているとおり、共同研究開発という題目ながら、資金力豊かな当事者が研究開発費を負担するというケースも散見され(新素材モデル契約9頁)、AI分野における多くの共同研究開発のケースでは現に事業会社が研究開発費(事実上の開発委託費)をスタートアップに支払っている。 - [新素材モデル契約 [PDF]](https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200630006/20200630006-10.pdf) ## 前文 ``` X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)は、第2条に定義する本学習済みモデルおよび本連携システムの開発に関して、以下のとおり共同研究開発契約(以下「本契約」という。)を締結する。 ``` ## 第1条(目的) ``` 第1条 甲および乙は、共同して下記の研究開発(以下「本共同開発」という。)を行う。 - 記 1. 本共同開発のテーマ:甲が保有する「人体の姿勢推定AI技術」(動画・静止画から人物の姿勢をマーカーレスで推定するAI技術)を、介護施設における被介護者の見守用高機能カメラシステムに適用した学習済みモデルの開発 2. 本共同開発の目的(以下「本目的」という。):前記学習済みモデルを利用した前記システムの開発および製品化 ``` ### <ポイント> - 共同研究開発(本共同開発)のテーマおよび目的に関する規定である。 - 共同開発契約はそれぞれの当事者が自己に与えられた役割の範囲において善良なる管理者の注意義務に基づいて開発業務を遂行する契約であり、相互に当該開発業務を委託し合うという関係にあるという点では、準委任契約としての性質を有する。そのため「各当事者に与えられた役割の範囲」を明確に規定する必要があるが、本条によって定める共同開発のテーマ・目的が、第3条に規定する役割分担とともに、この機能を担っている。 - また、共同開発契約は準委任契約としての性質を有するため、一般的には、それぞれの当事者においてなんらかの成果の完成義務を負うものではない。 ### <解説> 共同研究開発のテーマ(本条1号) - 共同研究開発のテーマの記載の抽象度 - 共同研究開発のテーマは、抽象的に規定し過ぎると双方の認識に齟齬が生じやすい。一方、具体的に規定し過ぎると拡張や変更の度に契約修正の必要が生じる。 - そこで、本条1号のように、ある程度の幅を持たせつつ抽象的過ぎず、かつ、具体的過ぎない記載とするのが望ましい。 - 共同研究開発のテーマの広狭 - 共同研究開発のテーマの定義によって「共同開発」の定義が決まるが、「共同開発」の定義は、知的財産権等の取扱いや、競業避止の範囲などに影響する。 - 例えば、共同研究開発のテーマの定義が広すぎると、「共同開発」の範囲が想定外に広がり、自社固有の研究成果(知的財産権等)が共同開発の成果と解釈され、本モデル契約に従って知的財産権の帰属や成果物の利用関係が規律される(双方が活用可能なものとなる)リスクがある。さらに、不当に広範囲の競業避止義務が課されることにもつながり、本来は自由に研究できるべき研究領域について活動の制限が発生する危険もある。 - 他方、共同開発のテーマの定義が狭すぎると、実際は共同研究の成果であるにもかかわらず、本モデル契約書の枠外とされてしまい、当該成果に関して勝手に特許出願をされてしまうまたは本来禁止したい範囲の競業行為を規制できない等の弊害を生じる可能性がある。さらに、研究のスコープがピボット(変更)するたびに、本モデル契約の範囲から逸脱してしまい、再交渉を余儀なくされるリスクもある。 - そこで、共同研究開発のテーマは、広すぎず狭すぎない実態に即したものとすることが望ましい。 共同研究開発の目的(本条2号) - 共同研究開発の目的は、両当事者の秘密保持義務の内容および範囲を画するものとしても重要である。 - 秘密保持義務条項では、両当事者は共同研究開発の目的以外の目的で秘密情報を使用してはならないとの条件が設けられることが一般的である。そのため、秘密保持義務の内容および範囲を確定する際に、本条で定める共同研究開発の目的が参照されることになる。 ## 第2条(定義) ``` 第2条 本契約において使用される用語の定義は次のとおりとする。 1. データ - 電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の方法で作成される記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)をいう。 2. 対象データ - 別紙(1)「対象データの明細」に記載のデータをいう。 3. 学習用プログラム - 学習用データセットを利用して、学習済みモデルを生成するためのプログラムをいう。 4. 学習済みパラメータ - 学習用プログラムに学習用データセットを入力した結果生成されたパラメータ(係数)をいう。 5. 本学習用データセット - 対象データを本共同開発のために整形または加工したデータをいう。 6. 本学習済みモデル - 本共同開発の対象となる、学習済みモデル(特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラム)をいう。 7. 再利用モデル - 本学習済みモデルを利用して生成された新たな学習済みモデルをいう。 8. 本見守りカメラシステム - 甲乙が共同開発する、介護施設における被介護者の見守り用のカメラシステムをいう。 9. 本連携システム - 本見守りカメラシステムに搭載される、本学習済みモデルと本見守りカメラシステムをAPI連携するためのシステムをいう。 10. 本ドキュメント - 仕様書その他本連携システムに関連するドキュメントをいう。 11. 知的財産 - 発明、考案、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見または解明がされた自然の法則または現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)および営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報をいう。 12. 知的財産権 - 特許権、実用新案権、意匠権、著作権その他の知的財産に関して法令により定められた権利(特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権利を含む。)をいう。 13. 本件成果物 - 本学習済みモデル、本連携システムおよび本ドキュメントをいう。 14. 個人情報等 - 個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号))に定める個人情報(同法2条1項)、個人データ(同法2条6項)および匿名加工情報(同法2条9項)をいう。 15. 書面等 - 書面および甲乙が書面に代わるものとして別途合意した電磁的な方法をいう。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。 ### <解説> 学習済みモデルを定義することの重要性 - AI 技術を利用したソフトウェアの開発を目的とする契約の実務において、学習済みモデルの取扱いはその交渉上の中心的な課題の一つである。しかし、学習済みモデルの定義は一義的に明らかなものではないため、その取扱いに関する交渉にあたっては、この点について共通の理解を得ておくことが紛争予防の観点から望ましい。 - 具体的には、学習済みモデルについて、アルゴリズム、プログラム、あるいは学習済みパラメータのいずれか、あるいはそのいずれかの組み合わせを指しているのかについて、十分な整理がなされないまま交渉が行われ、契約が締結されている例が見受けられる。 - 2018年モデル契約では、「学習済みモデル」を、「推論プログラム」+「学習済みパラメータ」と整理した上で契約書上定義しており(下図参照)、本モデル契約においても同様の定義を行っている。 - ![image](https://user-images.githubusercontent.com/37929109/119067921-1049f680-ba1e-11eb-9fdd-74d41a44cb18.png) - (経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」12頁より) ## 第3条(役割分担) ``` 第3条 甲および乙は、本契約に規定の諸条件に従い、お互いに協力して本共同開発において別紙(1)の5「具体的作業内容」に記載された業務を誠実に実施しなければならない(以下、甲の担当業務を「甲業務」、乙の担当業務を「乙業務」という。)。 2. 本共同開発における甲および乙の作業体制は、別紙(1)の4「作業体制」においてその詳細を定める。 ``` ### <ポイント> - 両当事者の役割分担を定めた規定である。 - 一般に契約にまつわる詳細事項(開発の詳細な段取り、開発目標品の仕様、スケジュールなど)は別紙に規定することが多い。本モデル契約もこのスタイルを採用している。 - 別紙(1)の5には、「具体的作業内容」として以下のように規定した。 1. 甲の担当作業: 次のとおりとする。 - 対象データの前処理 - 対象データのアノテーション - 本学習用データセットの作成 - 対象データによる本学習済みモデルの生成 - 本連携システムの開発および本ドキュメントの作成 2. 乙の担当作業: - 対象データの提供 - 本学習済みモデルの精度の向上に必要な知見(ノウハウを含む。)の提供 - 本学習済みモデルおよび本連携システムの性能評価 ### <解説> - 従来型のソフトウェアの受託開発とは異なり、AIの共同研究開発においては事業会社がスタートアップに対し、データや学習済みモデルの精度向上のためのノウハウを提供するなどして、精度の高い学習済みモデルを共同して開発することが前提となっている。そこで、本共同開発にあたっての双方の役割分担を別紙(1)の「具体的作業内容」に記載して定義している。 - 共同研究開発においては、当事者が相互に自らの役割を果たすことによって、研究開発の目的を達成することを目指しているため、当然のことながらスタートアップの役割だけではなく、事業会社の役割も重要である。そのため、別紙(1)における役割分担を決定するに際しては、精度の高い学習済みモデルの共同開発という目的達成のために両当事者がどのような役割を負うべきかについて十分に交渉を行い、併せて共同開発に向けての義務を双方がフェアな形で負うように定めることが必要である。共同開発に向けての各当事者の義務については第6条(各自の義務)において事業会社・スタートアップ双方が善管注意義務を負担することを明記している。 ## 第4条(委託料およびその支払時期・方法) ``` 第4条 甲業務の対価は別紙(1)の9「委託料」で定めた金額とする。 2. 乙は甲に対し、甲業務の対価を、別紙(1)の10「委託料の支払時期・方法」で定めた時期および方法により支払う。 ``` ### <ポイント> - 甲業務の対価としての委託料の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。これら二つの項目は必ずセットで規定する必要があることに留意したい。 ### <解説> - 本想定シーンの【交渉結果】においては、開始時および成果物の確認完了時の2回に分けて委託料の支払いが行われるものであって、いわゆるマイルストーン方式と呼ばれる成果完成型に近い取り決めがなされたといえるが、当然これと異なる取り決めも可能である。なお、マイルストーン方式については、新素材モデル契約第10条のコラムを参照されたい。 ## 第5条(作業期間) ``` 第5条 本共同開発の作業期間は、別紙(1)の7「作業期間」に定めたとおりとする。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約の契約期間に関する条項(第25条)とは別に、本共同開発の目安となるスケジュール・ロードマップを定めるための条項である。 ### <解説> - 共同開発においては開発が予定通りに進むとは限らず、予定完了時期を超えて開発を行うことになる場合もある。その場合に、作業期間を明確に決めずに開発を続けてしまうと、スタートアップとしては、想定以上の時間を費やしたにも関わらず追加の委託費用をもらえないという事態も起こり得る。他方、事業会社としても、想定した期間内までに開発の成果を得られないという事態が起こり得る。 - 特に、VCから資金調達を受けているスタートアップとしては、一定の期間内にIPOまたはM&AによるEXITを目指さなければならず、開発が徒に長期化しないよう、開発に関するタイムスケジュールを定めておく必要性は大きいものといえよう。 - なお、予定完了時期を超えて開発を行うことになる場合に備えて、作業期間を定めたうえで、「協議を行い、両当事者合意の上延長できる」旨の規定を置くことも考えられる。 ## 第6条(各自の義務) ``` 第6条 甲は、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識に基づき、善良な管理者の注意をもって、甲業務を行う義務を負う。 2. 甲は、本件成果物について完成義務を負わず、本件成果物が乙の業務課題の解決、業績の改善・向上その他の成果や特定の結果等を保証しない。 3. 本共同開発に関して発生する不具合(乙が別途本契約外で開発する本見守りカメラシステムおよび対象データに起因する不具合を含む。)について、甲は一切の責任を負わない。ただし、当該不具合が、本件成果物のみに起因する場合はこの限りではない。 4. 乙は、介護業界、見守りカメラシステムに関する業界の一般的な専門知識、対象データおよび共同開発に必要なノウハウの提供者としての地位に基づき、善良な管理者の注意をもって、乙業務を行う義務を負う。 ``` ### <ポイント> - 甲業務を履行するに際してのスタートアップの善管注意義務および本件成果物の性能の非保証、ならびに乙業務を履行するに際しての事業会社の善管注意義務を定める条項である。 ### <解説> 完成義務の有無・性能保証の可否 - 共同開発契約は準委任契約の性質を有するので本来、各当事者は完成義務を負うものではないが、本条2項は、その趣旨を踏まえ、スタートアップが本件成果物について完成義務を負わないことおよび本件成果物が特定の成果や結果を保証しないことを明記するものである。特にAI開発においては、AI技術の特性上、そのような規定を設けることが合理的である。その詳細は、2018年モデル契約第7条の解説に譲るが、AIソフトウェアは、主にデータから帰納的に作成されるため、その性能がデータに依存することや、生成に際して試行錯誤を繰り返す必要があることなどから、そもそも完成や性能を保証することが困難であるという特徴がある。 - この点、スタートアップが成果物に完成義務を負わないことや保証も行わないとことを規定する本条2項に対しては、事業会社が削除を求めることも考えられる。しかしながら、事業会社においては、一定の性能が得られることについてPoC段階で既に確認をした上で共同開発に移行している。また、共同開発とは、技術や事業領域についての情報・知識を有する事業会社とスタートアップが互いにリスクテイクして開発を推進する開発形態であって、事業会社が一方的にスタートアップに完成義務や性能保証を求めるのは妥当ではない。そのような共同研究開発の性格から、AI開発以外の共同研究開発においても、一般的に、成果物の完成義務やその保証を求めない事例も広くみられるところである。そのため、本モデル契約においては、スタートアップは本件成果物について完成義務を負わないことおよび本件成果物が特定の成果や結果を保証しないことを明記している。 スタートアップが負う義務の内容 - 他方で、当然のことながら、本条はスタートアップが成果物の作成について一切の責任を負わないということを認めるものではない。そこで、本条第1項において、スタートアップに、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識に基づいた善管注意義務を負担していることを確認的に規定している。 - すなわち、スタートアップには成果物の完成義務が課せられるわけではないものの、業界の一般的な基準に照らして、容易に開発が行えるはずの学習済みモデルの開発が頓挫した場合などには、スタートアップに善管注意義務違反があったと評価される可能性は十分ある。その意味において、スタートアップは、成果物の完成そのものに義務を負うわけではないが、成果物が完成しなかった場合において、その過程に善管注意義務違反が認められる場合には、事実上、成果物が完成しなかったことによる責任を負うことになる。 事業会社が負う義務の内容 - 第3条で解説したとおり、共同開発においては、スタートアップのみが作業を担うのではなく、事業会社もスタートアップに対し、データや学習済みモデルの精度向上のためのノウハウを提供するなどの自らの役割を果たし、相互が協力して精度の高い学習済みモデルを共同開発することが前提となっている。 - 双方がそのような役割を果たす以上、スタートアップが当該役割を果たすにあたって善管注意義務を負うのと同様、事業会社も自らの役割を履行するに際しての善管注意義務を負うことになる。本条第4項においては、そのような事業会社の善管注意義務を定めている。 共同開発に関して発生する不具合について - 本想定シーンにおいては、本連携システムを本見守りカメラシステム内部に組み込み、カスタマイズモデル(本学習済みモデル)とAPI連携させることで、カスタマイズモデル(本学習済みモデル)における処理結果を本見守りカメラシステムに出力するという利用を予定している。 - もっとも、このような出力に至るまでの過程に動作不具合がある場合に、その原因がカスタマイズモデルや本連携システムという本件成果物にあるのか、事業会社が別途開発する本見守りカメラシステムにあるのか、また事業会社が提供したデータに問題があったのかを究明することは容易ではない。また、共同開発およびAI開発という本モデル契約の性質から、本共同開発に関して発生する不具合(事業会社が担当領域である本見守りカメラシステムおよび対象データに起因する不具合を含む)について、スタートアップが責任を負わないことについて、本条第3項において確認的に規定した。ただし、当該不具合が本件成果物のみに起因する場合はその例外としている。 ## 第7条(責任者の選任および連絡協議会) ``` 第7条 甲および乙は、本共同開発を円滑に遂行するため、本契約締結後速やかに、本共同開発に関する責任者を選任し、それぞれ相手方に書面等で通知する。また、責任者を変更した場合、速やかに相手方に書面等で通知する。 2. 甲乙間における本共同開発の遂行にかかる、要請、指示等の受理および相手方への依頼等は、責任者を通じて行う。 3. 責任者は、本共同開発の円滑な遂行のため、進捗状況の把握、問題点の協議および解決等必要事項を協議する連絡協議会を定期的に開催する。なお、開催頻度等の詳細については、別紙(1)「連絡協議会」に定めるとおりとする。ただし、甲および乙は、必要がある場合、理由を明らかにした上で、随時、連絡協議会の開催を相手方に求めることができる。 ``` ### <ポイント> - 事業会社とスタートアップのやり取りをスムーズに行うために、双方の窓口となる責任者を任命する。 - 進捗状況の報告等を定期的に行う会議を開催し、課題等について情報の共有を行う。必要に応じて、緊急の会議を開催することも可能である。 ### <解説> - 実際の開発に際しては、事業会社とスタートアップの責任者のみならず担当者がそれぞれメールやビジネスチャットツールを用いて相互にやり取りを行うことが少なからずあり、このような体制を採用する場合には、かえって第2項や第3項の規定が円滑な遂行の妨げになることがある。そのため、このような案件の場合には、本条全体または本条第2項ないし第3項を削除することもある。 ## 第8条(再委託) ``` 第8条 甲は、乙が書面等によって事前に承認した場合、甲業務の一部を第三者(以下「委託先」という。)に再委託することができる。 2. 前項の定めに従い委託先に本共同開発の遂行を委託する場合、甲は、本契約における自己の義務と同等の義務を、委託先に課す。 3. 甲は、委託先による業務の遂行について、乙に帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負う。ただし、乙の指定した委託先による業務の遂行については、甲に故意または重過失がある場合を除き、責任を負わない。 ``` ### <ポイント> - 甲業務の遂行に際しての再委託の可否および再委託が行われた場合のスタートアップの責任内容について定める条項である。 ### <解説> - 多くのスタートアップは傑出した技術力がある反面、大企業ほどの潤沢なリソースがないことは言うまでもなく、このことは人的資源についても同様である。そこで、このようなスタートアップの実情に照らし、事業会社の事前の書面承諾を得れば甲業務を再委託可能とした。 - 既に本契約締結時点で再委託先が決まっている場合であれば、本モデル契約の別紙(1)に「再委託先」という項目を設け、再委託先を明記することで、事業会社から都度別途承諾を得るという煩瑣な手続を避けることができる。 ## 第9条(本契約の変更) ``` 第9条 本契約の変更は、当該変更内容につき事前に甲および乙が協議の上、別途、書面等により変更契約を締結することによってのみこれを行うことができる。 2. 甲および乙は、本共同開発においては、両当事者が一旦合意した事項(開発対象、開発期間、開発費用等を含むが、これらに限られない。)が、事後的に変更される場合があることに鑑み、一方当事者より本契約の内容について、変更の協議の要請があったときは、速やかに協議に応じなければならない。 3. 変更協議においては、変更の対象、変更の可否、変更による代金・納期に対する影響等を検討し、変更を行うかについて両当事者とも誠実に協議する。 ``` ### <ポイント> - 開発途中で本共同開発の内容等について変更する必要が生じた場合の変更手続を定める条項である。 ## 第10条(本件成果物の提供および業務終了の確認) ``` 第10条 甲は、別紙(1)の8「業務の完了」に記載した成果物提供期限までに、本件成果物のうち本連携システムのソースコードを乙のサーバに甲がインストールする方法により提供するとともに本ドキュメントのPDFファイルを乙に提供する。また、本件成果物のうち本学習済みモデルについては、上記「業務の完了」に記載した確認期間(以下「確認期間」という。)中、甲のサーバ上でAPI提供可能な状態に置く。 2. 乙は、前項に基づき甲から提供されたAPI環境を、次項に定める本件成果物の確認目的でのみ利用することができる。 3. 乙は、確認期間内に、本連携システムのソースコードおよび本ドキュメントの提供を受けたことおよび本連携システムを通じて本学習済みモデルの出力を受けたことを確認し、甲所定の確認書に記名押印または署名の上、甲に交付する。 4. 前項の定めに従い、乙が甲に確認書を交付した時に、乙の確認が完了したものとする。ただし、確認期間内に、乙から書面等で具体的な理由を明示して異議を述べないときは、確認書の交付がなくとも、当該期間の満了時に確認が完了したものとする。 ``` ### <ポイント> - スタートアップによる本件成果物の提供およびその提供方法ならびに事業会社による確認方法を定める条項である。 - 成果物である本学習済みモデル、本連携システムおよび本ドキュメントごとにその提供方法を明記している。 - 共同開発は、当事者双方がリスクテイクしながら推進する開発形態であるため、スタートアップが一方的に完成義務や性能保証を行うのは合理的ではない(第6条解説参照)。そこで、本条においても、確認内容は実質的な性能評価を含まない内容としている。 ### <解説> 成果物の提供方法の重要性 - 学習済みモデルの共同開発や受託開発においては、成果物である学習済みモデルをスタートアップが事業会社に提供する方法を契約上定める必要がある。この点は、ともすれば軽視されがちな交渉ポイントであるが、実は重要なポイントである。特に本想定シーンのように学習済みモデルの知的財産権をスタートアップに帰属させた場合、成果物の提供方法次第で、当該知的財産権を事実上保護できる強度が全く異なる。すなわち、成果物の提供方法としては、APIを通じて出力の内容のみを提供するケース、暗号化・難読化したコードを提供するケース、バイナリコードを提供するケース、ソースコードを提供するケースなど様々であるが、そのいずれを採用するかによって、スタートアップに帰属した知的財産権の流出や契約違反のリスクが異なる。スタートアップとしては、その点に十分に留意したうえで成果物の提供方法を事業会社と慎重に協議すべきである。 - 他方、事業会社に著作権が帰属する成果物(プログラム)がある場合には、事業会社が、自社に著作権が帰属する成果物(プログラム)について、ソースコードを要求することも不合理ではない。本想定シーンでも、【交渉結果】に記載のとおり、事業会社に著作権が移転する連携システムについては、関連するドキュメントをPDFの形式で提供するとともに、ソースコードを提供することとしている(なお、念のためであるが、成果物の提供方法は委託料の額や支払方法に左右されることもあり、事業会社にプログラムの知的財産権を帰属させる場合に必ずソースコードで提供する義務があり、バイナリコードでの提供が認められないという趣旨ではない。)。 成果物の提供方法に関する条文上の記載について - 2018年モデル契約においては、様々なケースに応用できるよう、ベンダがユーザの委託に基づき開発支援を行う成果物の明細を学習用データセット・学習用プログラム・学習済みモデルに分け、その提供方法(データの場合はデータ形式、プログラムの場合はソースコード・バイナリコード等)を別紙(1)において特定するという方法が採用されていた。 - 他方、本モデル契約においては、本件成果物の内容が、本学習済みモデル、本連携システムおよび本連携システムに関連するドキュメントと特定されていることから、成果物ごとの具体的提供方法を本条第1項において特定した。 - 具体的には、上述のとおり、本学習済みモデルについては、その著作権がスタートアップに単独帰属し、かつAPI連携の方法で学習済みモデルの出力結果のみを提供することとなっていることから、提供方法に関して「確認期間中、甲のサーバ上でAPI提供可能な状態に置く」と定めている。一方、本連携システムおよび関連するドキュメントについては、その著作権が事業会社に移転することとなっているため、ソースコードを事業会社のサーバにインストールして提供するとともに関連するドキュメントを提供する旨定めている。 - なお、「甲のサーバ」「乙のサーバ」は、スタートアップ、事業会社が利用するクラウドサービスのサーバも含む概念として使用している。 成果物の確認方法について - 第6条(各自の義務)の解説に記載したとおり、共同開発のような当事者双方がリスクテイクして開発を推進する開発形態の下では、事業会社が一方的にスタートアップに学習済みモデルの完成義務や性能保証を求めるのは妥当ではない。そして、ある程度の性能が得られることについてはPoC段階において事業会社も確認しているのであるから、本条では、2018年モデル契約と同様、性能評価やテスト合格を委託料支払いの条件とはせず、本連携システムの提供および本連携システムを通じた学習済みモデルの出力確認のみを行うことを内容としている。 - もっとも、学習済みモデルの性能評価が完全に不可能というわけではない。実務上、スタートアップと事業会社で合意したテスト用データを利用したテストを実施し、モデルの評価および確認を行うこともある。たとえば、事業会社から取得したデータを①訓練データ、②テストデータに分割し、このうち①訓練データのみを学習に用い②テストデータには開発時には一切アクセスせず、開発完了後、残しておいた②テストデータで学習済みモデルの精度の評価を行う、ということがある。①訓練データと②テストデータの関係を図示すると以下の通りである。 -
事業会社がスタートアップに提供した全データ ③ 実際の利用環境下での入力データ
①訓練データ ②テストデータ
- このように、事業会社がスタートアップに提供した全データのうちの一部をテストデータとして分割し、当該テストデータを入力した場合の精度を評価する方法であれば、評価自体は可能である。テストデータは訓練データと同様の偏り(バイアス)を有しているのが通常だからである。ただし、評価方法が適切なものである必要があり、また②テストデータによる精度は実装時における精度(つまり、上記「③ 実際の利用環境下での入力データ」を入力した場合の出力精度)を保証するものではないことに留意が必要である。 - こうしたテストデータを利用しての評価が可能な場合には、テストデータを用いた出力結果を基礎とした確認基準を提示することも考えうる。もっとも、先述のとおり、共同開発は双方のリスクテイクのもとで行われるものであり、かつ開発された学習済みモデルの精度は事業会社が提供する対象データにも大きく依存することから、かかる性能評価を委託料支払いの条件とすることは適切ではない。 ## 第11条(対象データ等) ``` 第11条 乙は、甲に対し、対象データを同別紙(1)の2「対象データの明細」に従い、提供する。 2. 乙は、甲に対し、本共同開発に合理的に必要なものとして甲が要求し、乙が合意した資料、機器、設備等(以下「資料等」という。)の提供、開示、貸与等(以下「提供等」という。)を行う。 3. 乙は、甲に対し、対象データおよび資料等(以下まとめて「対象データ等」という。)を甲に提供等することについて、正当な権限があることおよびかかる提供等が法令に違反するものではないことを保証する。 4. 乙は、対象データ等の正確性、完全性、有効性、有用性、安全性等について保証しない。ただし、本契約に別段の定めがある場合はその限りでない。 5. 乙が甲に対し提供等を行った対象データ等の内容に誤り(別紙(1)「対象データの明細」記載のデータの項目や量を充足しない場合を含む。)があった場合またはかかる提供等を遅延した場合、これらの誤りまたは遅延によって生じた完成時期の遅延、不適合等の結果について、甲は責任を負わない。 6. 甲は、対象データ等の正確性、完全性、有効性、有用性、安全性等について、確認、検証の義務その他の責任を負うものではない。 ``` ### <ポイント> - 本共同開発に際して、事業会社がスタートアップにデータ・資料等を提供することおよび提供されたデータ・資料等の誤りや不足によって開発遅延等が生じた場合にスタートアップが責任を負わないことを定めた条項である。 ## 第12条(対象データの利用・管理) ``` 第12条 甲は、対象データを、善良な管理者の注意をもって管理、保管するものとし、乙の事前の書面等による承諾を得ずに、第三者(第 8 条に基づく委託先を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならない。 2. 甲は、事前に乙から書面等による承諾を得ずに、対象データについて本共同開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本共同開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できる。ただし、別紙(1)に別段の定めがある場合はこの限りではない。 3. 甲は、対象データを、本共同開発遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき甲が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員および従業員に退職後も含め課す。 4. 甲は、対象データのうち、法令の定めに基づき開示等すべき情報を、可能な限り事前に乙に通知した上で、当該法令の定めに基づく開示先に対し開示等することができる。 5. 甲業務が完了した場合、本契約が終了した場合または乙の指示があった場合のいずれかに該当する場合、甲は、乙の指示に従って、対象データ(複製物および同一性を有する改変物を含み、本学習用データセットを除く。以下本項において同じ。)が記録された媒体を破棄もしくは乙に返還し、また、甲が管理する一切の電磁的記録媒体から削除する。ただし、本条第 2 項での利用に必要な範囲では、甲は対象データを保存することができる。なお、乙は甲に対し、対象データの破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。 6. 甲は、本契約に別段の定めがある場合を除き、対象データの提供等により、乙の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。 7. 本条の規定は、前項を除き、本契約が終了した日より3年間有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 事業会社からスタートアップに提供された対象データに関する扱いを定める条項である。 ### <解説> - 本条の射程は、前条に定める「対象データ等」ではなく、「対象データ」のみである。そのため「対象データ等」のうち「対象データ」に含まれない「資料等」については、秘密情報の取り扱いを定める次条(秘密情報の取扱い)による保護を受ける。 - 「対象データ」を秘密情報一般と別で規定する理由としては、対象データは本学習済みモデルを生成するための学習に供されるものであり(本条第2項参照)、また、事業会社とスタートアップの取り決めによっては本学習済みモデル以外の開発にも供されるなど、実務上秘密情報一般とは別異に取り扱われることが多いためである。 - 仮に事業会社とスタートアップの協議により、対象データを、本共同開発遂行以外の目的、例えばスタートアップのサービス改善の目的等に利用することとなった場合、第2項本文の「本共同開発遂行の目的以外の目的」という部分を「本共同開発の遂行および甲が保有または開発するAI技術の向上目的」などと変更を行うことで、スタートアップにおける対象データの利用目的を拡張することが考えられる。 ## 第13条(本学習用データセットの取扱い) ``` 第13条 甲は、本共同開発の過程で甲が生成する本学習用データセットを、乙に対し開示等する義務を負わない。 2. 甲は、本学習用データセットを、本共同開発の遂行の目的を超えて、使用、利用または第三者に開示等してはならない。 3. 甲は、甲業務が完了した場合、本契約が終了した場合、または乙の指示があった場合のいずれかに該当する場合、本学習用データセット(複製物および同一性を有する改変物を含む。)が記録された媒体を破棄し、また、甲が管理する一切の電磁的記録媒体から削除する。 4. 前2項の規定は、甲と乙が、本件成果物の利用に関する契約を締結した場合には適用しない。 ``` ### <ポイント> - 本共同開発の過程においてスタートアップが生成する本学習用データセットの扱いを定める条項である。 ### <解説> - 本学習用データセットは、前条に基づき事業会社がスタートアップに提供した対象データを元に、スタートアップが生成する対象データの派生物(本共同開発における中間成果物)であり、本モデル契約においては成果物には該当しない。なお、契約によっては学習用データセットが成果物に含まれることももちろんあり、その場合は学習用データセットの扱いは成果物の扱いとして規定されることになる。 - 事業会社から提供を受けた生データをそのままの状態で学習に利用することはできず、スタートアップにおいて正解ラベルを付したり(アノテーション)、極端な外れ値の除外やクレンジング、データ拡張を行うという加工・前処理が行われる。こうした前処理を経たデータの集合体を学習用データセットといい、この加工や前処理の作業にはスタートアップのノウハウが反映される。このようなノウハウは秘密として保護する必要性が高いものがある。 - 前条の解説に記載のとおり、対象データについては実務上秘密情報一般とは別異に取り扱われることが多いため、その派生物である本学習用データセットについても同様に秘密情報一般とは別異に取り扱うべきである。また、一般的には、事業会社が、モデル生成のための学習用データセットの開示等を受ける必要性は低い。 - そこで、本条第1項では、スタートアップが、ノウハウが集約された本学習用データセットを事業会社に対して開示等する義務を負わないことを明記した。 - 他方、本学習用データセットは事業会社から提供を受けた対象データの派生物であることから、スタートアップが本学習用データセットを利用できるのは、本共同開発の目的に限定されることを本条第2項で明記した。ただし、以下のオプション条項のように定めることで、本学習用データセットを本共同開発以外にも使用等できることは対象データと同様である。 - また、本想定シーンにおいては、本共同開発後に成果物であるカスタマイズモデル(本学習済みモデル)をSaaS形式で提供することが予定されている。この場合においては、当然のことながら本学習用データセットを本学習済みモデルの追加学習のために利用することが前提とされることになる。そのため、学習用データセットの本共同開発目的内利用の義務(2項)、消去義務(3項)に応じなければならないとするのは煩瑣である。そこで、併せて第4項を設けた。 - なお、対象データが著作物の場合には対象データに著作権が発生するが、それとは別に、学習用データセットがデータベースの著作物(著作権法第12条の2)に該当する場合には、同学習用データセットに著作権が発生することになる。、学習用データセットがデータベースの著作物に該当するか否かは、同学習用データセットが「情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有する」か否かによって決せられるが、その点については具体的な学習用データセット作成作業の内容や、同データセットの内容に左右されることとなる。 ### 【13条2項変更オプション - 学習用データセットの利用目的を限定しない場合】 ``` 2. 甲は、本学習用データセットを、本共同開発の遂行および甲が保有または開発するAI技術の向上目的を超えて使用および利用してはならない。また、甲は本学習用データセットを第三者に開示等してはならない。 ``` #### <ポイント> - 本学習用データセットの利用目的を、本共同開発目的のみならず、スタートアップが既に保有するAI技術や今後開発するAI技術の技術向上の目的での使用等に拡張したいというニーズがある場合がある。 - その場合、事業会社としては学習用データセットがスタートアップ以外の第三者に開示等されることについては拒否感が強いが、スタートアップの内部利用目的であれば許容する余地もあること、スタートアップとしても当該学習用データセットが内部的な開発に利用できれば十分であることから、本オプション条項の内容を定めた。 ## 第14条(秘密情報の取扱い) ``` 第14条 甲および乙は、本共同開発遂行のため、相手方より提供を受けた技術上または営業上その他業務上の情報のうち、次のいずれかに該当する情報(ただし対象データを除く。以下「秘密情報」という。)を秘密として保持し、秘密情報の開示者の事前の書面等による承諾を得ずに、第三者(本契約第 8 条に基づく委託先を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならない。 1. 開示者が書面等により秘密である旨指定して開示等した情報 2. 開示者が口頭により秘密である旨を示して開示等した情報で開示後●日以内に書面等により内容を特定した情報。なお、口頭により秘密である旨を示した開示等した日から●日が経過する日または開示者が秘密情報として取り扱わない旨を書面等で通知した日のいずれか早い日までは当該情報を秘密情報として取り扱う。 2. 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。 1. 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの 2. 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの 3. 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの 4. 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの 5. 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得し、または創出したもの 3. 甲および乙は、秘密情報について、本契約に別段の定めがある場合を除き、事前に開示者から書面等による承諾を得ずに、本共同開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本共同開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できる。 4. 秘密情報の取扱いについては、第12条第3項から第6項の規定を準用する。この場合、同条項中の「対象データ」は「秘密情報」と、「甲」は「秘密情報の受領者」と、「乙」は「開示者」と読み替える。 5. 本条は、秘密情報に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、本条の主題に関する両当事者間の書面等(本契約締結以前に両当事者間で締結した契約を含む。)または口頭による提案その他の連絡事項の全てに取って代わる。 6. 本条の規定は本契約が終了した日より3年間有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 相手方から提供を受けた秘密情報の管理に関する条項である。 ### <解説> 従前に締結した秘密保持条項との関係整理 - 秘密保持契約やPoC契約に引き続いて共同研究開発契約を締結する場合、共同研究開発契約よりも前に締結した契約における秘密保持条項と共同研究開発契約における秘密保持条項の関係が問題となる。 - 共同研究開発契約においては新たな秘密保持条項を設けずに既存の(従前の契約で定めた)秘密保持条項が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においては、新素材モデル契約第11条同様、共同研究開発契約で新たに定める秘密保持条項が、既存の秘密保持条項を上書きすることとしている(本条5項)。 - 共同研究開発契約において、既存の秘密保持条項とは異なる内容の秘密保持条項を設ける場合は、特にそれらの優先関係に留意しなければならない。 ## 第15条(成果の公表) ``` 第15条 甲および乙は、前条で規定する秘密保持義務を遵守した上で、両者が合意した時期に、本共同開発開始の事実として、別紙(2)(公表事項)に定める内容を開示、発表または公開することができる。 2. 甲および乙は、前条で規定する秘密保持義務および次項の規定を遵守した上で、本共同開発の成果を開示、発表または公開すること(以下「成果の公表等」という。)ができる。 3. 前項の場合、甲または乙は、成果の公表等を行おうとする日の30日前までに本共同開発の成果を書面等にて相手方に通知し、甲および乙は協議により当該成果の公表等の内容および方法を決定する。 ``` ### <ポイント> - 共同研究開発の開始および成果の公表の手続きについて定める規定である。 ### <解説> - 本モデル契約がスタートアップと事業会社のアライアンスの実現を念頭に置くものであることから、新素材モデル契約第12条と同様の趣旨で設けたものである。 ## 第16条(個人情報の取扱い) ``` 第16条 本共同開発の遂行に際して、乙が、個人情報等を含んだ対象データを甲に提供する場合には、個人情報保護法に定められている手続を履践していることを保証する。 2. 乙は、本サービスの利用に際して、個人情報等を含んだ対象データを甲に提供する場合には、事前にその旨を明示する。 3. 甲は、第1項に従って個人情報等が提供される場合には、個人情報保護法を遵守し、個人情報等の管理に必要な措置を講ずる。 ``` ### <ポイント> - 事業会社がスタートアップに提供する対象データ等に個人情報や匿名加工情報が含まれている場合に関する条項である。 ## 第17条(本件成果物等の著作権の帰属) ``` 第17条 本件成果物および本共同開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。以下、本契約において同じ。)は、乙または第三者が従前から保有していた著作権を除き、甲に帰属する。ただし、本連携システムおよび本ドキュメント(以下「本連携システム等」という。)に関する著作権は委託料全額の支払いと同時に乙に移転する。 2. 甲および乙は、本契約および別途甲乙間で締結する利用契約に従った本件成果物等の利用について、相手方および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しない。 3. 第1項の規定にかかわらず、甲が本契約第24条1項2号および3号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、第1項に定める知的財産権を甲または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することを求めることができる。 ``` ### <ポイント> - 本件成果物等の知的財産権のうち著作権の帰属について定める条項である。 ### <解説> - 本件成果物は、2条13号により、「本学習済みモデル、本連携システムおよび本ドキュメント」を意味し、本条1項により、基本的に、本学習済みモデルその他の知的財産に関する著作権はスタートップに帰属し、本連携システムおよび本ドキュメントの著作権は事業会社に帰属することになる。 - 本件成果物等に関する知的財産権のうち著作権については、特許権等と異なり、開発完了時点において発生することがほぼ確実な知的財産権であること、契約締結時点において、いずれの当事者に帰属するかを明確にしておきたいというニーズが強いと考えられることから、2018年モデル契約同様、本件成果物等に関する知的財産権のうち著作権の帰属を本条において定め、著作権以外の知的財産権(特許権等)については、次条において定めている。 - 本想定シーンの【交渉結果】において、本連携システムおよび本ドキュメントの著作権は事業会社に、本学習済みモデルを含むそれ以外の本件成果物等に関する著作権についてはスタートアップに帰属させる取り決めとなっていることから、本条のような規定となっている。 - ただし、スタートアップに成果物に関する知的財産権を単独帰属させる場合、事業会社としては、スタートアップが事業に失敗し、破産等、事業継続が困難になった場合、本共同開発の成果に係る知的財産権が事業会社に対して本条所定のとおりにライセンスされず、本製品の製造等に支障を来すのではないかという懸念を持ちがちである。
そこで、新素材モデル契約第7条第6項と同様、スタートアップに経済的不安が生じた場合には、事業会社は、スタートアップから研究成果に係る知的財産権の譲渡を受けることができるようにした(第3項)。もっとも、令和2年改正著作権法により「③著作物を利用する権利に関する対抗制度」(著作権法第63条の2)が導入され、同項の必要性が薄れたことから同項を設けないことも考えられる。 - なお、ベースモデルは本件成果物ではなく、本共同開発前からスタートアップが保有する知的財産権であり、スタートアップにその知的財産権が帰属することは言うまでもない。
本学習済みモデル(カスタマイズモデル)の中には、スタートアップが本共同開発前に開発し、著作権を有するベースモデルが部分的に含まれていることもあるが、本モデル契約では、本条により本学習済みモデル(カスタマイズモデル)の著作権がスタートアップに帰属するとされているため、本学習済みモデル(カスタマイズモデル)とベースモデルを区別する必要はない。しかし、本学習済みモデル (カスタマイズモデル) の著作権を事業会社に移転する規定とする場合には、著作権の移転の対象からスタートアップが有するベースモデルを除外する必要がある。その場合は「ベースモデルに関する著作権およびスタートアップが従前から保有していた著作権」を移転対象から除外する規定を設けることになる。 ## 第18条(本件成果物等の特許権等の帰属) ``` 第18条 本件成果物等にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。以下「特許権等」という。)は、本件成果物等を創出した者が属する当事者に帰属する。 2. 甲および乙が共同で創出した本件成果物等に関する特許権等については、甲および乙の共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、甲および乙は、共有にかかる特許権等につき、それぞれ相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら実施することができるものとし、第三者に対する実施の許諾については相手方の同意を要する。 3. 甲および乙は、前項に基づき相手方と共有する特許権等について、必要となる職務発明の取得手続(職務発明規定の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等)を履践する。 4. 甲および乙は、本共同開発の過程で生じた特許権等に基づいて出願しようとする場合は、事前に相手方にその旨を書面等により通知しなければならない。相手方に通知した発明が単独発明に該当すると考える当事者は、相手方に対して、その旨を理由とともに通知する。 ``` ### <ポイント> - 本件成果物等に関する著作権以外の知的財産権の対象となるものの権利帰属について定める条項である。 ### <解説> - 本件成果物等のうち「著作権以外の知的財産権の対象となるもの」(たとえば、発明等)については、契約締結時点においては、そもそも発生するか否かが不明確であるため、その帰属について、特許法の原則どおり発明者主義を採用した(2018年モデル契約第17条も同様)。もっとも、当事者が、契約締結時に特許権等の権利帰属について定めることを希望するのであれば、著作権と同様に、そのような規定を設けることも考えられる。一方、開発段階における契約締結時に、特許権等の権利帰属について定めることが難しい場合は、両者協議して決定する、と規定することも考えられる。 ## 第19条(本件成果物等の利用条件) ``` 第19条 本件成果物等の乙における利用条件は、別途甲乙間で締結する利用契約において定める。なお、利用契約の規定と本契約の規定が矛盾する場合は、利用契約の規定が優先する。 2. 乙は、甲に対し、甲が本共同開発およびその後の保守・運用・追加学習の目的で本連携システム等を利用することを非独占的かつ無償で許諾する。 ``` ### <ポイント> - 本件成果物等の利用に関する条件を定めた条項である。 ### <解説> - 本想定シーンの【交渉結果】では、主たる成果物である本学習済みモデル(カスタマイズモデル)は事業会社に対してAPI連携によるSaaS方式により提供されることになった。そのため、本件成果物等の事業会社における利用条件は別途スタートアップ-事業会社間で締結する利用契約において定めると規定している(第1項)。 - 他方、本連携システムについてはその著作権が委託料支払いと同時にスタートアップから事業会社に移転しているが、事業会社からスタートアップに対し、本見守りカメラシステムに関する今後の保守・運用・追加開発に関して必要な限度で利用する権限を与えておくことが、スタートアップだけでなく事業会社にとっても利益であることから、これを明記している(第2項)。 - なお、共同開発における成果物の利用条件において、相手方に制約を課す場合には、公正取引委員会の「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」に反することがないように留意する必要がある。 ## 第20条(禁止事項) ``` 第20条 乙は、本契約に別段の定めがある場合を除き、本件成果物について、次の各号の行為を行ってはならない。 1. リバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブルその他の方法でソースコードを抽出する行為 2. 再利用モデルを生成する行為 3. 学習済みモデルへの入力データと、学習済みモデルから出力されたデータを組み合わせて学習済みモデルを生成する行為 4. その他前各号に準じる行為 ``` ### <ポイント> - 本件成果物を事業会社が使用する際の禁止行為を定める条項である。 ### <解説> - 本条に定める禁止行為は、本件成果物の提供方法と密接に結びついている。すなわち、本想定シーンのようにカスタマイズモデル(本学習済みモデル)のコードの提供を前提とせず、SaaS契約により、API連携により処理結果のみを出力する場合であれば、事業会社は本学習済みモデルのリバースエンジニアリングを行うことは事実上不可能である。そのため、①のリバースエンジニアリング等の禁止に関する条項は、有害的記載事項ではないものの、機能する場面は稀であろう。 - また、②は追加学習や転移学習によって学習済みモデルを生成する行為、③はいわゆる「蒸留行為」を意味しているが、①のリバースエンジニアリング等の禁止に関する条項と同様、これも機能する場面は稀であろう。 ## 第21条(損害賠償) ``` 第21条 甲および乙は、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償を請求することができる。ただし、この請求は、業務の終了確認日から●か月が経過した後は行うことができない。 2. 甲が乙に対して負担する損害賠償は、債務不履行、法律上の契約不適合責任、知的財産権の侵害、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、乙に現実に発生した直接かつ通常の損害に限られ、逸失利益を含む特別損害は、甲の予見または予見可能性の如何を問わず甲は責任を負わない。 3. 本条第1項に基づき甲が乙に対して損害賠償責任を負う場合であっても、本契約の委託料を上限とする。 4. 前2項は、甲に故意または重大な過失がある場合は適用されない。 ``` ### <ポイント> - 契約の履行に関して損害が発生した場合の賠償に関する条項である。損害賠償の範囲を直接かつ現実に生じた損害に限定している。また、スタートアップが事業会社に対して追う損賠賠償については、スタートアップに故意・重過失がない限り、委託料を上限とする旨の上限規定を設けている。 ## 第22条(OSSの利用) ``` 第22条 甲は、本共同開発遂行の過程において、本件成果物を構成する一部としてオープン・ソース・ソフトウェア(以下「OSS」という。)を利用しようとするときは、OSSの利用許諾条項、機能、脆弱性等に関して適切な情報を提供し、乙にOSSの利用を提案する。 2. 乙は、前項所定の甲の提案を自らの責任で検討・評価し、OSS の採否を決定する。 3. 本契約の他の条項にかかわらず、甲は、OSSに関して、著作権その他の権利の侵害がないことおよび不適合のないことを保証するものではなく、甲は、第 1項所定のOSS利用の提案時に権利侵害または不適合の存在を知りながら、もしくは重大な過失により知らずに告げなかった場合を除き、何らの責任を負わない。 ``` ### <ポイント> - AI 技術を利用したソフトウェアの開発においては OSS が利用されることも多いことから OSS の利用に関する規定を設けるものである。 - OSSの利用により生じた損害については、OSSの利用による開発費や開発期間短縮の恩恵を受けているのは事業会社であることから、事業会社が負担するものとしている。もっとも、スタートアップはソフトウェア開発の専門家であることから、OSSに関する適切な情報を事業会社に提供するものとし、また、OSSに問題があることについて故意・重過失がある場合には、スタートアップの免責を認めないものとしている。 ## 第23条(権利義務譲渡の禁止) ``` 第23条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面等による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせもしくは担保に供してはならない。 ``` ### <ポイント> - 契約上の権利義務や地位を相手方の事前の承諾なく譲渡してはならないことを定めた一般的な条項である。 ## 第24条(解除) ``` 第24条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。 1. 重大な過失または背信行為があった場合 2. 支払いの停止があった場合または仮差押、差押、競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合 3. 手形交換所の取引停止処分を受けた場合 4. その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合 2. 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。 3. 甲または乙は、第1項各号のいずれかに該当する場合または前項に定める解除がなされた場合、相手方に対し負担する一切の金銭債務につき相手方から通知催告がなくとも当然に期限の利益を喪失し、直ちに弁済しなければならない。 ``` ### <ポイント> - 契約解除に関する一般的な規定である。 ### <解説> - 新素材モデル契約第16条(解除)の解説にあるとおり、チェンジオブコントロール(COC)が解除事由として定められることがある。しかし、そうすると、M&Aが解除事由となりかねず、上場審査やデューデリジェンスにおいてリスクと評価され得る。
したがって、スタートアップとしては、解除事由にCOCが含まれている場合、それによる支障を説明し、削除を求めることを検討すべきである。 ### 【解除事由としてのCOC条項の例】 - 他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合 ## 第25条(有効期間) ``` 第25条 本契約は、本契約の締結日から第4条の委託料の支払いおよび第11条に定める確認が完了する日のいずれか遅い日まで効力を有する。 ``` ### <ポイント> - 契約の有効期間を定めた一般的条項である。 ### <解説> - 委託料の支払いまでまたは確認完了時点のいずれか遅い方までと規定しているが、「1年間」などの具体的な期間を定めることも可能である。いずれのケースにおいても、契約の終了時期が明確に判断できる記載とすることが重要である。 ## 第26条(存続条項) ``` 第26条 本契約第6条(各自の義務)、第11条(対象データ等)第4項および第5項、第12条(対象データの利用・管理)から第22条(OSS の利用)、本条ならびに第27条(準拠法および管轄裁判所)は、本契約終了後も有効に存続する。 ``` ### <ポイント> - 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。 ## 第27条(準拠法および管轄裁判所) ``` 第27条 本契約に関する一切の紛争については、日本法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <ポイント> - 準拠法および紛争解決手続きに関してとして裁判管轄を定める条項である。 ### <解説> - クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。 ## 第28条(協議) ``` 第28条 本契約に定めのない事項または疑義が生じた事項については、信義誠実の原則に従い甲および乙が協議し、円満な解決を図る努力をする。 ``` ### <ポイント> - 協議に関する一般的規定である。 ## 締結の証 ``` 本契約締結の証として、本書 2 通を作成し、甲、乙記名押印の上、各1通を保有する。 年 月 日 甲 乙 ``` ## 【別紙(1)】 1. 本共同開発の対象 1. 本件成果物 1. 本学習済みモデル 2. 本連携システム 3. 本ドキュメント 2. 使用環境 3. 前提条件 2. 対象データの明細 1. データの概要 - (例)介護施設に乙がカメラを設置したうえで撮影した動画データ。当該動画データについては、乙において個人情報が含まれない形に匿名加工を行うか、あるいは撮影対象である被介護者本人から第三者提供に関する同意を取得するなど個人情報保護法上に定められている手続を履践する。 2. データの項目 3. データの量 - (例) 動画データ 500時間分 4. データの提供形式 3. 乙が提供する資料等 - 別途協議する。 4. 作業体制 - 【甲、乙の責任者および必要に応じてメンバーそれぞれの役割、所属、氏名の記載とソフトウェア開発の実施場所等を記載】 1. 甲の作業体制 - 甲側責任者氏名: ●● ●●
甲側責任者は次の役割を担当する。 1. ・・・・・ 2. ・・・・・ - メンバー
メンバーは次の役割を担当する。
【※組織図/氏名/役割を記載】 2. 乙の作業体制 - 乙側責任者氏名: ●● ●●
乙側責任者は次の役割を担当する。 1. ・・・・・ 2. ・・・・・ - メンバー
メンバーは次の役割を担当する。 1. ・・・・・ 2. ・・・・・ - 【※組織図/氏名/役割を記載】 3. ソフトウェア開発実施場所 5. 具体的作業内容(範囲、仕様等) 1. 甲の担当作業: 次のとおりとする。 - 対象データの前処理 - 対象データのアノテーション - 本学習用データセットの作成 - 対象データによる本学習済みモデルの生成 - 本連携システムの開発および本ドキュメントの作成 2. 乙の担当作業: - 対象データの提供 - 本学習済みモデルの精度の向上に必要な知見(ノウハウを含む)の提供 - 本学習済みモデルおよび本連携システムの性能評価 6. 連絡協議会 1. 開催予定頻度: 2. 場所: 7. 作業期間 - ●●年●●月●●日~●●年●●月●●日 8. 業務の完了 1. 甲からの成果物提供期限:●年●月●日 2. 乙による確認期間:成果物提供日から●日間 9. 委託料 1. 本学習済みモデルに関する委託料 - ●●●●円(外税) 2. 本連携システムおよび本ドキュメントに関する委託料 - ●●●●円(外税) 10. 委託料の支払時期・方法 1. 本学習済みモデルに関する委託料 - 本契約締結日から7日以内 ●●円 - 乙による成果物確認日から7日以内 ●●円 2. 本連携システムおよび本ドキュメントに関する委託料 - 本契約締結日から7日以内 ●●円 - 乙による成果物確認日から7日以内 ●●円 ## 【別紙(2)公表事項】 ================================================ FILE: 8_モデル契約書v1_0_利用契約書(AI編)_逐条解説あり.md ================================================ # モデル契約書ver1.0 利用契約書(AI) ## 想定シーン 1. X社(動画・静止画から人物の姿勢をマーカーレスで推定するAI技術を保有するスタートアップ)とY社(介護施設向けリハビリ機器の製造販売メーカー)の共同研究開発は順調に進んだ。そして開発成果として、介護施設内での被介護者の転倒・徘徊を、高い精度かつリアルタイムで検出できるカスタマイズモデルの生成および同カスタマイズモデルとY社が製造販売を検討している介護施設における被介護者の見守り用のカメラシステム(見守りカメラシステム)との連携システムの開発が完了した。 2. 開発成果に関する知的財産権の帰属については、カスタマイズモデルを含む成果物および開発過程において発生した著作権のうち連携システムおよびドキュメント類に関する著作権はY社に単独帰属、それ以外の著作権はX社に単独帰属する旨共同研究契約において合意している。 3. さらに、開発成果の提供方法については、連携システムについてはXからYに対してソースコードおよびドキュメント類の納品、カスタマイズモデルについては、成果物の確認に必要な期間(確認期間)中、カスタマイズモデルによる処理結果をAPIを通じて提供することで確認を行うこととなった。データや処理結果の具体的な流れは以下のとおりである。 1. Yは、連携システムを組み込んだ見守りカメラシステムを開発し、通信機能付カメラと組み合わせて各介護事業者にSaaS方式で提供する。 2. カメラは撮影およびデータ送信機能のみを有し、撮影された動画データは各介護事業者→ Y →Xの流れで送信される。 3. 動画データについてカスタマイズモデルを用いたデータ解析および状態検出(推論)はXのサーバ上ですべて処理される。推論結果はXのAIシステムからAPI経由でYの見守りカメラシステムに送信され、事故が疑われる場合には見守りシステム上の介護施設側画面において警告表示がされる。 ![データや処理結果の具体的な流れ](images/image8_1.png) 4. さらに、XとYにおいてカスタマイズモデルの利用条件や追加学習の内容について交渉を行った。交渉の経緯は以下のとおりである。 Y:カスタマイズモデルの利用条件だが、Yが提供したデータおよびYが事業ドメインに関する各種ノウハウ等を提供した結果共同開発された学習済みモデルなので、Yのみに独占的に利用させて欲しい。また、今後当該サービスを利用する際にYからXに処理対象の動画データを大量に送信することになるが、当該データを利用してカスタマイズモデルの精度の維持・向上(追加学習)サービスも提供して欲しい。カスタマイズモデルをY社が独占的に利用することから、もちろん、追加学習にはY社が送信したデータのみを利用していただき、他社から提供されたデータは利用しないで欲しい。 X:カスタマイズモデルの利用条件と、追加学習の内容についての要望と理解した。まず、カスタマイズモデルの共同開発にY提供データやノウハウが寄与していることは十分理解している。しかし、Yによる独占的利用ということになると、Xとしては当該カスタマイズモデルを利用した、それ以外のビジネスチャンスを犠牲にすることになる。また、Y社に対して独占的利用を行うということは、Xとしては、Y以外の、学習用のデータを提供したユーザに対しても、当該学習用データを利用して共同開発したカスタマイズモデルをそれぞれ独占的に提供するというビジネスモデルになる。その結果、個々のユーザごとのカスタマイズモデルが複数並立することになり、そのすべてのカスタマイズモデルをXが管理して各ユーザに提供することになる。 たとえば、XがY1、Y2、Y3それぞれからデータを受領してカスタマイズモデルを共同開発し、それぞれのカスタマイズモデルについてY1~Y3との独占利用契約を締結した場合、以下のような提供形態となる。 ![個々のユーザごとに独占的なカスタマイズモデルを提供する場合](images/image8_2.png) Y:それは理解できるが、何が問題なのか。 X:このように、異なるカスタマイズモデルが並立すると、今後Xにおいて独自の研究開発に基づいてベースモデルのアップデートを継続的に行ったり、様々なユーザとのカスタマイズモデルを生成する過程において、Xは並立している全てのカスタマイズモデルについて同アップデートを前提としたメンテナンスを行う必要があり、必然的に管理コストが著しく上昇することになる。その結果、当該管理コストの負担を、Yをはじめとする事業会社に求めなければならない。具体的には、YとのSaaS契約において相当額の初期費用を負担いただくことが必須となり、かつAPIの利用料についても相応の金額にしていただく必要が生じることになる。 Y:介護施設向け見守りシステムについては、実際にどの程度のニーズがあるのかは、今後実際に営業活動をしてみないとわからない部分があるため、現時点で初期費用を負担したり、利用料を高額に設定するとなると、Yにとってはかなりリスクが高いことになり応じ難い。 X:その点は理解できる。なので、お互いにとってのリスクを低減するために、カスタマイズモデルについて非独占的な組み方が合理的だと考える。つまり、XはYに対してカスタマイズモデルをAPI経由で提供すると同時に、Y以外の第三者に対しても業界を超えてカスタマイズモデルを非独占的にAPI経由で提供するという組み方である。また、カスタマイズモデル生成の際のデータ提供はしないが、モデルを利用したサービスだけ利用したいという事業者も当然想定されることから、データを提供しない事業者に対してもサービス提供をすることになる。 ![非独占的なカスタマイズモデルをデータを提供しない事業者に対しても提供する場合](images/image8_3.png) Y:ただ、そのような非独占的な組み方をすると、共同研究開発においてYがデータ提供やノウハウ提供で貢献したにもかかわらず、Yに何も見返りがないということにならないか。だとすると受け入れがたい。 X:Yの貢献を利用条件に反映させる必要性はもちろん理解している。もし上記のような非独占的な組み方をした場合、弊社としてはモデルの管理コストが下がり、かつ様々な第三者(当該第三者がカスタマイズモデル生成の際にデータ提供をしたか否かに関わらない)に対して高精度なカスタマイズモデルを提供することができることになるので、事業規模・収益機会が拡大することになる。そこで、① カスタマイズモデル生成の際にデータ・ノウハウを提供したYの寄与に見合った経済的便益(たとえば、一定期間、サービス利用料を介護領域における最安値からさらに一定の割合軽減する)を、一定期間Yに提供する、② XのYに対するカスタマイズモデルの提供に際しても初期費用の負担は求めない、ということを考えている。このような組み方をすることで、介護施設向け見守りシステムの将来展開の不確実性に対応した、XY双方にとっての合理的なリスク・ベネフィット分配ができるのではないか。 Y:なるほど。 X:以上はカスタマイズモデル利用条件の問題だが、併せて追加学習サービスの範囲についても協議をさせて欲しい。Yの要請としては「今後当該サービスを利用する際にYからXに処理対象の動画データを大量に送信することになるが、当該データを利用してカスタマイズモデルの精度の維持・向上(追加学習)サービスも提供して欲しい」というものだが、その点についてはもちろんXとしても望むところであり有償にはなるが追加学習サービスを提供する。協議したいのは、当該追加学習サービスの内容である。Yとしては、どのような希望を持っているか。 Y:Yとしては、Yが処理対象として送信したデータは、Yへの見守りサービスの提供およびYへの追加学習サービスのためのみに利用して欲しい。XがY以外の第三者に提供するモデルの追加学習のために利用するのは避けてほしい。また、カスタマイズモデルの追加学習は、Yが処理対象として送信したデータのみを用いて行い、第三者が提供したデータを用いた追加学習は行わないで欲しい。 X:そのような、限定された追加学習サービスも技術的にはもちろん可能なのだが、先ほどカスタマイズモデルの利用条件として、非独占的な組み方の合理性について説明した。仮にそのような非独占的な組み方をする場合、追加学習についても、もう少し柔軟な内容、言い換えれば非限定的な内容にすることが合理的ではないかと考える。 Y:具体的にはどういうことか。 X:カスタマイズモデルの利用条件として非独占的な組み方をする合理性は、将来の見通しが不確実な状況の下、XY双方にとっての合理的なリスク・ベネフィット分配ができるという点にあった。また、そのような非独占的な組み方は、追加学習についても非限定的な内容を前提としている。具体的には、①Yが提供したデータを、Yに対するサービスにおいてだけでなくXにおいて広く追加学習に利用することができる、②Yが処理対象として提供したデータだけでなく、Y以外の第三者が提供したデータも用いて当初のカスタマイズモデルの追加学習を行うことができる、という内容である。このように、非限定的な追加学習を行うことによって、より幅広いデータを使って追加学習を行った高い精度・高い価値を有するモデルを利用することができることになる。 Y:カスタマイズモデル利用条件について非独占的な組み方をするのであれば、追加学習サービスの範囲についても非限定的とするのが合理的という趣旨か。なるほど。ただ、その場合でもYが処理対象として提供したデータが第三者にわたるのは絶対に避けたい。 X:もちろん、追加学習サービスにおいては、提供されたデータはX内でモデルの学習用のために使われるにすぎず、提供されたデータそのものが第三者にさらに提供されるわけではない。また、当然のことではあるが、契約上、Yから送信されたデータについてはXにおいて安全管理措置を施すことになる。 Y:了解した。検討する。 5. 以上のような交渉を経て、① カスタイマイズモデルの利用条件としては非独占的な内容としたうえで、② カスタマイズモデルの共同開発におけるYの貢献を反映するために一定期間サービス利用料を介護領域における最安値からさらに10%(注:具体的条件設定についての基本的な考え方については後記解説を参照)軽減することとし、③ 追加学習の内容については非限定的な内容とするということにX・Y間で合意をした。具体的には以下のとおりである。 1. カスタマイズモデルの利用条件 1. Xによる利用 - 独占・非独占:非独占(Y以外の第三者に対してもカスタマイズモデルおよび同モデルを利用したサービスを提供可能) - 利用可能範囲:限定なし 2. Yによる利用 - 利用可能範囲:限定なし - サービス利用料:Yが連携システムを経由してAPIを利用した量に応じた従量課金。ただし、Yがカスタマイズモデルの共同開発に際してデータ・ノウハウ提供をした見返りとして、3年間、介護分野におけるサービス利用料の最安値からさらに10%引きとする。 - 利用可能期間:●年間 2. 追加学習サービスの内容 - Xによるカスタマイズモデルへの追加学習の可否 Yから送信されたデータおよび他ユーザから送信されたデータを用いた、特に制限のない追加学習が可能 - Yが処理対象としてXに送信したデータの扱い 本サービスの提供目的および追加学習のためにXにおいて制限なく利用可能 - カスタマイズモデルに追加学習したモデルの権利帰属 X - サービス利用料:月額●円 - 期間:●年間 ## 想定シーンの解説 1. 視点 学習済みモデルの共同開発段階および利用・追加学習段階においては、 1. 共同開発の成果物に関する知的財産権の帰属 2. 成果物の利用条件 3. 追加学習の内容 が重要なポイントである。 しかし、実際には、ともすれば①の知的財産権の帰属のみが交渉の対象となりがちであり、その結果、以下のように交渉が暗礁に乗り上げることがある。 > 【事業会社】 学習用データセットや学習済みモデルは、うちのノウハウや機密が詰まった生データを用いて生成されたものですし、開発に際して委託料も支払っています。うちに権利がありますよね? 【スタートアップ】 いやいや、生データだけでは学習済みモデルは生成できません。高性能なモデルができるのは、データの前処理やモデルの訓練過程いずれにおいてもうちの高度のノウハウと多大な労力あってこそです。うちに権利がありますよね? このような対立は、事業会社・スタートアップいずれもが「成果物等は自社のものである」、言い換えると「成果物の権利を自己に帰属させる」ことに双方が固執することに主として起因している。 そして、このように「どちらが権利を持っているか」(権利の帰属)に双方がこだわっている限り双方の溝は埋まらず、交渉に多大な労力と時間がかかり結局双方が競争力を失うことになる。 そこで、経済産業省が2018年に公開した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」(以下「2018年ガイドライン」という。)の28頁以下において提案されているのが「権利帰属」と「利用条件」を分離して柔軟な条件設定をすることである。 本モデル契約においても、①「権利帰属」と②「利用条件」を分離して柔軟な条件設定をすることを想定している。加えて、本モデル契約においては、さらに③の追加学習の内容を組み合わせることでより合理的な条件設定をした。 以下説明をしていくが、まず①の権利帰属については、共同研究開発契約で定められているように、連携システムおよびドキュメント類に関する著作権はYに単独帰属し、それ以外の著作権はXに単独帰属することを前提とする。 2. 利用条件 スタートアップにおいて「複数の事業会社からデータの提供を受けて生成したカスタマイズモデルを利用したサービスを、複数の事業会社に提供する」というビジネスモデルを採用する場合、カスタマイズモデルの利用条件は「交渉経緯」に記載したように非独占的な内容が合理的である。 1. 内容 XはYにカスタマイズモデルを、以下の条件で、範囲限定なくSaaS形式で非独占的に提供する。 1. Xによる利用 - 独占・非独占:非独占(Y以外の第三者に対してもカスタマイズモデルを提供可能) - 利用可能範囲:限定なし 2. Yによる利用 - 利用可能範囲:限定なし - サービス利用料:Yが連携システムを経由してAPIを利用した量に応じた従量課金 - Yは、カスタマイズモデル生成に際してデータ・ノウハウを提供した見返りとして、一定期間、対象領域についてサービス利用料の最恵待遇条項やプロフィットシェアなどの経済的便益を受ける。 - 利用可能期間:●年間 2. 解説 1. **非独占的な提供の合理性** カスタマイズモデルの利用条件としては、「交渉経緯」でY担当者が当初主張していたような「独占的な提供」という内容も一応考えうる。その場合、一定期間内は、XはY以外の第三者に対してカスタマイズモデルの提供が出来ないことになるが、そうすると、ごく例外的なケースを除いてスタートアップであるXのビジネスが成り立たなくなる。 なぜなら、独占的な提供方法を採用した場合、XとしてはY以外の事業会社とも同様の条件で組むことになるが、そうすると個々の事業会社ごとのカスタマイズモデルが複数並立することになり、そのすべてのカスタマイズモデルをXが並列的に管理して各事業会社に提供することになる。 そして、スタートアップにおいて独自の研究開発に基づいてベースモデルのアップデートを継続的に行っていく場合、スタートアップは並立している全てのカスタマイズモデルについても同アップデートを前提としたメンテナンスを行う必要があり、必然的に管理コストが著しく上昇することになる。そこで、スタートアップとしては利用料を高く設定しなければビジネスが成り立たないことになるが、事業開始時点の見通しが不透明な状況において事業会社が高い利用料設定に応じることは、ごく例外的な場合(たとえば、当該領域を当該事業会社が独占していて、高い収益が約束されている場合)以外は通常考え難い。その結果、スタートアップとしては、「将来にわたって低い利用料収入で高い管理コストを賄う」という状況に陥ることになり、事業の発展可能性を失う。 そのため、ごく例外的な場合を除いてスタートアップにおいて「複数の事業会社からデータの提供を受けて生成したカスタマイズモデルを利用したサービスを各事業会社に提供する」というビジネスを提供する場合、カスタマイズモデルの利用条件は非独占的な内容、すなわちどの事業会社(この中には、カスタマイズモデル生成のためにデータ・ノウハウ提供をする会社も、しない会社も含まれる。)に対してもカスタマイズモデルないし同カスタマイズモデルを利用したサービスを提供できる、とするのが合理的である。 そうすることで、スタートアップとしては、カスタマイズモデルを用いた事業展開に制約がなくなることから事業拡大・収益拡大の可能性が高まるとともに、管理コストも一定の範囲に抑えることができることから、将来的な発展可能性を確保することができる。 また、社会的な見地から見ても、独占的な提供にとどめた場合「特定の企業のデータだけを用いた、十分な性能のない小さい学習済みモデルが複数存在する」という事態が生じることになるが、非独占的な提供および非限定的な追加学習を行うことで、より高精度な学習済みモデルを広い範囲のユーザに提供することができるというメリットが事業会社およびスタートアップの双方に発生することになる。 2. **Yの貢献をどのようにカスタマイズモデルの利用条件に反映させるか** もっとも、カスタマイズモデルの利用条件を非独占的な内容にした場合、カスタマイズモデルの共同開発におけるYのデータやノウハウ面での寄与をどのようにして適切に反映させるかが問題となる。 XがYに独占的にカスタマイズモデルを提供するというビジネス形態は、Yの寄与を反映させるための一つの方法ではあるが、そのようなビジネス形態が合理的ではないことは先ほど説明した。 Yの寄与を反映させる方法として、XがYの当該寄与に見合った経済的便益をYに提供する方法がある。たとえば、最恵待遇条項(MFN条項:一定期間、サービス利用料を介護分野における最安値とする。)を設定する方法や、プロフィットシェア(カスタマイズモデルからXが得た売上の一部をプロフィットプールとし、同プロフィットプールを一定のルールに従って分配する方法)などである。 しかし、プロフィットシェアはその設計が非常に複雑になり採用が容易ではない(後述のコラム参照)ため、本モデル契約においては最恵待遇条項(MFN条項)を採用することとした。 さらに、単純な最恵待遇条項ではカスタマイズモデルの生成に対するYの貢献度を十分に反映できないことから、本モデル契約においてはYに対して、より大きなメリットを提供するために、「●年間、サービス利用料を、介護分野におけるサービス利用料の最安値の10%引きとする。」という条項(いわば「最恵待遇+ディスカウント条項」)を採用している。 本モデル契約では「最恵待遇+ディスカウント条項」におけるディスカウント率を一応「10%」としているが、実際のディスカウント率を設定するに際しては、当該事業領域における利益率、当該事業会社による見込利用量、スタートアップにおけるコスト構造(特にAIスタートアップの場合は研究開発に要するコストが大きい。)を考慮したうえで決定する必要がある。 また本条では、一定期間、一律「10%引き」という固定ディスカウント率としているが、「最恵待遇+ディスカウント条項」を設定する趣旨がYの貢献度を評価するものであることから、実際の貢献度に応じた条件設定をすることが望ましい。具体的には、Yの貢献としては、① 当初のモデルの共同開発への貢献や、② 追加データの提供による貢献が考えられるが、長期間にわたって多数の第三者が提供したデータによる追加学習が行われた場合、初期のユーザが提供したデータがカスタマイズモデルの精度向上に寄与する割合は逓減していくことを考えると、経過年数に応じてディスカウント率を下げていくことも考えられよう。 このような最恵待遇条項(MFN条項)を設定する方法は、事業会社にとっては事業におけるコスト(サービス利用料)低減を意味する。本モデル契約の条項のように「対象領域における最安値からさらに10%引き」という設計とした場合、そのコスト低減効果はさらに大きくなり、事業会社の了承を得られる可能性が高くなる。 MFN条項が持つコスト削減効果は、経済的にはプロフィットシェアと同じであるが、その一方で、MFN条項はプロフィットシェアよりもその設計・計算が容易であり、交渉コストが低いというメリットがある。 なお、MFN条項を設ける場合には以下の点に留意する必要がある。 1. **MFN条項の対象となる分野を特定する必要がある** たとえば、介護領域であれば、介護領域においてサービス利用をしている事業者の中での最安値(あるいは最安値からの定額割引)を保証するという形をとるという意味である。 なぜなら、事業会社は対象分野ごとに競合他社と競争をしており、かつ事業分野によって事業の平均利益率は異なるため、APIを提供する際にも、その業界利益率を考慮した値決めが合理的だからである。 本モデル契約においては、介護領域を対象とするMFN条項としている。 2. **MFN条項の適用年限を限定する必要がある** AI領域は極めて技術の進歩スピードが速く、スタートアップが事業会社に当初提供したベースモデルの陳腐化のスピードも速いこと、スタートアップが非独占的にカスタマイズモデルを提供するビジネスモデルを採用する結果、同カスタマイズモデルのユーザは逓増し、事業会社が当初データおよびノウハウを提供した貢献度も逓減することから、MFN条項の適用年限を定めるべきである。具体的な適用年限は、秘密保持契約における秘密情報の陳腐化と同じ観点から、3年程度が合理的と思われる。 本モデル契約においてはMFN条項の適用年限を3年間としている。 3. **最低価格を参照する対象となる事業者(対象事業者)を適切に設定する必要がある** 最後に、最低価格を参照する対象となる事業者(対象事業者)を適切に設定すべきである。MFN条項においては、対象事業者に提供する際のサービス提供価格の最低額が基準となるので、対象事業者を適切に設定しなければ、意図せずMFN条項が発動してしまうためである。詳細は本モデル契約第8条(サービス利用料)の解説部分を参照されたい。 3. **特定の事業領域における独占利用を許諾することについて** また、カスタマイズモデルの非独占的な提供をベースにした場合でも、ある特定の事業領域については独占利用を認めるように事業会社から要請されることがある。 かかる要請に応じるかどうかはスタートアップにおいて極めて慎重な検討を要する。 まず、スタートアップがSaaS型でAPIを提供するビジネスモデルを採用する場合、事業をスケールするためには、スタートアップ自らが当該サービスを利用する事業会社に対して直接サービスを提供するだけでなく、システムインテグレータ(SIer)のような中間事業者とパートナーシップを組んで、同中間事業者を介して(中間事業者の立ち位置はサブライセンサーや再販売者などケースバイケースである。)、より多数の事業会社に対してサービス提供をしていく必要がある。 しかし、特定の事業領域について特定の事業会社に独占利用を認めた結果、当該領域については自由にサービスを提供できないということになると、中間事業者にとっても提供先が限定されることになるため、実際にはスタートアップと中間事業者とのパートナーシップ構築が極めて困難になる。 すなわち、特定の事業領域であれ、独占利用を認めることは、当該領域における他の事業者との取引機会を失うだけでなく、中間事業者とパートナーシップを組んで事業をスケールさせるというスタートアップの事業戦略の根幹を毀損する可能性がある。 ただし、いかなる場合であっても非独占にすることが望ましいというわけではなく、例えば、以下のような事情がある場合において、スタートアップが戦略的な判断として、独占パターンを採用することもありうる。 - 当該業界がニッチな業界でありかつ当該業界を事業会社が寡占しているため、当該事業領域について事業会社に独占利用させたとしても、スタートアップの事業機会への影響が比較的軽微な場合。 - スタートアップの事情として、実績作りや、サービスのローンチという形式をとりあえず満たすことの優先度が高い場合。 - その他の条件でスタートアップに配慮されている場合(独占期間が短い、独占の見返りとなりうる多額の一時金が支払われている等) スタートアップとしては、特定の事業領域について事業会社に独占利用を認めることを要請された場合には、上記のような観点から慎重に検討すべきである。 ```text 【コラム】プロフィットシェア方式について プロフィットシェアはその設計が非常に複雑になるため、本モデル契約では採用していないが、参考のため、XがYを含めた事業会社との間でプロフィットシェアを行う場合の留意点について説明をする。 1. 固定料率方式 プロフィットシェアを行う場合のシェア額の算定方法について確立した手法がある訳ではないが、まずシンプルな算定方法として考えられるのが「『Xの利益(売上)×固定料率』の計算式で計算したプロフィットシェアが一定期間発生する」というものである。 しかし、Xのようなスタートアップが、複数の事業会社からデータの提供を受けて1つの高精度なカスタマイズモデルを生成し、当該カスタマイズモデルを非独占的に提供するというビジネスにおいては、そのような「『Xの利益(売上)×固定料率』の計算式で計算したプロフィットシェアが一定期間発生する」という計算方式は採用が困難である。 すなわち、Xにデータを提供したすべての第三者に対して、Xが固定料率方式のプロフィットシェアを行った場合、当該プロフィットシェアが単純に合算されることになり、プロフィットシェアの合計額がXの収益を大きく圧迫する。また、実質的に考えても、長期間にわたって多数の第三者が提供したデータによる追加学習が行われた場合、初期のユーザが提供したデータがカスタマイズモデルの精度向上に寄与する割合は逓減していくことを考えると、カスタマイズモデルを用いたビジネスにおけるプロフィットシェア算定方式としての固定料率方式には合理性がない。 2. シェアプール方式 本件のようなカスタマイズモデルを用いたビジネスにおいて合理的なプロフィットシェア算定方式の一つとしてシェアプール方式がある。 これは、カスタマイズモデルの品質向上に協力した事業者に対して、当該品質向上による超過利益を分配するため、一定のシェアプールを設けておいて、当該プールを、データ提供した各事業者の寄与度に応じて分配するという仕組みである。このような算定方法であれば、AIスタートアップとしてはプロフィットシェアの総額をシェアプールという合理的な範囲に抑えることができる一方で、日々精度が高まっていくカスタマイズモデルに対する各事業会社の寄与度を適切に評価することが可能となる。逆に言えば、プロフィットシェアを行う場合には、スタートアップにおいて、このようなシェアプール方式を適切に設計し、事業会社と交渉の上で契約に落とし込まなければならないのであって、安易に固定料率方式で売り上げの一部を支払うというアレンジは自らの首を絞め事業破綻の可能性を高めることに留意する必要がある。もちろん、スタートアップが事業破綻した場合には、当該スタートアップが提供しているカスタマイズモデルを利用した事業会社も大きな影響を被るのであって、合理的なプロフィットシェア方式の採用は、スタートアップのみならず事業会社にとっても有用である。 3. シェアプール方式の詳細について 1. シェアプール額の設計 シェアプール方式は「①一定の計算式(たとえば「売上高×●%(シェアプール比率)」)で計算したシェアプールを(シェアプール額の設計)②一定の比率で参加者に分配する(分配比率の設計)」というものである。 そして、①のシェアプール額を設計するに際して、「売上高×●%(シェアプール比率)」というように売上高のみを基準とすると、売上高が十分に上がらずスタートアップの粗利益や営業利益が赤字の場合でもシェアプールが発生することになってしまう。 そこで、シェアプール額の設計において、「営業利益×●%(シェアプール比率)」とすることも考えられるが、そうすると事業会社に対し、原価や各種経費等の営業秘密を開示等せざるを得なくなる。 売上基準か営業利益基準かいずれを採用することが合理的かはケースバイケースであるが、スタートアップとしては、内部的には「営業利益×●%(シェアプール比率)」シェアプール額を設計したうえで、契約の条項上は、「シェアプール額=売上高×●%(シェアプール比率)」と合意することが必要であろう。 そのような設計を行ったうえで「シェアプール額=売上高×●%(シェアプール比率)」と定める場合、シェアプール比率は数パーセント未満が妥当な場合が多いと思われる。 2. 分配比率の設計 シェアプール額が発生した場合、当該シェアプール額を、カスタマイズモデル生成に貢献した度合いに応じて参加者に分配する必要がある。なお、当然のことながら、分配の対象となる参加者は、Yのように「データ解析サービスの利用に先立ってカスタマイズモデルの生成のためにデータ・ノウハウを提供した事業会社」に限られ「カスタマイズモデルの生成のためにデータ・ノウハウを提供せず、単にサービス利用をしているだけの事業者」は含まれない。   この場合の分配比率の計算方式としては、「カスタマイズモデル生成の際に各事業会社が提供したデータ量」に応じて分配する方式、あるいは「カスタマイズモデル用のデータ提供者がカスタマイズモデルを利用した量(各利用者のSaaSのトランザクション量)」に応じて分配する方式が考えられる。   まず、前者の場合、「データによる貢献度」を正確に反映しようとすれば、データの量だけではなく、データの質や鮮度も考慮する必要があるが、「データ量」だけではその貢献度を合理的に反映することが困難である。 一方、後者の場合、システムのバックエンドのコストはシステム利用量が増えるほど下がるという関係にあるため、システムを多く利用しているプレーヤーはその分システム全体に対する寄与度が大きいと評価することができる。 そのため、分配比率の設計に関しては、後者の「カスタマイズモデル用のデータ提供者がカスタマイズモデルを利用した量(各利用者のSaaSのトランザクション量)」を基準とした分配方式の方が、異なる内容のデータの貢献度を比較するという困難を避け、システム全体への貢献という見地から寄与度を算定する方式であり、合理性を有すると思われる。 ``` 3. 追加学習の内容 学習済みモデルを利用したデータ処理サービスにおいてはデータを大量に処理することになるが、それら処理対象データに対して一定の品質を維持した処理を行うためには、未知のデータを含む追加データにより学習済みモデルを追加学習しその精度の維持・向上を図ることが必要となる[^1]。 その意味でAIシステムは「いったん納品したら終わり」というシステムではなく、追加学習を継続することでその性能を維持・向上する必要があるシステムといえる。 そして、追加学習を行う際には、XとYとの間で、①追加学習に使用するデータの範囲、②YからXにデータ処理のために提供されたデータの利用目的、③追加学習を行った結果精度が向上した学習済みモデルの権利帰属・利用条件について合意する必要がある。 追加学習の内容をどのようなものにするかはカスタマイズモデルの利用条件と密接に関連している。 前述のようにカスタマイズモデルの利用条件として非独占的な内容とし、複数の事業会社から提供を受けたデータを利用して1つの高精度なモデルを生成するというビジネスとする以上、まず「追加学習に使用するデータの範囲」としては、当該Yから処理のために提供されたデータのみを追加学習に用いるのではなく、当該Y以外から提供されたデータも追加学習に用いることになる。 また「YからXにデータ処理のために提供されたデータの利用目的」についても、Yのみに対して提供するカスタマイズモデルの生成のみに用いるのではなく、Yを含めた利用者に広く提供するためにXが生成する高精度なカスタマイズモデルの生成にも利用することになる。 1. 内容 - 追加学習に使用するデータの範囲 Yから送信されたデータおよびY以外の第三者からXが提供を受けたデータを用いた、制限のない追加学習が可能 - Yが処理対象としてXに送信したデータの扱い 本サービスの提供目的およびYのための追加学習サービスのため以外にも制限なく利用可能 - カスタマイズモデルに追加学習したモデルの権利帰属 X - サービス利用料:月額●円 - 期間:●年間 2. 解説 ①の「追加学習に使用するデータの範囲」として、当該Yから処理のために提供されたデータのみならず、他のユーザから提供されたデータも追加学習に用いる。さらに、②の「YからXにデータ処理のために提供されたデータの利用目的」は、Yに対する本サービスの提供目的、および当該Yのための追加学習目的以外にも、制限なくXが利用することを可能とする。具体的には、Y以外の第三者に提供するためのカスタマイズモデルの学習のためにもYから提供されたデータを利用することを可能とするのである。 ③の「カスタマイズモデルに追加学習したモデルの権利帰属」については、ケースバイケースであるが、本件のような、カスタマイズモデルに関する著作権についてXに帰属させたうえでSaaS形式でYに処理結果を提供する方式の場合は、Xに帰属するとするのが合理的であろう。 ## 目次 [前文](#前文) [1条(定義)](#1条(定義)) [2条(データ解析サービスの内容)](#2条(データ解析サービスの内容)) [3条(非独占)](#3条(非独占)) [4条(追加学習サービスの内容)](#4条(追加学習サービスの内容)) [5条(対象データの利用)](#5条(対象データの利用)) [6条(対象データの管理)](#6条(対象データの管理)) [7条(個人情報の取扱い)](#7条(個人情報の取扱い)) [8条(サービス利用料)](#8条(サービス利用料)) [9条(監査)](#9条(監査)) [10条(対価の不返還)](#10条(対価の不返還)) [11条(禁止事項)](#11条(禁止事項)) [12条(非保証)](#12条(非保証)]) [13条(秘密情報の取扱い)](#13条(秘密情報の取扱い)) [14条(期間)](#14条(期間)) [15条(解除)](#15条(解除)) [16条(契約終了後の措置)](#16条(契約終了後の措置)) [17条(損害賠償)](#17条(損害賠償)) [18条(存続条項)](#18条(存続条項)) [19条(準拠法および紛争解決手続き)](#19条(準拠法および紛争解決手続き)) [その他の追加オプション条項](#その他の追加オプション条項) ## 前文 ```text X社(以下「甲」という。)とY社(以下「乙」という。)とは、甲乙間で●年●月●日付で締結した共同研究開発契約(以下「本共同研究開発契約」という。)に基づいて共同開発された、本学習済みモデルを用いたサービスに関する条件等を定めるため、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約は、XY間の共同研究開発契約に基づいて開発されたカスタマイズモデルを利用したサービス(①データ処理サービスおよび②追加学習サービス)をX(スタートアップ)がY(事業会社)に対して提供するための契約である。 ### <解説> - 共同研究開発契約では、スタートアップ・事業会社間の共同研究開発契約に基づいて開発されたカスタマイズモデルの利用条件について利用契約において定めるとしている。 - さらに、事業会社としてはカスタマイズモデルを利用したデータ解析サービスに加えて、追加学習サービスの提供を受けることも希望していることから、本利用契約は、データ解析サービスおよび追加学習サービスの内容について定めることを目的としている。 - 学習済みモデルをスタートアップと事業会社で共同開発した場合、あるいは事業会社の委託に基づいてスタートアップが学習済みモデルを開発した場合において、当該学習済みモデルの知的財産権をスタートアップに留保した上でのスタートアップ・事業会社間の当該モデルの利用契約の類型としては、大別してライセンス契約とサービス提供契約がある。 - 具体的には、学習済みモデルのプログラム(コード)をスタートアップが事業会社に提供したうえで、事業会社が同プログラム(コード)を複製(場合によっては改変を含む。)・使用する契約形態が、当該コードのライセンス契約(著作物の利用や、事案によっては特許発明の実施の許諾も含むライセンス契約)となる。 - 一方、スタートアップが事業会社には学習済みモデルのコードを提供せず、「APIを通じて事業会社から処理対象となるデータの提供を受けたうえで同モデルを利用した処理結果を事業会社に提供する」という内容の「サービス」を提供する形態もある。この場合はプログラム(コード)の提供を伴わないためライセンス契約ではなくサービス提供契約となる。いずれの契約形式が適しているかはビジネスの内容にもよるが、本モデル契約ではスタートアップは事業会社に学習済みモデルを提供せず、API経由でデータの送信を受けその処理結果を提供するというサービス提供契約を前提としている。 - なお、学習済みモデルのプログラム(コード)を提供するビジネス(ライセンス契約)とAPI経由でサービスを提供するビジネス(サービス提供契約)のいずれもが選択できる場合に、いずれを選択すべきか、という点については、例えば以下の考慮要素を踏まえつつ検討することとなろう。 【学習済みモデルのプログラム(コード)を提供するビジネス(ライセンス契約)】 事業会社において、スタートアップから提供を受けた学習済みモデルを改変して自社ソフトウェアや自社製品に組み込んで提供する場合や、事業会社のエッジデバイス内に学習済みモデルを組み込む場合には、コードの提供を伴うため当然ライセンス契約が前提となる。 ライセンス契約を締結してコードを提供することで、事業会社での利用可能範囲が拡大され、それに伴ってスタートアップが得られるライセンスフィーが増加する可能性があるというメリットがあるが、コードの開示等を伴うため、その無断複製や漏洩、目的外利用のリスクが常に存在する。 【API経由でサービスを提供するビジネス(サービス提供契約)】 コードの提供を伴わないため漏洩リスク等がない点、APIを通じての提供であるため、再販売を含めて画一的かつ大量にサービス提供・サービス提供範囲の拡大ができ、かつその利用状況をスタートアップ自身が把握できるという点がメリットである。 一方、提供・処理内容を個々の顧客ごとにカスタマイズすることは前提としていないため、カスタマイズを希望する顧客の希望には応えづらいという限界がある。 - 本モデル契約はいわゆるクラウドサービスのうちSaaS(Software as a Service)に該当する。クラウドサービスの場合は大量のユーザに対して画一的なサービスを提供することが前提となっていることも多いが、その場合には契約交渉のコストを削減するために提供者と利用者との間では、一対一の個別契約ではなくいわゆる利用規約が締結されるのが通常である。一方で本モデル契約は、特定のユーザ(Y)から提供を受けたデータを基に開発した特定の学習済みモデル(カスタマイズモデル)を利用したサービスを提供することを前提としているため、利用規約ではなく一対一の個別契約の形式をとっている。 ## 1条(定義) ```text 第1条 本契約において使用される次に掲げる用語は、各々次に定義する意味を有する。なお、本共同研究開発契約において定義した用語を本契約で使用する場合には同契約内の定義に従う。 1 見守りカメラシステム 介護施設における被介護者の見守りシステムをいう。 2 エンドユーザ 見守りカメラシステムの提供事業者との間で見守りカメラシステムの利用契約(契約の名称および法的形式は問わない。)を締結して同システムを利用する介護事業者をいう。 3 見守り用カメラ 見守りカメラシステムの提供事業者である乙がエンドユーザに対して提供(売買・貸与・リース等の法的形式は問わない。)する見守り用カメラをいう。 4 対象データ 別紙(1)「対象データの明細」に記載のデータをいう。 5 データ解析サービス 対象データについて同データ内の対象者の状態推定を行い、その推定結果を乙に提供するサービスをいい、その詳細は第2条で定義されるものとする。 6 追加学習サービス 甲が本学習済みモデルに追加学習を行うサービスをいい、その詳細は第4条で定義されるものとする。 7 本サービス データ解析サービスおよび追加学習サービスの総称をいう。 8 追加学習済みモデル 本学習済みモデルに追加学習を行うことで生成された学習済みモデルをいう。 9 個人情報等 個人情報保護法(個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号))に定める個人情報(同法2条1項)、個人データ(同法2条6項)および匿名加工情報(同法2条9項)をいう。 10 書面等 書面および甲乙が書面に代わるものとして別途合意した電磁的な方法をいう。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約で使われる主要な用語の定義に関する規定である。 ## 2条(データ解析サービスの内容) ```text 第2条 甲は乙に対して下記の内容のデータ解析サービスを提供する。 記 ① 解析対象データ 乙からAPIを通じて解析がリクエストされた対象データ ② 解析に利用する学習済みモデル  本学習済みモデルおよび追加学習済みモデル ③ 解析内容 ②に定める学習済みモデルを利用して対象者の状態推定を行い、その推定結果を乙に提供する。 ④ サービス利用期間 本契約の有効期間と同一とする。 ``` ### <ポイント> - データ解析サービスの内容について定めた条項である。なお、独占・非独占の別については第3条で定めている。 ### <解説> - 本モデル契約はサービス提供契約であるため、当該サービスの内容を契約で特定する必要がある。学習済みモデルを利用したデータ解析サービスの場合、①対象となるデータ②処理を行うために利用する学習済みモデル③具体的な処理内容(解析内容)④データ解析結果の提供形式等で当該サービスの内容を特定することになる。 - 一方、本モデル契約と異なり、スタートアップと事業会社の間で学習済みモデルのライセンス契約を締結したうえでスタートアップが事業会社に学習済みモデルのコードを提供する場合には、契約形式としてはプログラムのライセンス契約となる。たとえば、本設例を少し変えて、見守りカメラの中に学習・推論を行う学習済みモデルを組み込む場合などである。その場合には、利用許諾の範囲が契約の重要な要素となる。例えば「見守りカメラに学習済みモデルをインストールし、同カメラを製造・販売すること、および同製造・販売に必要な範囲内で学習済みモデルを複製することを許諾する。」という内容になろう。 ## 3条(非独占) ```text 第3条 甲は、乙以外の第三者に対して、本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルを用いたサービス(本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルの複製物を当該第三者に提供するか否かを問わない)を提供することができる。 2 乙は自らおよび第三者のために本契約に定める条件の下でデータ解析サービスを利用することができる。 ``` ### <ポイント> - 本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルを利用したサービスの提供が非独占的なものであること、およびデータ解析サービスの事業会社による利用について定めた条項である。 ### <解説> - 本モデル契約においては、カスタマイズモデルの利用条件として非独占的な内容を前提としているため、その旨を第1項にて定めている。 - 後述のように、本モデル契約においては、スタートアップが事業会社以外の事業者から提供を受けたデータにより本学習済みモデルに追加学習を行うことも可能となっている。そのような方法で追加学習済みモデルを生成し、当該追加学習済みモデルを利用したビジネスを展開する場合は、当該ビジネスは第1項に定める「本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルを用いたサービス」に該当する(本モデル契約の定義(第2条)上、追加学習済みモデルは、対象データにより追加学習したモデルに限定されていない)ため、本条の対象となる。 - また「(本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルの複製物を当該第三者に提供するか否かを問わない。)」と定めているのは、いわゆるSaaS型のビジネスだけではなく、スタートアップが第三者に本学習済みモデル等のコードを提供してライセンスビジネスを行う場合も本条の対象にするためである。 ## 4条(追加学習サービスの内容) ```text 第4条 甲は乙に対して以下の内容の追加学習サービスを提供する。 記 1 追加学習の対象となる学習済みモデル 本学習済みモデルおよび追加学習済みモデル 2 追加学習に利用するデータ 対象データおよび乙以外の第三者が甲に提供したデータ 3 サービス利用期間 本契約の有効期間と同一とする。 4 甲および乙の具体的作業内容 1. 甲の担当作業 - 対象データの前処理 - 対象データのアノテーション - 追加学習サービスに用いるために対象データを整形または加工した学習用データセット(以下「追加学習用データセット」という。)の作成 - 対象データによる追加学習済みモデルの生成 2. 乙の担当作業: - 追加学習済みモデルの精度の向上に必要なノウハウの提供 5 作業頻度・回数 サービス利用期間内において甲が適切と判断した頻度・回数 6 追加学習用データセットの取扱い 1. 甲は、追加学習用データセットを乙に対し開示する義務を負わない。 2. 甲は、追加学習用データセットを、本契約期間中およびその終了後も本契約第5条1項に定める目的で利用することができる。 3. 甲は、追加学習用データセットを第三者に開示等してはならない。 7 追加学習モデル等の著作権の帰属 1. 追加学習済みモデルおよび追加学習サービスの遂行に伴い生じた知的財産に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。以下本契約において同じ。)は、乙または第三者が従前から保有していた著作権を除き、甲に帰属する。 2. 甲および乙は、本契約に従った追加学習済みモデルの利用について、相手方および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しない。 3. 本項①の規定にかかわらず、甲が本契約第15条1項2号または3号のいずれかに該当した場合には、乙は、甲に対し、上記7①に定める著作権を甲または乙の指定する第三者に対して無償で譲渡することを求めることができる。 8 追加学習モデル等の特許権等の帰属 1. 追加学習済みモデル等にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。以下「特許権等」という。)は、追加学習済みモデル等のうち、特許権等の保護対象となる発明等を創出した者が属する当事者に帰属する。 2. 甲および乙が共同で創出した追加学習済みモデル等に関する特許権等については、甲および乙の共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。 3. 甲および乙は、上記8②に基づき相手方と共有する特許権等について、必要となる職務発明の取得手続(職務発明規定の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等)を履践する。 9 追加学習済みモデルの利用条件 追加学習済みモデルの利用条件は、本契約に定める本学習済みモデルの利用条件と同等とする。 10 OSSの利用 1. 甲は、追加学習サービス提供の過程において、追加学習済みモデルを構成する一部としてオープン・ソース・ソフトウェア(以下「OSS」という。)を利用しようとするときは、OSS の利用許諾条項、機能、脆弱性等に関して適切な情報を提供し、乙に OSS の利用を提案するものとする。 2. 乙は、上記10①に定める甲の提案を自らの責任で検討・評価し、OSS の採否を決定する。 3. 本契約の他の条項にかかわらず、甲は、OSS に関して、著作権その他の権利の侵害がないことおよび不適合のないことを保証するものではなく、甲は、上記10①所定の OSS 利用の提案時に権利侵害または不適合の存在を知りながら、もしくは重大な過失により知らずに告げなかった場合を除き、何らの責任を負わない。 11 本共同開発契約第6条(各自の義務)、同第8条(再委託)、同第9条(本契約の変更)は、甲による追加学習サービスによる追加学習済みモデルの生成に準用する。 ``` ### <ポイント> - 追加学習サービスの内容について定めた条項である。 ### <解説> - 追加学習サービスもデータ解析サービスと同様、当該サービスの内容を契約で特定する必要がある。追加学習サービスの場合、①追加学習の対象となる学習済みモデルおよび②追加学習に利用するデータ等で当該サービスの内容を特定することになる。 - 本モデル契約においては、追加学習に利用するデータは対象データに限定されず、スタートアップが事業会社(乙)以外の第三者に対して本学習済みモデルを利用したサービスを提供し、当該サービスの利用に際して当該第三者からスタートアップが提供を受けたデータも対象としている(2号)。 - さらに、追加学習サービスを提供する場合には、追加学習作業が学習済みモデルの生成という側面を有していることから、学習済みモデルの開発契約において定めるべき事項について追加学習サービスに関する契約においても定める必要がある。 - 本モデル契約は、スタートアップ・事業会社間において本共同研究開発契約に基づいて学習済みモデルを共同開発することが前提となっており、同契約において学習済みモデルの生成に関する事項はすでに合意済みである。そして、追加学習サービスの提供に際してそれら既に合意されている事項を変更する合理性に乏しい場合が多いと思われることから、追加学習サービスによって生成される学習済みモデルについて、本共同開発契約の関係条項に沿った内容の契約とし(7号以下)、必要に応じて本共同開発契約の関係条項を準用することとしている(11号)。ただし、追加学習サービスに用いるために生成された学習用データセット(追加学習用データセット)については、本共同開発契約第13条の規定をそのまま準用すると、追加学習サービスの提供に支障が生じるため、本共同開発契約第13条の規定をベースにしつつも、本契約独自の条項を設けている(6号)。なお、追加学習サービスの提供にあたって、本共同研究開発契約に基づく学習済みモデルの共同開発時と状況が変わった場合には、別途異なる定めを設けることも考えられる。 ## 5条(対象データの利用) ```text 第5条 甲は、本契約期間中およびその終了後も対象データを以下の目的で利用することができる。 1. 乙に対するデータ解析サービスの提供 2. 乙に対する追加学習サービスの提供 3. 乙以外の第三者に対する、本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルを用いたサービス(本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルの複製物を当該第三者に提供するか否かを問わない。)の提供 4. ①②③に定めるサービスの追加的機能の開発 5. 本学習済みモデルおよび追加学習済みモデルに対する追加学習 2 乙は甲に対し、以下の各号の事実が正確かつ真実であることを保証する。 1. データ解析サービスおよび追加学習サービスの利用に際して、対象データを甲に提供する正当な権限を有していることおよびかかる提供等が法令に違反するものではないこと。 2. 前項に基づく甲の使用に対する許諾を行う正当な権限を有していること。 3 乙は、甲および甲が指定する第三者に対して対象データに関する著作者人格権を行使せず、またその権利者に行使させないものとする。 ``` ### <ポイント> - 事業会社からスタートアップに対して、本サービスの利用に際して提供される対象データの利用に関する条項である。 ### <解説> - AIを利用したサービスにおいて、事業会社からサービス提供者に提供されるデータは、サービスの処理対象であると同時に、サービス提供者において学習済みモデルの追加学習に利用することが可能なデータである。したがって、それらのデータをサービス提供者がどの範囲で利用可能か、言い換えれば事業会社がどの範囲でデータをサービス提供者に利用を許すかは事業会社・サービス提供者間で重要な交渉事項となる。 - 最も狭い利用可能範囲は「当該サービスを事業会社に提供するのに必要な範囲」というものである。このように定めると当然のことながらサービス提供者で対象データを追加学習等に利用することはできない。 - 本モデル契約においては、追加学習サービスについて非限定的な内容としているため、対象データを「乙に対するデータ解析サービスの提供」(1項1号)で利用するのみならず、広く追加学習にも用いることが前提となっている。そこで対象データの利用可能範囲を同項2号ないし5号まで拡大している。 ## 6条(対象データの管理) ```text 第6条 本サービスの利用に際して乙から甲に提供された対象データは、すべて甲が本サービス提供のために利用するサーバ(以下「本サービス用サーバ」という。)に保存および蓄積されるものとする。 2 甲は、対象データを適切に管理し、法令に基づく開示が求められた場合および乙の事前の書面等による同意がない限り第三者に開示または提供しない。 3 乙が甲に提供した対象データについては、乙の責任においてバックアップ等の保全措置を行う。 4 甲の責めに帰すべき事由により、本サービス用サーバに保存されている対象データの全部または一部が消失または毀損した場合、乙は甲に対し、可能な限り当該データを回復するよう要請することができる。但し、甲が回復作業を行ったにもかかわらず、当該データの全部または一部の回復ができなかった場合であっても、甲は一切の責任を負わない。 5 理由の如何にかかわらず本契約が終了した場合には、甲は本サービス用サーバ内に残存する全ての対象データを乙に事前通知することなく削除できる。 6 甲は、法令違反等甲が不適切と判断した対象データについて、乙に事前通知することなく削除できる。 ``` ### <ポイント> - スタートアップにおける対象データの管理に関する条項である。 ### <解説> - 追加学習サービスにおいて非限定的な内容を採用した場合においては、対象データの管理体制に対する懸念や、対象データが事業会社(乙)以外の第三者に直接開示・提供されるのではないかとの懸念を事業会社が抱く可能性があるため、契約上明確に定める必要性が高い。 - 第2項においてスタートアップが対象データを管理し、かつ原則として第三者に提供しない旨を定めている。 - 第5項においては、契約終了時における対象データのスタートアップによる削除「権限」を定めているが、第5条において契約終了後も対象データをスタートアップが引き続き利用することができると定めているため、削除「義務」は規定していない。 ## 7条(個人情報の取扱い) ```text 第7条 本サービスの利用に際して、乙が、個人情報等を含んだ対象データを甲に提供する場合には、個人情報保護法に定められている手続を履践していることを保証するものとする。 2 乙は、本サービスの利用に際して、個人情報等を含んだ対象データを甲に提供する場合には、事前にその旨を明示する。 3 甲は、第1項に従って個人情報等が提供される場合には、個人情報保護法を遵守し、個人情報等の管理に必要な措置を講ずるものとする。 ``` ### <ポイント> - 対象データに個人情報等が含まれる場合に関する規定である。 ### <解説> - 本モデル契約が対象としているデータ解析サービスは、介護施設内で見守りカメラにより撮影された動画データを処理対象としている。当該動画データ内には被介護者の顔写真が写りこんでいることもあるため、当該データは個人情報に該当することがある[^2]。 - さらに、当該動画データが個人データにも該当する場合には、当該個人データを第三者に提供する場合には原則として本人から同意を得ることが必要となる(個情法23条1項)。この点、個々の動画データが個人データに該当するのは、それらの動画データが「個人情報データベース等」(個情法2条4項)として介護施設において管理されている場合に限られる。どのような態様で動画データが介護施設において管理されているかはスタートアップにとって不明であるため当該動画データは個人データに該当するという前提に立つ必要がある。したがって、本サービスの利用に際しては各介護施設において、動画データを事業会社に提供することについて被介護者本人の同意を取得する必要がある。介護施設と被介護者との間には施設利用契約が存在するため、当該利用契約に付随してかかる同意を取得することは困難ではないと思われる。 - もっとも、実際に介護施設において同意を取得しているかはスタートアップにおいて確認できないため、個人情報保護法上必要な手続きを履践していることを事業会社において保証してもらうこととしている(第1項)。 - 動画データ(個人データ)の提供について本人同意不要とするために個人情報保護法23条5項1号の規定を前提とした委託スキーム(本サービスの提供を介護施設が事業会社、事業会社がスタートアップに委託することを前提とし、当該委託に伴う個人データの提供という構成にする。)を採用することも考えられる。しかし、委託スキームの場合、当然のことながら当該個人データを利用できる範囲は委託の範囲内に限定される。しかし、カスタマイズモデルについて事業会社以外の第三者にも提供し、追加学習においても対象データ以外のデータを用いてモデルの精度向上を図るスキームを採用した場合、委託の範囲を超えていると解釈される可能性が高いと思われる。そのため、委託スキームは本件では採用しがたい。 - なお、そもそも上記のような個人情報保護法上の問題は、介護施設から個人情報(個人データ)が第三者(スタートアップ・事業会社)に提供されることにより生じている。そのため、SaaS形式ではなく見守りカメラ内に学習済みモデルを組み込み、同カメラ内で推論を行い、推論結果だけを各介護施設から見守りシステムに送信するビジネスモデルであれば、このような問題は生じないことになる。個人情報を取り扱うビジネスにおいて個人データの第三者提供に関する本人同意を取得できないケースにおいてはそのようなスキームも検討する必要があろう。 ## 8条(サービス利用料) ```text 第8条 乙は、甲に対し、データ解析サービスの対価として下記計算式により計算した金額を支払う。 記 【計算式】 本連携システムを通じたAPIリクエスト回数1回あたりの単価●円(外税、以下「API単価」という。)×利用回数 2 本学習済みモデルが甲乙間で共同開発されたことを考慮し、前項に関わらず、本契約締結日より3年間は、前項の計算式におけるAPI単価を下記計算式の通り減額する。なお、下記計算式における「対象事業者」とは、介護領域において甲からデータ解析サービスの提供を受けている事業者を言う。ただし、以下のいずれかに該当する事業者は除く。 1. 乙と同様、甲が提供するサービスに用いられる学習済みモデルの生成に貢献したことを根拠としてAPI単価が減額されている事業者 2. エンドユーザに対して直接見守りカメラシステムを提供している事業者以外の事業者(システムインテグレーターなどを含むがそれに限られない。) 3. ②に定める事業者を介して甲からデータ解析サービスの提供を受けている事業者 記 【計算式】 甲が、乙以外の対象事業者に対してデータ解析サービスを提供する際のAPI単価のうち最も安い単価(外税)×90% 3 乙は、甲に対し、追加学習サービスの対価として1か月あたり●円(外税)を支払う。 4 乙は、甲に対し本条1項および同3項に定める対価を、本契約締結日以降、1か月毎に、当該期間の末日から●日以内に支払うものとする。 5 乙は前項の対価を甲が指定する銀行口座振込送金の方法により支払う。これにかかる振込手数料は乙が負担するものとする。 6 本条で定める各対価についての消費税は外税とする。 7 本条の各対価の遅延損害金は年14.6%とする。 ``` ### <ポイント> - 本モデル契約における事業会社がスタートアップに支払うデータ解析サービスおよび追加学習サービスの対価の金額、支払時期および支払方法を定める条項である。 ### <解説> - データ解析サービスの対価として事業会社がスタートアップに対して支払う利用料について第1項において定めている。まとまった金額の初期利用料や最低利用料の設定をせず、従量課金のみの利用料体系としている。 - データ解析サービスに関するMFN条項を第2項に定めている。MFN条項の設計としては、まず、MFNの条項の対象分野を特定したうえで、かつ適用年限を定めるべきである。そこで、介護領域を対象領域としたうえで、適用年限を3年間と定めた。 - 次に、MFN条項において、最低価格を参照する対象となる事業者(対象事業者)をどのように設定するか問題となる。MFN条項においては、対象事業者に提供する際のサービス提供価格の最低額が基準となるので、対象事業者を適切に設定しなければ意図せずMFN条項が発動してしまうためである。 - まず、事業会社Yと同様、学習済みモデルの共同開発への貢献を理由に「MFN条項+ディスカウント」が適用されている事業者は対象事業者から除外する必要がある。そうしないとディスカウントが繰り返されてサービス提供価格が0に近づいていくためである(2項1号)。 - 次に、自らエンドユーザにサービス提供をする事業者以外の、システムインテグレーター等の中間事業者も対象事業者から除外する必要がある(2項2号)。すでに述べたように、スタートアップがSaaS型でAPIを提供するビジネスモデルを採用する場合は、スタートアップ自らが当該サービスを利用する事業会社に対して直接サービスを提供するだけでなく、システムインテグレータ(SIer)のような中間事業者とパートナーシップを組んで、同中間事業者を介して(中間事業者の立ち位置はサブライセンサーや再販売者などケースバイケースである。)、より多数の事業会社に対してサービス提供をしていく必要がある。もっとも、中間事業者に対してはボリュームディスカウントを理由として、値引きしてサービス提供せざるを得ないため、このような中間事業者をMFN条項における対象事業者に含めてしまうと、意図せずMFN条項が発動してしまうためである。 - 最後に、このような中間事業者を介してデータ解析サービスの提供を受ける事業者についても対象事業者から除外する必要がある(2項3号)。中間事業者を介してサービス提供を受ける事業者に対しては、直接スタートアップが価格をコントロールできないため、この場合もまた意図せずMFN条項が発動してしまう可能性があるためである(なお、中間事業者を介してデータ解析サービスの提供を受ける事業者のサービス利用料等の契約条件をスタートアップが設定する(拘束する)ことも考えられるが、独占禁止法上の問題もあり実際は困難である。)。 - 追加学習サービスの対価については第3項において、1か月あたり●円とシンプルな定めとしている。この点、追加学習サービスは通常システムの保守・メンテナンスサービスとは異なり、学習済みモデルの追加開発という技術的に高度な作業を行い、かつ作業の結果高精度になった学習済みモデルを事業会社が利用することができるという点において通常システムの保守・メンテナンスサービスとは異なる内容を有している。もっとも、どのようなタイミングでどのような内容の追加学習作業を行うかはスタートアップの判断にゆだねられており、あらかじめ契約において追加学習作業の内容を定めることは困難である。そのため追加学習サービスの内容としては対象となる学習済みモデルおよび学習に用いるデータのみでサービス内容を特定したうえで(第4条)、サービス利用料としては毎月の一定額の支払いとした。サービス利用料として追加学習作業量に応じた人月方式で算定することも考えられるが、追加学習サービスは事業会社だけでなく、事業会社を含むすべてのサービス利用者のために行われるものであるから、単純な人月方式での算定は困難であると思われる。 ## 9条(監査) ```text 第9条 甲および乙は、相手方に対して、前条に定める対価(以下本条において「本対価」という。)に関連する帳簿類、決算書、その他の経理書類・帳簿類を開示すべきことを請求することができる。 2 前項に基づいて報告された本対価に関して、当該帳簿類の開示請求を行った当事者は、公認会計士その他中立な第三者による監査を請求することができる。 3 前項の費用は監査請求を行った当事者が負担する。ただし、監査の結果、監査を受けた当事者が報告した本対価が支払うべき本対価よりも10%以上少なかった場合、監査請求を行った当事者は、監査を受けた当事者に対してその費用を求償することができる。 ``` ### <ポイント> - 第8条に定めるサービス利用料の計算およびMFN条項に基づく計算が正しいことを確認するための監査の方法を定めた規定である。 ### <解説> - ライセンス契約における監査条項と同様の規定である。 - 監査の費用については、原則は監査請求を行った当事者が負担することを原則としつつも、監査の結果、不正が発生した場合は監査を受けた当事者が負担することとしている。ただし、不正の定義で争いが生じることもあるため、対価の10%以内の誤差は除くものとしている。 - 対価の支払いが適正でなかった場合には、未払い分につき遅延損害金年利14.6%が発生することとなり(本モデル契約8条9項)、これが実質的なペナルティとなっている。 ## 10条(対価の不返還) ```text 第10条 甲および乙は、本契約に基づき相手方に対して支払った対価に関し、計算の過誤による過払いを除き、いかなる事由による場合でも、返還その他一切の請求を行わないものとする。なお、錯誤による過払いを理由とする返還の請求は、支払後30日以内に書面等により行うものとし、その後は理由の如何を問わず請求できない。 ``` ### <ポイント> - 支払われた対価についての不返還を定めた条項である。 ## 11条(禁止事項) ```text 第11条 乙は、本サービスの利用にあたり、自らまたは第三者をして次の各号のいずれかに該当する、またはそのおそれのある為をしてはならない。 1. 法令または公序良俗に違反すること 2. 甲または第三者の知的財産権等の権利利益を侵害すること 3. リバースエンジニアリング等の手段により本学習済みモデルまたは追加学習済みモデルのソースコードを得ようとすること 4. 蒸留行為(本学習済みモデルへの入力データと、本学習済みモデルの処理結果を新たな学習用データセットとして新たな学習済みモデルを生成する行為) 5. 不正なデータまたは命令を本サービスに入力すること 6. 本サービスのネットワークまたはシステムなどに過度な負担をかけること ``` ### <ポイント> - 事業会社が本サービスを利用するに際しての禁止事項を定めた条項である。クラウドサービス一般の禁止事項に加えて、本モデル契約特有の禁止事項として③リバースエンジニアリング等の禁止および④蒸留行為の禁止を定めている。 ## 12条(非保証) ```text 第12条 甲は、乙に対し、本サービスが乙の特定の目的に適合することを保証しない。 2 甲は、乙に対し、本サービスの利用が第三者の特許権、実用新案権、意匠権、著作権等の知的財産権を侵害しないことを保証しない。 3 本契約に基づく本サービスの利用に関し、乙が第三者から前項に定める権利侵害を理由としてクレームがなされた場合(訴訟を提起された場合を含むが、これに限らない。)には、乙は、甲に対し、当該事実を通知するものとし、甲は、乙の要求に応じて当該訴訟の防禦活動に必要な情報を提供するよう努めるものとする。 ``` ### <ポイント> - 事業会社による本サービスの利用に関する非保証を定めた規定である。 - 1項は本サービスの利用が事業会社の特定の目的に適合することの非保証である。 - 2項の知的財産権侵害の非保証を前提として、3項は、事業会社が第三者から訴訟提起された場合のスタートアップの協力義務を定めたものである。 ### <解説> - 学習済みモデルを利用したサービスにおいては、一般的に、そのサービス提供結果の精度や水準について保証をすることは技術的に困難である。 - もちろん、開発段階において、テスト用データを利用した出力について一定の精度を保証することは技術的には不可能ではないが、開発が終了した後の、学習済みモデルの利用フェーズにおいては未知のデータが処理対象となることから、出力の精度保証は困難となる。訓練データと異なる偏りを持ったデータが入力された場合にどのような出力がなされるかは予測が困難だからである。そこで、第1項においては本サービスの利用が事業会社の特定の目的に適合することの非保証を定めている。 - 第2項においては、本サービスの利用が第三者の知的財産権を侵害しないことについての非保証を定めている。これは、そのような保証を行うことは、サービス提供者のリスクが非常に高いためである。スタートアップと事業会社の間の適切なリスク分配という観点からは、知的財産権非侵害の保証までは行わないという前提で他の条件を定めることが適切である。仮に、そのような保証をするにしても、「甲が知る限り権利侵害はない」「甲は権利侵害の通知をこれまで受けたことはない」ことの表明にとどめるべきである。もっとも、著作権侵害についてはその要件として依拠性が必要とされているため、非侵害保証をしたとしてもサービス提供者にとっての負担が大きくない場合がありうる。したがって、知的財産権侵害のうち著作権侵害に限って非侵害保証をすることもありうるであろう。 ## 13条(秘密情報の取扱い) ```text 第13条 甲および乙は、本契約の遂行のため、文書、口頭、電磁的記録媒体その他開示および提供(以下「開示等」という。)の方法ならびに媒体を問わず、また、本契約の締結前後に関わらず、甲または乙が相手方(以下「受領者」という。)に開示等した一切の情報(ただし対象データを除く。以下「秘密情報」という)を秘密として保持し、秘密情報等を開示等した者(以下「開示者」という。)の事前の書面等による承諾を得ずに、第三者に開示または漏洩してはならない。 2 前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。 1. 開示者から開示等された時点で既に公知となっていたもの 2. 開示者から開示等された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの 3. 正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示等されたもの 4. 開示者から開示等された時点で、既に適法に保有していたもの 5. 開示者から開示等された情報を使用することなく独自に取得または創出したもの 3 受領者は、秘密情報等について、事前に開示者から書面等による承諾を得ずに、本契約の遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本契約遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。 4 受領者は、秘密情報等を、本契約の遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員(以下「役員等」という。)に限り開示等するものとし、この場合、本条に基づき受領者が負担する義務と同等の義務を、開示等を受けた当該役員等に退職後も含め課すものとする。 5 本条第1項、同条第3項および第4項の定めにかかわらず、受領者は、次の各号に定める場合、可能な限り事前に開示者に通知した上で、当該秘密情報等を開示等することができる。 1. 法令の定めに基づき開示等すべき場合 2. 裁判所の命令、監督官公庁またはその他法令・規則の定めに従った開示等の要求がある場合 3. 受領者が、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等、秘密保持義務を法律上負担する者に相談する必要がある場合 6 本契約が終了した場合、または開示者の指示があった場合は、受領者は、開示者の指示に従って、秘密情報等(複製物および改変物を含む。)が記録された媒体、ならびに、未使用の素材、機器およびその他有体物を破棄もしくは開示者に返還し、また、受領者が管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。なお、開示者は受領者に対し、秘密情報等の破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。 7 受領者は、本契約に別段の定めがある場合を除き、秘密情報等により、開示者の知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。 8 本条は、秘密情報に関する両当事者間の合意の完全なる唯一の表明であり、秘密情報に関する両当事者間の書面等または口頭による提案およびその他の連絡事項の全てに取って代わる。 9 本条の規定は、本契約が終了した日よりさらに3年間有効に存続するものとする。 ``` ### <ポイント> - 相手から提供を受けた秘密情報等の管理方法に関する条項である。 ### <解説> 従前に締結した秘密保持条項との関係整理 - 秘密保持契約、PoC契約や共同研究開発契約に引き続いてライセンス契約や利用契約(以下「ライセンス契約等」という。)を締結する場合、ライセンス契約等よりも前に締結した契約における秘密保持条項とライセンス契約等における秘密保持条項の関係が問題となる。 - ライセンス契約等において秘密保持条項を設けずに前者が引き続き適用されるとすることもあるが、本モデル契約においてはライセンス契約等内の秘密保持条項が、すでに締結されている秘密保持条項を上書きすることを8項で明記している。 - なお、既存の秘密保持条項およびライセンス契約等の秘密保持条項の内容次第では、既存の秘密保持条項よりも、ライセンス契約等の秘密保持レベルが落ちる可能性があるため、その点に留意した上で優先関係を定めることが望ましいであろう。 秘密情報の定義(秘密である旨の特定の要否) - 対象データについては、その管理方法について第6条で定めているため秘密情報の定義から除外している。 - 秘密情報の定義については、当事者間でやりとりされる情報を包括的に対象とする場合と、個別に秘密である旨の特定を要求する場合があるが、サービス利用段階において、秘密である旨の特定を忘れることによるリスクを避けるため、前者を採用している。 - 他方で、秘密情報を「一切の情報」と包括的に定義すると、範囲が広過ぎるとして有効性が争われ、逆に保護の範囲が狭まってしまう(秘密情報とは保護に値する情報を意味すると限定解釈される)リスクが発生する。このリスクを排除するためには、「秘密を指定」する条文を採用すればよい。 - なお、「秘密を指定」する条文オプションとその背景となる秘密情報の範囲に関する考え方については、モデル契約(新素材)「秘密保持契約」のモデル契約書に詳細に解説しているため、そちらを参考にされたい。 ## 14条(期間) ```text 第14条 本契約の有効期限は本契約締結日から●年間とする。本契約は、当初期間または更新期間の満了する60日前までに、いずれかの当事者が合理的な理由に基づき更新しない旨を書面等で通知しない限り、1年間の更新期間で、同条件で自動的に更新されるものとする。 ``` ### <ポイント> - 契約の有効期間を定めた一般的条項である。 ### <解説> - 事業会社は、見守りサービスを顧客に提供するために相当程度の額をかけて投資をすることとなるため、合理的な理由なくして一定期間で利用契約の有効期間が満了してしまうことは大きなリスクとなる。そこで、本条においては、契約期間を●年としつつ、更新拒絶がない限り自動更新することとし、合理的な理由なくして更新拒絶できないこととした。 ## 15条(解除) ```text 第15条 甲または乙は、相手方に次の各号のいずれかに該当する事由が生じた場合には、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。 1. 本契約の条項について重大な違反を犯した場合 2. 支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合 3. 手形交換所の取引停止処分を受けた場合 4. その他前各号に準ずるような本契約を継続し難い重大な事由が発生した場合 2 甲または乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めてなした催告後も、相手方の債務不履行が是正されない場合は、本契約の全部または一部を解除することができる。 ``` ### <ポイント> - 契約解除に関する一般的規定である。 ### <解説> - 以下のように、いわゆるチェンジオブコントロール(COC)が解除事由として定められることがある。しかし、そうすると、M&Aが解除事由となりかねず、上場審査やデューデリジェンスにおいてリスクと評価され得る。 - したがって、スタートアップとしては、解除事由にCOCが含まれている場合、それによる支障を説明し、削除を求めることを検討すべきである。 **【解除事由としてのCOC条項の例】** 他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合 ## 16条(契約終了後の措置) ```text 第16条 乙は、本契約が前条に基づく甲の解除により終了した場合は直ちに、期間満了または合意解除により終了した場合はその終了後3か月以降、本サービスの利用(自らのための利用および第三者のための利用いずれも含む。)を停止しなければならない ``` ### <ポイント> - 本条は、契約終了時のサービス利用者の義務を定めたものである。 ## 17条(損害賠償) ```text 第17条 乙は、本サービスの利用に際し、甲の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、甲に対して損害賠償を請求することができる。ただし、甲が乙に対して本契約に関して負担する損害賠償責任の範囲は債務不履行責任、知的財産権の侵害、不当利得、不法行為責任、その他法律上の請求原因の如何を問わず、乙に現実に発生した直接かつ通常の損害に限られ、逸失利益を含む特別損害は、甲の予見または予見可能性の如何を問わず甲は責任を負わない。 2 前項に基づき甲が乙に対して損害賠償責任を負う場合であっても、損害発生の原因となる事象発生からさかのぼって12か月間に乙が甲に対して本サービスの利用の対価として現実に支払った金額の累計を上限とする。 3 前2項は、甲に故意または重大な過失がある場合は適用されない。 ``` ### <ポイント> - スタートアップの責めに帰すべき事由により事業会社が損害を被った場合の賠償責任の範囲に関する規定である。 ### <解説> - 学習済みモデルを利用したサービスにおいてサービスの利用者が何らかの損害を被った場合、そのすべてについてサービス提供者が責任を負担すると解釈するのは困難である。これは学習済みモデルの性能等が、学習に用いられた学習用データセットに依存し、かつ処理結果も利用段階の入力データの品質に依存することに由来する。さらに、学習済みモデルを利用したサービスは、本質的には統計的処理を前提としているものがほとんどであって、学習済みモデル等により出力された結果の採否は、基本的にユーザの判断に委ねられていると考えられ、この観点からも、生じた結果につき、サービス提供者に全責任を負わせることは難しい面があることは否定できない[^3]。 - このようなサービスの特殊性に加え、学習済みモデルを利用したサービスにおいてサービス提供者が全責任を負担するとなると、サービス提供者としては結局そのリスクを利用料金額に反映させざるを得ないことになり、利用料金額の高額化を導くことになる。 - したがって、学習済みモデルを利用したサービスの場合、サービス提供者の負担する責任について一定限度の制限を加えるのが契約当事者のリスク分配という視点から妥当と思われる。そこで、本モデル契約においては損害賠償の上限規定を設けた。 - 但し、故意・重過失の場合には、上限規定は適用されないものとしている。損害発生の原因が故意による場合には、免責・責任制限に関する条項は無効になると解釈されるおそれがあり、故意に準ずる重過失の場合(例えば、重大な情報の漏洩等)にも同様に無効とするのが有力な考え方であることから、このような規定を設けた。 ## 18条(存続条項) ```text 第18条 本契約が期間満了または解除により終了した場合であっても第5条(対象データの利用)、第7条(個人情報の取扱い)、第8条(サービス利用料)、第10条(対価の不返還)、第12条(非保証)、第13条(秘密情報の取り扱い)、第16条(契約終了後の措置)、第17条(損害賠償)および第19条(準拠法および紛争解決手続き)の定めは有効に存続する。ただし個別の条項に期間の定めがある場合には、その期間に限り有効とする。 ``` ### <ポイント> - 契約終了後も効力が存続すべき条項に関する一般的規定である。 ## 19条(準拠法および紛争解決手続き) ```text 第19条 本契約に関する一切の紛争については、日本法を準拠法とし、●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。 ``` ### <ポイント> - 準拠法および紛争解決手続きに関して裁判管轄を定める条項である。 ### <解説> - クロスボーダーの取引も想定し、準拠法を定めている。 - 紛争解決手段については、上記のように裁判手続きでの解決を前提に裁判管轄を定める他、各種仲裁によるとする場合がある。 ## その他の追加オプション条項 - **権利義務の譲渡の禁止** ```text 第●条 甲および乙は、互いに相手方の事前の書面等による同意なくして、本契約上の地位を第三者に承継させ、または本契約から生じる権利義務の全部もしくは一部を第三者に譲渡し、引き受けさせもしくは担保に供してはならない。 ``` ### <ポイント> - 契約上の地位については相手方の承諾なく譲渡できないとする一般的規定である。 ```text 本契約締結の証として、本書2通を作成し、甲、乙記名押印の上、各自1通を保有する。 年  月  日 甲 乙 ``` ## 【別紙(1)】 対象データの明細 (例)介護施設において乙がカメラを設置したうえで撮影した動画データ。当該動画データについては、乙において個人情報が含まれない形に匿名加工を行うか、あるいは撮影対象である被介護者本人から第三者提供に関する同意を取得するなど個人情報保護法上に定められている手続を履践するものとする。 [^1] 追加学習の具体的な方法の概要については機械学習品質マネジメントガイドライン第1版(国立研究開発法人産業技術総合研究所)P87参照。 [^2] 介護施設側で入居者に関する情報(氏名・性別等)と送信対象となる動画データを紐づけて管理している場合、容易照合性(個人情報保護法2条1項1号)を満たし、顔写真が写りこんでいなくても当該動画データが個人情報に該当することはありうる。 [^3] 経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」(2018年6月) p35契約における取決め ================================================ FILE: LICENSE ================================================ Attribution 4.0 International ======================================================================= Creative Commons Corporation ("Creative Commons") is not a law firm and does not provide legal services or legal advice. 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For the avoidance of doubt, where Exceptions and Limitations apply to Your use, this Public License does not apply, and You do not need to comply with its terms and conditions. 3. Term. The term of this Public License is specified in Section 6(a). 4. Media and formats; technical modifications allowed. The Licensor authorizes You to exercise the Licensed Rights in all media and formats whether now known or hereafter created, and to make technical modifications necessary to do so. The Licensor waives and/or agrees not to assert any right or authority to forbid You from making technical modifications necessary to exercise the Licensed Rights, including technical modifications necessary to circumvent Effective Technological Measures. For purposes of this Public License, simply making modifications authorized by this Section 2(a) (4) never produces Adapted Material. 5. Downstream recipients. a. Offer from the Licensor -- Licensed Material. Every recipient of the Licensed Material automatically receives an offer from the Licensor to exercise the Licensed Rights under the terms and conditions of this Public License. b. No downstream restrictions. You may not offer or impose any additional or different terms or conditions on, or apply any Effective Technological Measures to, the Licensed Material if doing so restricts exercise of the Licensed Rights by any recipient of the Licensed Material. 6. No endorsement. Nothing in this Public License constitutes or may be construed as permission to assert or imply that You are, or that Your use of the Licensed Material is, connected with, or sponsored, endorsed, or granted official status by, the Licensor or others designated to receive attribution as provided in Section 3(a)(1)(A)(i). b. Other rights. 1. Moral rights, such as the right of integrity, are not licensed under this Public License, nor are publicity, privacy, and/or other similar personality rights; however, to the extent possible, the Licensor waives and/or agrees not to assert any such rights held by the Licensor to the limited extent necessary to allow You to exercise the Licensed Rights, but not otherwise. 2. Patent and trademark rights are not licensed under this Public License. 3. To the extent possible, the Licensor waives any right to collect royalties from You for the exercise of the Licensed Rights, whether directly or through a collecting society under any voluntary or waivable statutory or compulsory licensing scheme. In all other cases the Licensor expressly reserves any right to collect such royalties. Section 3 -- License Conditions. Your exercise of the Licensed Rights is expressly made subject to the following conditions. a. Attribution. 1. If You Share the Licensed Material (including in modified form), You must: a. retain the following if it is supplied by the Licensor with the Licensed Material: i. identification of the creator(s) of the Licensed Material and any others designated to receive attribution, in any reasonable manner requested by the Licensor (including by pseudonym if designated); ii. a copyright notice; iii. a notice that refers to this Public License; iv. a notice that refers to the disclaimer of warranties; v. a URI or hyperlink to the Licensed Material to the extent reasonably practicable; b. indicate if You modified the Licensed Material and retain an indication of any previous modifications; and c. indicate the Licensed Material is licensed under this Public License, and include the text of, or the URI or hyperlink to, this Public License. 2. You may satisfy the conditions in Section 3(a)(1) in any reasonable manner based on the medium, means, and context in which You Share the Licensed Material. For example, it may be reasonable to satisfy the conditions by providing a URI or hyperlink to a resource that includes the required information. 3. If requested by the Licensor, You must remove any of the information required by Section 3(a)(1)(A) to the extent reasonably practicable. 4. If You Share Adapted Material You produce, the Adapter's License You apply must not prevent recipients of the Adapted Material from complying with this Public License. Section 4 -- Sui Generis Database Rights. Where the Licensed Rights include Sui Generis Database Rights that apply to Your use of the Licensed Material: a. for the avoidance of doubt, Section 2(a)(1) grants You the right to extract, reuse, reproduce, and Share all or a substantial portion of the contents of the database; b. if You include all or a substantial portion of the database contents in a database in which You have Sui Generis Database Rights, then the database in which You have Sui Generis Database Rights (but not its individual contents) is Adapted Material; and c. You must comply with the conditions in Section 3(a) if You Share all or a substantial portion of the contents of the database. For the avoidance of doubt, this Section 4 supplements and does not replace Your obligations under this Public License where the Licensed Rights include other Copyright and Similar Rights. Section 5 -- Disclaimer of Warranties and Limitation of Liability. a. UNLESS OTHERWISE SEPARATELY UNDERTAKEN BY THE LICENSOR, TO THE EXTENT POSSIBLE, THE LICENSOR OFFERS THE LICENSED MATERIAL AS-IS AND AS-AVAILABLE, AND MAKES NO REPRESENTATIONS OR WARRANTIES OF ANY KIND CONCERNING THE LICENSED MATERIAL, WHETHER EXPRESS, IMPLIED, STATUTORY, OR OTHER. THIS INCLUDES, WITHOUT LIMITATION, WARRANTIES OF TITLE, MERCHANTABILITY, FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE, NON-INFRINGEMENT, ABSENCE OF LATENT OR OTHER DEFECTS, ACCURACY, OR THE PRESENCE OR ABSENCE OF ERRORS, WHETHER OR NOT KNOWN OR DISCOVERABLE. WHERE DISCLAIMERS OF WARRANTIES ARE NOT ALLOWED IN FULL OR IN PART, THIS DISCLAIMER MAY NOT APPLY TO YOU. b. TO THE EXTENT POSSIBLE, IN NO EVENT WILL THE LICENSOR BE LIABLE TO YOU ON ANY LEGAL THEORY (INCLUDING, WITHOUT LIMITATION, NEGLIGENCE) OR OTHERWISE FOR ANY DIRECT, SPECIAL, INDIRECT, INCIDENTAL, CONSEQUENTIAL, PUNITIVE, EXEMPLARY, OR OTHER LOSSES, COSTS, EXPENSES, OR DAMAGES ARISING OUT OF THIS PUBLIC LICENSE OR USE OF THE LICENSED MATERIAL, EVEN IF THE LICENSOR HAS BEEN ADVISED OF THE POSSIBILITY OF SUCH LOSSES, COSTS, EXPENSES, OR DAMAGES. WHERE A LIMITATION OF LIABILITY IS NOT ALLOWED IN FULL OR IN PART, THIS LIMITATION MAY NOT APPLY TO YOU. c. The disclaimer of warranties and limitation of liability provided above shall be interpreted in a manner that, to the extent possible, most closely approximates an absolute disclaimer and waiver of all liability. Section 6 -- Term and Termination. a. This Public License applies for the term of the Copyright and Similar Rights licensed here. However, if You fail to comply with this Public License, then Your rights under this Public License terminate automatically. b. Where Your right to use the Licensed Material has terminated under Section 6(a), it reinstates: 1. automatically as of the date the violation is cured, provided it is cured within 30 days of Your discovery of the violation; or 2. upon express reinstatement by the Licensor. For the avoidance of doubt, this Section 6(b) does not affect any right the Licensor may have to seek remedies for Your violations of this Public License. c. For the avoidance of doubt, the Licensor may also offer the Licensed Material under separate terms or conditions or stop distributing the Licensed Material at any time; however, doing so will not terminate this Public License. d. Sections 1, 5, 6, 7, and 8 survive termination of this Public License. Section 7 -- Other Terms and Conditions. a. The Licensor shall not be bound by any additional or different terms or conditions communicated by You unless expressly agreed. b. Any arrangements, understandings, or agreements regarding the Licensed Material not stated herein are separate from and independent of the terms and conditions of this Public License. Section 8 -- Interpretation. a. For the avoidance of doubt, this Public License does not, and shall not be interpreted to, reduce, limit, restrict, or impose conditions on any use of the Licensed Material that could lawfully be made without permission under this Public License. b. To the extent possible, if any provision of this Public License is deemed unenforceable, it shall be automatically reformed to the minimum extent necessary to make it enforceable. If the provision cannot be reformed, it shall be severed from this Public License without affecting the enforceability of the remaining terms and conditions. c. No term or condition of this Public License will be waived and no failure to comply consented to unless expressly agreed to by the Licensor. d. Nothing in this Public License constitutes or may be interpreted as a limitation upon, or waiver of, any privileges and immunities that apply to the Licensor or You, including from the legal processes of any jurisdiction or authority. ======================================================================= Creative Commons is not a party to its public licenses. Notwithstanding, Creative Commons may elect to apply one of its public licenses to material it publishes and in those instances will be considered the “Licensor.” The text of the Creative Commons public licenses is dedicated to the public domain under the CC0 Public Domain Dedication. Except for the limited purpose of indicating that material is shared under a Creative Commons public license or as otherwise permitted by the Creative Commons policies published at creativecommons.org/policies, Creative Commons does not authorize the use of the trademark "Creative Commons" or any other trademark or logo of Creative Commons without its prior written consent including, without limitation, in connection with any unauthorized modifications to any of its public licenses or any other arrangements, understandings, or agreements concerning use of licensed material. For the avoidance of doubt, this paragraph does not form part of the public licenses. Creative Commons may be contacted at creativecommons.org. ================================================ FILE: MANUAL.md ================================================ # 投稿方法 - [個別のファイルについて提案を送る場合](#個別のファイルについて提案を送る場合) - [まとめて提案をする場合](#まとめて提案をする場合) ## 個別のファイルについて提案を送る場合 1. 修正したい契約書を選択してください。 ![image](https://user-images.githubusercontent.com/16509/118996966-40b07700-b9c3-11eb-84f0-5395dc50d2ee.png) 2. 右上の鉛筆ボタンを押してください。 ![image](https://user-images.githubusercontent.com/16509/118997138-62a9f980-b9c3-11eb-99d0-d49506b7679c.png) 3. エディタに変わるので、そのまま修正をしてください。 ![image](https://user-images.githubusercontent.com/16509/118997240-7c4b4100-b9c3-11eb-8800-a2d2e2ce3d31.png) 4. 必要な修正をしたら、修正内容を入れて`Propose changes` ボタンを押してください。 ![image](https://user-images.githubusercontent.com/16509/118997382-971db580-b9c3-11eb-9c34-c36ac22c8063.png) 5. 内容を確認し、`Create pull request` を押してください。 ![image](https://user-images.githubusercontent.com/16509/118998536-7c980c00-b9c4-11eb-8323-21791868c775.png) 6. 変更内容を再度確認し、`Create pull request` を押してください。 ![image](https://user-images.githubusercontent.com/16509/118998067-1b703880-b9c4-11eb-8f1d-6416fb04fd9c.png) 以上で完了です。 ![image](https://user-images.githubusercontent.com/16509/118998141-29be5480-b9c4-11eb-980c-9d1d201bdd1a.png) ## まとめて提案をする場合 1. [ suggestions ]フォルダをクリックしてください。 ![[ suggestions ]フォルダをクリックしてください。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118370397-7976d780-b5e2-11eb-9813-4c5fee536035.png) 2. `Add file` → [ Create new file ]をクリックしてください。 ![[ Add file ] → [ Create new file ]をクリックしてください。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118370475-d1add980-b5e2-11eb-8ca4-4be48294e814.png) 3. [ METI-JPO-Model-Contract / suggestions / ]以降にあなたのアカウント名.txt(もしくは.md)と記入し、[sampleファイル](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract/tree/main/suggestions)をご参考にご意見を記載後`Propose new file` をクリックしてください。 ![[ METI-JPO-Model-Contract / suggestions / ]以降にあなたのアカウント名.txt(もしくは.md)と記入してください。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118370602-4bde5e00-b5e3-11eb-975c-f48963f89da1.png) ![[ Propose new file ]をクリックしてください。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118370864-b0e68380-b5e4-11eb-9fb5-c47fb3ee81b5.png) 4. `Create pull request` をクリックしてください。 ![[ Create pull request ]をクリックしてください。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118371220-84336b80-b5e6-11eb-8fd0-3ae39872a8fa.png) 5. 下の画面となり投稿は完了です。 ![投稿完了です。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118371386-6581a480-b5e7-11eb-8bb9-31d8df39af80.png) 6. リポジトリ画面の[ Pull requests ]にカウントされ、Commit待ちとなります。 ![リポジトリ画面の[ Pull requests ]にカウントされ、Commit待ちとなります。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118371419-88ac5400-b5e7-11eb-94cf-c969650ab37c.png)
[ Pull requests ]をクリックすると下図のようになり、pull requestが申請された状態であることが確認できます。 ![[ Pull requests ]をクリックすると、pull requestが申請された状態であることが確認できます。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118371424-93ff7f80-b5e7-11eb-8d2d-12c23ba98f04.png) 7. Commitされると以下のように[ suggestions ]フォルダに保存されます。 ![Commitされると以下のように[ suggestions ]フォルダに保存されます。](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/118395278-5ef53a80-b684-11eb-8cf2-357e1bbe8411.png) ================================================ FILE: MANUAL_ISSUE.md ================================================ # Issueを使ったコメントの方法 ## サインイン GitHubにサインインします。 アカウントを持っていない場合はアカウントを作成します。 ![サインイン](https://github.com/uedatakayuki/METI-JPO-Model-Contract/blob/main/images/Sign_in_to_GitHub.png) ## Issuesにアクセス [https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract/issues](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract/issues)にアクセスします。 ![Newissue](https://github.com/uedatakayuki/METI-JPO-Model-Contract/blob/main/images/issues.png) ## Issue作成画面 "New Issue"をクリックしたあと、テンプレート画面の"Get started"をさらにクリックします。 ![Newissue](https://github.com/uedatakayuki/METI-JPO-Model-Contract/blob/main/images/new_issue.png) ![テンプレート](https://github.com/uedatakayuki/METI-JPO-Model-Contract/blob/main/images/issue_start.png) ## コメントを作成 テンプレートに沿って、契約書についてのコメントを作成します。\ **提出後も内容を編集することができます。**\ **"Preview"タブをクリックすると提出した際の見え方を確認することができます。** ![コメント作成](https://github.com/uedatakayuki/METI-JPO-Model-Contract/blob/main/images/tutorial3.png) ## コメント提出 コメントを作成したら"Submit new issue"をクリックします。 ![コメント提出](https://github.com/uedatakayuki/METI-JPO-Model-Contract/blob/main/images/submit_new_issue.png) ## 提出完了 コメントした内容がGitHub上に反映されます。 ![提出完了](https://github.com/uedatakayuki/METI-JPO-Model-Contract/blob/main/images/submitted1.png) ![提出完了](https://github.com/uedatakayuki/METI-JPO-Model-Contract/blob/main/images/submitted2.png) ================================================ FILE: OPERATION_POLICY.md ================================================ # 「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」の改訂に向けた意見募集 GitHub運用方針 ## 1 募集内容 ・[モデル契約書(新素材編、AI編)](https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html)条文の修正内容とその背景 ## 2 注意事項 ・本リポジトリで募集している内容に関係のないコメントや、以下の事項に該当すると判断したIssueやPull Request、及びコメントは、その投稿者に断りなく、全部又は⼀部を削除する場合があります。 * 法令等に違反するもの * 公序良俗に反するもの * 犯罪行為を助長するもの * 特定の個人、企業、団体等を誹謗中傷し、又は名誉若しくは信用を傷つけるもの * 本人の承諾なく個人情報を開示・漏えいする等のプライバシーを侵害するもの * 第三者の特許権、意匠権、著作権、商標権、肖像権などを侵害するもの * 営利を目的としたもの * 記載された内容が虚偽又は著しく事実と異なるもの * [GitHub利用規約](https://docs.github.com/ja/github/site-policy/github-terms-of-service)に反するもの * その他、運用上、不適当であると判断されるもの ## 3 その他 本運用方針は、予告なく変更する場合があります。 ================================================ FILE: README.md ================================================ # 「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」の改訂に向けた、GitHub(ギットハブ)を用いた意見募集 2回目(募集期間終了) [![Markdown Lint](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract/actions/workflows/markdownlint.yml/badge.svg)](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract/actions/workflows/markdownlint.yml) 意見募集期間は終了しましたが、当リポジトリの内容をフォークして頂き編集・活用して頂くことは引き続き可能です。 ## 募集概要 ### ご意見をいただきたい方 特に、研究開発型スタートアップ・事業会社の知財・法務担当者の方。スタートアップ関係者(弁護士、弁理士、ベンチャーキャピタルなど)の方。モデル契約書を実際に使われている方、興味を持たれている方。 ### 募集内容 ①モデル契約書(新素材編、AI編)[特許庁HPリンク](https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html) 条文の修正内容とその背景  分野ごとのリポジトリにてコメントをお願いいたします。   モデル契約書(新素材編)は[こちら](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract_new-material)をクリックし["Issues"](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract_new-material/issues)にてコメントをお願いいたします。   モデル契約書(AI編)は[こちら](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract_AI)をクリックし["Issues"](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract_AI/issues)にてコメントをお願いいたします。 ②研究開発型スタートアップが事業会社と連携するときのお困りごと、お悩みごと事例。 ご参考:[Issues#39](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract/issues/39)   本リポジトリの["Issues"](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract/issues)をクリックしコメントをお願いいたします。 * 交渉の際に論点となった条項の一部とその背景事情を投稿いただくことを想定していますが、全条項に対する御意見を排除するものではございません。 * 応募に当たっては、GitHubへのユーザー登録が必要となります。匿名での投稿が可能です。 * 具体的な案件や当事者を特定できる情報は適宜匿名加工又は削除して個社、個別情報が特定・推測されないような形での投稿をお願いします。本リポジトリの[運用方針](OPERATION_POLICY.md)を事前にご確認ください。 ### 募集期間(予定) 令和3年9月8日(水曜日)~10月29日(金曜日) 意見募集期間は終了しましたが、当リポジトリの内容をフォークして頂き編集・活用して頂くことは引き続き可能です。 ## コメント方法 第1回の改善点を踏まえて、ご意見をより有効なものとするため、Pull requestsによる意見提出ではなく、Issuesにより議論した上で、取りまとめます。 Issueの立て方、コメント方法につきましては、[こちらのページ](MANUAL_ISSUE.md)に詳しく記載をしていますので、ご参照ください。 **コメントを検討している論点について既にIssueが存在する場合は、そちらのIssueに追記する形でコメントをお願いいたします。** 他の方が立てたIssueに対しても、ぜひお気軽にコメントをいただければ幸いです。  募集内容①は分野ごとにコメントをお願いいたします。   [モデル契約書(新素材編)](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract_new-material)   [モデル契約書(AI編)](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract_AI)  募集内容②は本リポジトリの["Issues"](https://github.com/meti-oi-startups/METI-JPO-Model-Contract_new-material/issues)にコメントをお願いいたします。 ## モデル契約書の概要 2020年度、経済産業省は特許庁と連携して、研究開発型スタートアップと事業会社の連携交渉する際に留意すべきポイントについて解説した[モデル契約書(新素材編、AI編)](https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html)を策定しました。 今年度は、モデル契約書の更なる改善を目指し、以下のプロセスで改訂作業を実施します。 今回の改訂プロセスでは、モデル契約書のユーザー及び現在ユーザーではない方々とも広くコミュニケーションを行い、改善に向けたフィードバックを受けることを目的として、オープンな場で不特定多数が編集に携わることが出来るシステムの1つであるGitHubを用いた意見募集を実施します。 ![image](https://user-images.githubusercontent.com/84115514/130647698-770bd116-45f1-4c1d-85af-e9d12a4d0610.png) ## GitHubを用いることの意義 社会変化のスピードが急激に加速した今日において、革新的なイノベーションを創出するためには、社会情勢の変化やプレーヤーの価値観の変化等に柔軟に対応しながら、政策の価値を最大化できる立案手法を検討するべきと考えます。 政府が新たに戦略や方針等を策定する際には、有識者の御知見及び国民の御意見等を聴取した上で立案することが求められます。今までは、有識者委員会やパブリックコメントを通じて、必要な情報収集を実施してきましたが、今後は、既存の方法に加えて、様々なプレーヤーが継続的にフラットに意見を発信できるような仕組みを構築していくべきと考えます。 今回のモデル契約書の改訂においては、GitHubというツールを用いて、実際にモデル契約書を使用するユーザー等とコミュニケーションを行うことで、より実態に即した改善を目指すとともに、当該コミュニケーションが継続的に実施されることを期待しています。 * 頂いた御意見に関しましては、検討委員会で精査し、モデル契約書改訂の検討材料とします。 ## 参考情報 [スタートアップ企業と事業会社の連携](https://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/business_partnership_contracts.html) 経済産業省 ================================================ FILE: suggestions/.keep ================================================